更新日 2010.10.04
税理士 畑中孝介
税理士 岡田淳
グループ法人税制・連結納税制度と組織再編
組織再編の手法の判断においては、連結納税制度・グループ法人税制とのかかわりを十分に理解することが重要となる。再編の手法によってはその後の連結納税やグループ法人税制の税負担に大きな影響を及ぼすことがある。また、その場合の税負担は資産の含み益や繰越欠損金等重要な税務項目によるものとなるため、影響は非常に大きなものになる。
(1) グループ法人税制・連結納税制度における組織再編について
今回、グループ法人税制が導入され、あわせて連結納税制度が改正されることとなり、グループ内での資金移転・再編については手法を問わず、原則損益が繰り延べられることとなった。
今税制改正により、組織再編が連結納税・グループ法人税制に影響を与える可能性がある項目は次の通りである。
- 連結納税における子法人の欠損金持ち込み制限の緩和
- 連結納税における時価評価対象法人の見直し
- 現物配当・抱き合わせ株式に関する改正
- グループ内での自己株式の譲渡
- 適格合併等の場合における繰越欠損金の利用制限の緩和
- 清算所得課税の所得課税への移行
以下に、具体的な影響例を記載することとする。なお、組織再編が与える税務への影響としては2つの視点から検討する必要がある。
- 含み損益の繰延べ
- 欠損金の引継ぎや利用制限
(2) 組織再編手法が連結納税制度へ与える影響
グループ内での組織再編については、原則として損益が繰延べ・繰越欠損金の持込みも可能となったが、一方外部との再編については一部の例外を除き損益の繰延べも欠損金の持込みもできないので注意が必要である。
連結納税制度において、再編手法が与える影響としては、「時価評価」と「欠損金の切捨て」の2つの項目に大別される。欠損金の切捨てが今回改正となり、その適用対象については時価評価と統一されることとなった。次の法人については、時価評価対象外となり、繰越欠損金も持ち込むことが可能となる。
- 5年以上前から子会社であった場合
- 株式移転による完全子法人
- 適格合併等による子法人(一定の制限がある)
- 適格株式交換による完全子法人等で一定の要件を満たすもの
また、今改正においては、子法人の欠損金が持ち込み可能となったが、あくまでも当該子法人の所得を限度として所得通算ができるものであり、親法人の欠損金のように連結全体での通算が可能ではないので注意が必要である。
また、子法人の欠損金であっても、新設株式移転による完全子法人の場合には当該子法人の所得に限定されずグループ全体で所得通算が可能となる。これは、子法人といっても事実上の親法人と同様であることを配慮したものとされている。
これらを勘案すると、たとえば持株会社による統合を選択する際、株式交換を使うか株式移転を使うかで大差ないように思えるが、税務においては大きな違いを生むことに注意が必要である。
また、今回の改正によってグループ内の非適格再編についても、グループ内の資産移転であるとし譲渡損益が繰り延べられることとなったため、いわゆる意図的な適格外しによる、課税所得の圧縮や繰越欠損金の利用についても規制されることとなった。
(3) M&Aにおける手法選択と時価評価・欠損金の利用の差異
そのほかにもM&Aという手法における再編については、連結納税上差異が生ずる場合があるので注意が必要となる。
まず現金買収になる場合や非適格再編の場合には、損益繰延や欠損金の持込みは原則的に持込めないことになる。
適格株式移転に関しては従前から欠損金の持込みは可能となっており、適格株式交換についても平成22年度税制改正で一定のものは持込可能となっている。
また、適格合併の場合には、原則として持込みが可能となっており、特定資本関係(50%超の資本関係)発生後5年以上が経過している場合には持込み、利用ともに制限がない。
平成22年度税制改正によって、適格再編の場合には欠損金の持込みが可能になっており、一見各制度が完全一致しているかのように思えるが、図表3のとおり、欠損金のグループ全体の利用については、現金買収・非適格株式交換が制限されるのはもちろん、適格株式交換の場合にもグループ全体での利用には制限があることから、再編の手法については十分な検討が必要である。
買収スキーム | 時価評価 | 欠損金 | ||
---|---|---|---|---|
持込 | 当該法人での継続利用 | グループ全体での利用 | ||
現金買収 | 対象 | 不可 | 不可 | 不可 |
適格株式交換 | 対象外 | 可能 | 可能 | 不可 |
株式移転による 新設持株会社の設立 |
対象外 | 可能 | 可能 | 可能 |
適格合併 | 対象外 | 可能 | (消滅のため対象外) | 可能 |
(4) 租税回避行為への対応の統一化
今税制改正で、組織再編税制・グループ法人税制・連結納税制度間での租税回避行為への対応はおおむね統一化されることとなった。連結納税制度の欠損金の持込み制限において5年以上保有法人の持込みが可能になったなど、長期保有法人への対応がなされたことによる。
この改正によって、含み損の顕在化・欠損金の利用制限については原則として5年以上グループ内にあったかどうかによって、利用制限の有無が変わることに統一化されたといえる。(図表4参照)
また、現行ではいわゆる包括的否認規定については、組織再編税制および連結納税制度にはあるものの、グループ法人税制については置かれなかった。今後いわゆる100%外しが目に余るような事態になった場合どのような対策がなされるか注目される。
繰越欠損金の利用制限 | 含み損の利用制限 | |
---|---|---|
連結納税制度 | 子会社の繰越欠損金の持込制限(法法81の9) | 時価評価(法法61の11①) |
組織再編税制 | 繰越青色欠損金の引継ぎおよび損金算入制限(法法57③) | 特定資産譲渡等損失額損金不算入規定(法法62の7) |
グループ法人税制 | 所得通算不可のため規定なし | グループ法人間の譲渡損益の繰延べ(法法61の13) |
本文は『旬刊経理情報(6月1日号No.1249)』に掲載された記事の転載となります。
筆者紹介(畑中孝介)
税理士 畑中孝介(はたなか たかゆき)
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員
著書
『税務に強い会社は成長する!!』(大蔵財務協会)
『平成22年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)
システム・コンサルティング事例
株式会社大和証券グループ本社様
ホームページURL
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TKC企業グループ税務システム小委員会委員
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