更新日 2010.11.01
TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
四半期ではすでに開示されている新セグメント情報ですが、まだ混乱し誤解している企業もあるようです。また年次決算でのみ開示すべき項目もあります。このコラムでは、間違いやすいポイントについて解説します。
新しい「セグメント基準」は、「マネジメント・アプローチ」が採用されています。
「マネジメント・アプローチ」は、「経営者が利用している情報に基づいて財務報告をする」というものです。したがって、「マネジメント・アプローチ」を採用した「セグメント基準」によって作成された「報告セグメントの情報」をうまく利用すれば、「経営者の能力」をある程度評価することができるでしょう。
なぜなら、経営者が経営判断を している情報を知ることにより、その経営者が経営判断のために、その情報を選択した「センス(経営センス)」などがわかるからです。
1.事業セグメント
まず、「報告セグメント」の基本となる「事業セグメント」から、何がわかるでしょうか。「事業セグメント」は、経営者が、ヒト・モノ・カネといった、いわゆる「経営資源」を最も効率よく配分し、もっとも高いパフォーマンスを得るために選んだはずの管理単位です。したがって、「事業セグメント」情報を、集約・結合した結果の「報告セグメント」の情報では、企業の実態が見えにくいとすると、経営者はいつも企業の実態が見えにくい情報で経営判断をしているということになるでしょう。センスの良い経営者であれば、的確な判断ができる管理単位にするはずです。
2.報告セグメントの数
「報告セグメント」の「数」から、何がわかるでしょうか。「報告セグメント」の「数」が少ないということは、それだけ資源配分を最適にするための判断に要する負担が少ないと推測できるでしょう。特に、「報告セグメント」の「数」が「一つ」しかない企業は、ほとんど同じ性質のビジネスしかしていないということですから、資源配分についてはほとんど悩まないで済んでいる経営者だと推測できるのです。
3.利益
「報告セグメント情報」として開示されている「利益」から何がわかるでしょうか。もし、「報告セグメント情報」として開示されている「利益」が「営業利益」だとすると、その経営者は、有利子負債から生じる借入利息や世界経済の影響を受ける為替相場から生じる損益などについて、事業セグメントの部門長に責任を持たせていないか、問題意識を持たせていない経営を行っているということが推測できます。
4.資産
「報告セグメント情報」として開示されている「資産」から何がわかるでしょうか。「セグメント情報」として「資産」を開示していないとすると、この経営者は損益オンリーの企業経営を行っていると推測できます。したがって、儲かっていても、「いかに首尾よく儲けたか」ということを追求していないということです。同じ利益でも、少ない資産を利用して得たすばらしい結果なのか、潤沢な資産を利用して微々たる利益しか得られなかったのかを、経営上把握していないということがわかります。
5.差異調整に関する情報
「利益」や「資産」などの「差異調整に関する情報」から、何がわかるでしょうか。この情報は、「報告セグメントの金額」と「財務諸表の金額」の差異を説明する情報です。したがって、「管理会計数値」と「制度会計数値」の不一致について説明する情報だと言えます。ここで多くの、あるいは多額の「差異調整項目」がある場合には、企業が制度会計に準拠して作成し、短信などにより発表した財務数値と、かけ離れた情報で経営・管理を行っているということがわかります。現在公表する数値は、業績予想と関連づけられています。したがって、制度会計とかい離した管理会計を行っている経営者は、投資家にコミットしたとまでは言わないまでも、投資家にある程度期待させている数値と、かけ離れた数値で日常の経営判断を行っている経営者だと言えるでしょう。つまり、外部に期待させた数値を無視した経営をしていると疑われる可能性があるのです。
筆者紹介
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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