IFRS導入とその影響

第8回 収益認識

更新日 2010.07.26

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公認会計士 中田 清穂 TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年7月26日掲載

 最近影響度調査のコンサルティングなどをしていて、危ないなと感じるのは、以下のような発言です。

 「IFRSの問題が発覚した当初は、売上計上の出荷基準がダメだということであわてたが、当社ではあまり影響がないので、収益認識の問題はあまりないと判断している」

 確かに、出荷して当日には顧客に納品されるとか、出荷後顧客に到着するまでの日数が合理的に算出できるといったケースが多く、そういった場合には、あまり売上を計上するタイミングについて悩まないかもしれません。

 しかし、そのような場合でも、以下のようなケースは要注意です。

  1. 売上割戻が予定されているが、割戻率が見積もれない場合(自動車関連ビジネスなど)
  2. 販売後返品できる契約があるが、返品率が見積もれない場合(化粧品ビジネスなど)
  3. 製品保証条項があるものの、保証請求率が見積もれない場合(各種メーカーなど)

 これらは、従来の日本の会計基準では、出荷時に売上を計上し、決算時に引当金の計上を検討して、合理的に見積もれないことから、引当金の計上はしないという処理をしていたと思います。
 つまり、売上は計上し、引当金は計上しないということになります。

 しかし、IFRSでは、割戻や返品などは費用の引当計上ではなく、売上高の控除項目であり、合理的に見積もれない場合には、売上高の計上そのものが全額できないケースが多くなると思います。
 つまり、引当金だけでなく売上も計上しないということになります。

 例えば、1)の売上割戻では、割戻率が1年間の取引高に応じて決まる場合、四半期での売上高は第3四半期まですべて0(ゼロ)で、年度決算で全額(割戻控除後で)売上高を計上することになりかねません。
 また、得意先の事業年度とこちらの事業年度が異なる場合には、得意先でいう年間取引高の確定が、こちらの翌年度にずれ込む場合には、ほとんどの売上高が当期には計上できず、翌年度で一度に計上されかねません。

 したがって、IFRSの収益認識の検討をする際には、売上計上のタイミングばかりに目を奪われず、販売に係る契約や取引形態、そして決済の実態にまで注意を広げていただきたいのです。

【受注情報】

 まだ改訂中で、IFRSの正式な会計基準ではないので、まだあまり市販の書籍やセミナーでも解説されていない論点に、受注情報に関連するものがあります。
 これまでの、収益認識の会計基準の改訂動向を見ていると、従来の会計処理とは大きく異なることが検討されていることがわかります。

  1. 受注時に「資産」と「負債を」認識する。
  2. 注文を履行した時に、「負債」を取り崩し、「収益」を計上する。1)の「資産」の勘定科目は、「売掛金」などの従来の勘定科目に振り替える。
  3. 受注情報については、注記する。その内容は、受注残の増減明細です。

これまで、受注情報は財務情報でも会計情報でもありませんでしたから、大きな変化です。しかし、IFRSの概念フレームワークにある、財務諸表の目的が、利用者の意思決定のためであり、利用者の関心事が将来のネット・キャッシュ・イン・フローであるならば、当然の改訂とも思えますね。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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