更新日 2010.11.29
TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
四半期ではすでに開示されている新セグメント情報ですが、まだ混乱し誤解している企業もあるようです。また年次決算でのみ開示すべき項目もあります。このコラムでは、間違いやすいポイントについて解説します。
平成22年度から適用になっているセグメント基準の最大のポイントは、「マネジメント・アプローチ」が全面的に採用されているということです。
ここで注意して欲しいのは、「マネジメント・アプローチ」はセグメント基準に限って採用される考え方ではない、ということです。言い換えれば、「マネジメント・アプローチ」は、セグメント基準以外の会計領域にも、採用されうる考え方なのだ、ということです。
実際に、セグメント基準以外の会計領域で「マネジメント・アプローチ」採用の動きがありました。その具体例は以下の二つです。
- 財務諸表の表示
- 非継続事業(廃止事業)
以下、この二つの領域で、どのように「マネジメント・アプローチ」が導入されようとしたのかを解説します。
1.財務諸表の表示
現在IAS第1号「財務諸表の表示」という会計基準が改訂作業中です。
こちらはもうIASBから、2008年10月にディスカッション・ペーパー(論点整理)「財務諸表の表示に関する予備的見解」 が公表されていて、さらに、同じくIASBから、2010年7月1日に公開草案「財務諸表の表示」のスタッフ・ドラフトも公表されたばかりなので、ご存知の方も多いと思います。
ディスカッション・ペーパーでは、資産及び負債の分類についてマネジメント・アプローチが明示的に提案されていました。これは、有形固定資産でも、通常の営業活動で使用するのか、投資活動で使用するのか、経営者が常日頃意識している内容を基本として、財政状態計算書(貸借対照用)の営業カテゴリーと投資カテゴリーのどちらに表示するかを決めるのだという考え方です。ただ、スタッフ・ドラフトでは、分類プロセスの説明に「マネジメント・アプローチ」という用語を用いないことになりました。
その理由は、マネジメント・アプローチは、企業間の比較や相対的な業績の評価を行うために役に立つけれども、主観的になることが懸念され、企業間の比較可能性が低下するからだとされています。結局、「財務諸表の表示」では、マネジメント・アプローチは採用されなかったのですが、セグメント情報ではない、基本財務諸表そのものの分類表示の領域でも、マネジメント・アプローチの採用が議論されていたという事実に注意が必要なのです。
2.非継続事業(廃止事業)
IASBから、2008年9月15日に公表された公開草案「廃止事業-IFRS第5号の改定案」で、廃止事業の定義が大きく変わることが提案されています。当改定案では、廃止事業の定義として以下の項目を示しています。
「事業セグメント(IFRS第8号で定義されている)であり、処分されたか又は売却目的に分類されているもの」つまり、セグメント基準で採用されたマネジメント・アプローチにより決定された「事業セグメント」が、廃止事業の単位になるというものです。こちらもまだ正式に決定された会計基準ではありませんが、今のところ、「廃止事業」の会計基準にマネジメント・アプローチが明示的に採用されようとしていることに注意が必要です。
このようにセグメント基準以外の領域に、マネジメント・アプローチの採用が拡大しているのは、概念フレームワーク第11項で示されている「公表される財務諸表は、経営者が利用している情報に基づく」という考え方が基本にあるからです。したがって、今後の決算実務においては、管理会計情報を十分理解したうえで財務諸表の作成と開示を行うことが重要になるでしょう。
筆者紹介
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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