更新日 2010.11.15
TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
四半期ではすでに開示されている新セグメント情報ですが、まだ混乱し誤解している企業もあるようです。また年次決算でのみ開示すべき項目もあります。このコラムでは、間違いやすいポイントについて解説します。
2011年4月以降から遡及処理が原則化されます。これまで日本の会計制度にはなかった制度です。遡及処理の会計基準は、正確には「会計上の変更及び誤謬の訂正」(以下、遡及処理基準といいます)というもので、2009年11月26日に公表され、2011年4月以降から適用になります。
セグメントの会計基準は、2009年3月27日に改訂され、2010年4月以降に開始する事業年度から適用になっています。(以下、新セグメント基準といいます)
この、後から公表された遡及処理基準の取り扱いが、先に公表された新セグメント基準に組込まれているのです。
新セグメント基準の第27項です。
企業の組織構造の変更等、企業の管理手法が変更されたために、報告セグメントの区分方法を変更する場合には、その旨及び前年度のセグメント情報を当年度の区分方法により作り直した情報を開示するものとする。
企業は生き残りをかけて、あるいはさらなる飛躍のために、「事業部制を廃止してカンパニー制を導入したり」、「カンパニー制を見直して事業本部制に戻したり」して、組織構造の変更や、管理手法を変更することがあります。このような経営上の重大な判断を伴う対応をした結果、将来のキャッシュ・フローにどのような期待ができるのか。投資家にとっても非常に重要な情報になります。
将来のキャッシュ・フローを予測するために必要なのが、「過去の業績」なのです。
新セグメント基準の適用指針第24項にも、「財務諸表の利用者が、企業の過去の業績を理解し、将来のキャッシュ・フローの予測を適切に評価する」という記載があります。「過去の情報」は「将来を予測」するために利用されるのです。この考え方が、遡及処理基準の基本となる考え方なのです。
ここで根本的な話は置いておいて、今後の実務的な話をいたしましょう。
現在、「事業セグメント」をどうするか、さらに、「事業セグメント」を集約・結合させた「報告セグメント」をどうするかについては、第1四半期の際に会計監査人と協議されて、決着がついているはずです。
しかし、最近いただくご相談の中に、「当初は従来通りのセグメンテーションで良い」と言っていた会計監査人が、「やっぱりだめだ、見直せ」と言い始めたとか、「これからはマネジメント・アプローチだから、役員会資料の管理単位を事業セグメントにしたい」と会計監査人に説明したら、「継続性の観点から、おたくは従来通りでやった方が良い」と言い出して、不信感を募らせているといった内容のものが増えています。現場の公認会計士は、新セグメント基準を十分正確に理解していないかもしれません。
私が問題視しているのは、事業セグメントや報告セグメントについて、今年度合意したものを、来年度になって「だめだ」と言われる危険を感じているということです。その場合には「遡及処理」をしなければならないということです。
ですから、一度決まったセグメンテーションであっても、少しでも疑問があれば、今期中に会計監査人に確認しておくことが、実務上よろしいのではないかと思うのです。
筆者紹介
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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