更新日 2010.08.09

IFRS導入とその影響

第9回 連結会計

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公認会計士 中田 清穂 TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年8月9日掲載

【みなし取引日】

 市販の書籍やセミナーであまり触れられていない論点として、「みなし取引日」の論点があります。これは見落とされやすい論点の一つです。

 見落とされやすい理由は、IFRSに明確な規定がないからです。

 IFRSに規定があり、それが日本基準と異なれば、基準の相違項目として容易に気付きます。市販の書籍やセミナーでは、こういった論点が主に解説されています。しかし、IFRSに規定がないけれど、日本基準には規定があるケースが、最も相違点として気付きにくいのです。特に簡便的な容認規定が日本基準にある場合は、実務的にも影響が大きいでしょう。
 日本では容認規定があれば、実務的にはそれに飛びつく傾向があり、もうそれが当たり前のようになるのです。ですから、これまでの容認規定を根拠に実務ができなくなってしまうと、困るケースが多いのです。

 日本では、期中に持分比率の変動を伴う資本異動があった場合には、期首か期末に異動があったとみなして連結手続を行うことができます。いわゆる「みなし取得日」による容認規定です。
 これにより、持分比率は期首か期末時点のものだけを計算すればよく、子会社の当期利益を少数株主に配分する処理も、その会計期間の当期利益に期首か期首みなし後の持分比率を乗じることで対応が可能でした。

 しかし、IFRSでは、この「みなし取引日」による容認規定がありません。

 期中に持分比率の変動を伴う資本異動があった場合、その時点(異動が発生した時点)までの損益計算書を子会社から入手し、その時点までに発生した利益に、異動前の持分比率を乗じ、異動後に発生した利益には、異動後の持分比率を乗じることで、正しく少数株主損益を計算するのです。
 子会社が転換社債を発行していて、毎日のように株式への転換が行われ、持分比率が変わるようなケースでは、大変煩雑な手続きが発生します。
 したがって、これまで一会計期間に必要な子会社の損益計算書は、期首から期末までの期間を対象とするものだけで良かったのですが、今後は、異動があった日までの損益計算書も入手しなければなりません。

【換算処理】

 子会社が海外子会社の場合には、換算処理をしておく必要があります。
 換算と言えば、海外子会社の外貨建て損益計算書の換算レートの論点に注意が必要です。
 海外子会社の外貨建て損益計算書は、「取得日レート」での換算が原則ですが、「平均レート」も容認されています。しかし、為替相場が著しく変動している期間については、「平均レート」での換算は認められません。
 例えば、3月決算の場合で、6月と7月に著しい為替相場の変動があった場合には、4月から5月、そして8月から3月までの損益項目については、「期中平均レート」を使用し、6月と7月は、それぞれの月のレートを使用することになります。
 つまり、この海外子会社からは、5月までの損益計算書と、6月の損益計算書と7月の損益計算書、3月末までの損益計算書をすべて提出してもらわないと、正しく換算処理ができないことになります。

 「みなし取引日規定がない」こと、「為替相場の著しい変動時の取引日レートでの換算」の2つの点で、今後は子会社から提出させるべき損益計算書に漏れがないように留意するとともに、従来よりも手間のかかる処理になる可能性があることに注意が必要でしょう。

 最後に、連結決算で注目を集めている論点に、「決算日ズレ」があります。
 「子会社の事業年度を親会社と合わせなければならない」と言っている人もいますが、これは不正確です。事業年度を合わせる必要はなく、仮決算をして、親会社と同じ日付の財務諸表を作成するだけで良いので、混乱しないようにしてください。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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