更新日 2010.12.13
TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
いよいよ2011年4月以降に変更する会計処理や誤謬について、「遡及処理基準」が適用されます。従来の日本の会計慣行にはなかった考え方も多く、その論点さえ十分に整理されていない企業も多いようです。このコラムでは、「遡及処理基準」の重要な論点を整理し、解説します。
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、本コラムでは「遡及基準」といいます)では、過年度に遡及するかどうかを整理するにあたって、以下の4つの項目に整理しています。
- 会計方針の変更
従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から、他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更すること - 表示方法の変更
従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から、他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更すること - 会計上の見積りの変更
新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更すること - 誤謬の訂正
原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤りを訂正すること
そして、上記4項目について、遡及基準で遡及するのか、遡及しないのかを整理すると、以下のようになります。
図からわかるように、遡及するかどうかを判断するにあたって、「3」の会計上の見積りの変更になるかどうかが、実務上極めて重要になります。会計上の見積りの変更だけは、遡及しなくてもよいからです。
しかし、会計方針の変更なのか、会計上の見積りの変更なのかを判別することができないケースが多くあると思います。
そこで、遡及基準の第19項では、「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合については、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行わない」としています。
この第19項は実務上非常に重要になると思います。
会計監査人との協議において、会計上の見積りの変更であることが明確に説明できれば当然問題にはなりませんが、「判別しがたい」という状況であれば、遡及しなくてもすむケースが増えるでしょう。
ちなみに、第20項は、「有形固定資産等の減価償却方法及び無形固定資産の償却方法は、会計方針に該当するが、その変更については前項により取り扱う。」としています。従来日本の会計制度で、会計方針として取り扱ってきた有形固定資産等の減価償却方法などを、第19項で規定した「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」として位置づけ、会計方針の変更ではあるけれど、遡及しないこととしているのです。
筆者紹介
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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