更新日 2010.06.14
TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。
2010年6月14日掲載
「廃止事業」という言葉は、これまでの日本の会計実務では聞き慣れない言葉ですね。
しかし、これまでに子会社、工場、店舗や支店などを売却・処分したことがある会社は多いのではないでしょうか。
このように過去、子会社、工場、店舗や支店などを売却・処分したことがある会社は、今後も同様の売却や処分をすることが十分に考えられます。その場合、IFRS第5号で規定されている「廃止事業」の手続きが必要になる可能性はかなり高いと思われます。
つまり、「廃止事業」の会計基準をきちんと理解しなければならない企業は、日本でもかなり多いと思います。
「廃止事業」の具体的な手続きは以下のようになります。
期末時点でまだ売却していないが取締役会で売却が決定されているなど、「売却目的保有」の要件を満たした売却案件がある場合、その案件に係る非流動資産については、簿価と公正価値(売却費用控除後)の低い方の金額で、その他の資産とは別の区分を設けて、貸借対照表(財政状態計算書)上に表示させるのです。
この売却案件が子会社の場合には、さらに手続が複雑になります。
「売却目的保有」の要件を満たした会社の株式があり、その会社が子会社の要件も満たしている場合には、連結対象の子会社になるため、その子会社の財務諸表も取り込んで合算し、連結範囲内の他の会社との取引や残高を消去しなければなりません。
消去して残った金額(グループ外部に対する金額と等しいはず)のうち、非流動資産については、資産の一つ一つについて公正価値(売却費用控除後)を測定し、消去して残った金額(簿価)とどちらが大きいかを比較します。
もし公正価値(売却費用控除後)の方が簿価よりも低い場合には、評価損を計上し、公正価値(売却費用控除後)の方を連結貸借対照表(連結財政状態計算書)に表示します。
また、簿価の方が公正価値(売却費用控除後)よりも低い場合には、簿価のままで良いのですが、連結精算表の各勘定科目に含まれている金額から、「売却目的保有」の要件を満たした子会社の簿価分を控除して、通常の区分での表示金額とします。
ややこしいですね。ちょっと乱暴に表現すると以下の流れになります。
「足して引いて切り取って、別記して評価替えする」
この意味を以下に示します。
- 足す:「売却目的保有」の要件を満たした子会社の財務諸表を足す(合算)。
↓ - 引く:グループ内取引や残高を消す(消去仕訳)。
↓ - 切り取る:「売却目的保有」の要件を満たした子会社の消去後の金額を、各勘定科目から差し引く。
↓ - 別記する:3)で切り取った金額を「廃止事業」などの別区分で財務諸表上に表示する。
↓ - 評価替える:4)で別記された資産のうち、非流動資産について低価法を適用する。
なお、一度「売却目的保有」とした子会社について、結果的に売却しなかった場合には、過去に遡って売却目的保有ではなかったとして財務諸表を作り直す、つまり「遡及する」必要があるので、注意が必要です。
また、「廃止事業」についても「マネジメント・アプローチ」が導入されそうなので、ここでも管理会計や連結経営とのかかわりが深くなりそうです。
プロフィール
公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員
著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)
ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/
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