IFRS導入とその影響

第6回 固定資産会計

更新日 2010.06.28

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公認会計士 中田 清穂

TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年6月28日掲載

  • 税法上の「耐用年数表」がほとんど認められない...
  • 耐用年数は毎期見直し...

 日本の会計基準とIFRSで最も相違があるのが固定資産会計でしょう。

 特にIFRSベースの減価償却費の金額は、税法上の金額と異なることが予想され、それは、棚卸資産の原価計算にも影響を及ぼします。場合によっては、原価計算システムのダブル・スタンダード対応が必要なケースもあるでしょう。製造子会社なども含めて、二つの製品原価をどのように取り扱うのか。現場でも経営サイドでも、「どっちがホントの原価なの?」などと混乱しないようにしなければなりません。
 また、耐用年数はこれまで、資産を使用する現場部門ではわからなかったため、経理部門が決定していたと思います。しかし、IFRS対応となると、現場部門がその資産の仕様書や利用計画に基づいて、耐用年数を決めなければならなくなります。
 そして、正確性・網羅性・正当性の観点から、内部統制上適切なプロセスで、原価計算に利用できるようにする必要も出てきます。

【農林水産関連ビジネスの有形固定資産】

 現在市販されているIFRS関連の書籍にもほとんど触れられず、解説されていないけれども、影響が少なくないのではないかと心配している論点があります。

 それは、「農業」(IAS第41号)です。

 「農業」というと特殊な業種なので、自分たちにはほとんど関係ないと思い、全くこの基準書に目を通していない方々も多いと思います。事実、監査法人が出版している書籍でも、「農業」(IAS第41号)はほとんど取り上げられていないのです。
 しかしIAS第41号は、一般的に私たちが「農業」という言葉でイメージしている活動だけではないのです。

 たとえば、家畜の飼育、林業、養殖漁業など、要するに「農林水産業」と言うべき活動を対象にしているのです。具体的には、ハムを作っている企業が、自社か子会社がブタを飼育し、これを屠殺してハムにしている場合や、ツナの缶詰を作っている企業が、自社か子会社がマグロを養殖している場合、製紙会社が製紙事業のために森林を保有している場合などです。さらに、最近ではスーパーマーケットなどが、自社ブランド(PB)として自社グループで農場や牧場をもち、その製品を販売している場合などでも注意が必要ではないでしょうか。

 そしてこの「農業」(IAS第41号)の規定は以下のような特徴を持っているのです。

  1. 「生物資産」の測定について、「取得原価モデル」が認められず、「再評価モデル」で測定することしか認められていない。
  2. 「生物資産」から収穫された「農産物」は、収穫した時点で、「棚卸資産」と収穫したことによる「収益」を計上する。

 1)について補足すると、先のブタやマグロは固定資産ですが、毎期公正価値で評価しなければならないのです。従来日本の実務では、飼育するのに要した費用などを取得原価にしていたと思いますが、全く異なる決算処理が必要になるでしょう。「生物資産」の例として、羊、植林地の樹木、植物、乳牛、豚、ぶどうの木などがあげられています。

 2)について補足すると、「生物資産」から収穫されたものは「農産物」として取り扱われます。「農産物」の例としては、羊毛、伐採された木、綿花、牛乳、賭殺体、ぶどうなどがあげられています。

 乳牛から乳を絞ったら、その瞬間に「牛乳」という棚卸資産がこの世に出現し、収益となるのです。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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