IFRS導入とその影響

第7回 引当金

更新日 2010.07.12

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公認会計士 中田 清穂

TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年7月12日掲載

 IFRSで引当金に関する規定は、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」です。

 日本人の我々にとって、「引当金」と「偶発負債」には馴染みがありますが、「偶発資産」という言葉はほとんど目にしてこなかったと思います。したがって、「引当金、偶発負債及び偶発資産」と表現されても、目に見えているのについつい見えなかったかのように読み飛ばし、無視しがちなのが「偶発資産」です。

 「偶発資産」というのは「偶発負債」とまったく反対の概念で、IAS第37号第32項では、以下のように定義されています。
 偶発資産とは、通常、計画外あるいは予想外の事象から発生し、企業に現金収入などをもたらす可能性のあるものです。
 例として、企業が法的手段により他社を訴えているけれど、勝訴するか敗訴するかが不確実な場合の損害賠償請求権などがあげられています。
 つまり、「勝てば」もらえる資産です。

 このような偶発資産は、貸借対照表(BS)に計上することは許されていません。
 「偶発資産はBS計上してはいけない...」 (←日本では議論にすらならないでしょう。)
 「訴えられていれば偶発負債として注記するか、あるいは、敗訴の可能性が高く賠償額の算定が合理的にできれば、引当金としてBS計上する」というのは、何の違和感もない。
 日本人の感覚からすると当たり前のこの規定。明文規定があること自体、違和感がありますね。

 IFRSでは、なぜ偶発資産についての明文規定があるのでしょう。

 この根本に、概念フレームワークで説明されている「中立性」の考え方があります。
 「中立性」の考え方は、財務諸表が利用者にとって信頼できる情報であるために、重要なポイントとしているものです。

 世の中には、いろいろな情報があります。
 みなさんもその種々雑多な情報の中から信頼できる情報を利用するでしょう。

 たとえば、「あのレストランはおいしいらしい」という情報があると、それだけでそのレストランを利用するでしょうか。常日頃信用できる人の言葉であれば、その情報を利用するでしょうし、そうでなければ、グルメ情報の口コミ情報を検索して、どれだけ多くの人が評価しているか確認しませんか?
 これは「おいしい」という情報に信頼性を付与しているのです。

 信頼できる情報は、事実をそのまま伝えるものです。そのためには、何らかの思惑などの意図が混ざってはいけません。過大にも過少にも表現してはいけません。
 これが情報の中立性というものです。

 従来日本で原則となっている「保守主義」の考え方は中立ではありません。
 「費用や損失は発生した時に早めに計上し、収益や利益は、より確実になった時に後から計上する」と言うのが、従来日本での「健全な会計慣行」ということでしたが、IFRSおよび概念フレームワークでは認められません。中立ではないからです。

 日本では、保守主義の考え方から、訴訟などについても「訴えられた場合」についてだけ、引当金にするか偶発債務にするかなどといったことを考えれば良かったのです。しかし、IFRSでは保守主義がありませんから、「訴えた場合」にも同様に検討が必要なのです。
 「訴えられた場合」も、「訴えた場合」も等しく取扱う。つまり、中立的に取り扱うのです。

 結局、訴えている訴訟について、勝訴の確率が高く、獲得できる賠償金なども合理的に見積もれれば、資産としてBS計上し、収益としてPL計上しなければなりません。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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