IFRS導入とその影響

第3回 セグメント会計

更新日 2010.05.12

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公認会計士 中田 清穂

TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年5月17日掲載

 3月決算の企業では、もう今期から適用されるセグメントの新しい会計基準(以下、基準)。実務上は、今年の6月末の第1四半期からの適用になります。

 この会計基準が公表された2年前から、セグメントをテーマにしたセミナーで話し続けていますが、最近になればなるほど参加者が増え、関心の高まりを感じます。

 もう2年も前に公表されたのに、これから理解し始める経理担当者がとても多いと感じます。そして、セミナー終了後のアンケートで、「これまでの理解が間違っていたことがわかった」とか「そんな意味だったとは知らなかった」というご感想をわざわざ記入されることが非常に多いのが、この基準をテーマにしたセミナーの特徴です。

 それも仕方がありません。

 この基準、とてもわかりにくいんです。
 そして、ワナのようでワナでない、ミステリアスな...

 だから、「読み進めていくと理解できたようで、どこがしっくりとこない感覚が残ってしまう」、そんな方々も多いのではないでしょうか。

 例えば...

 「事業セグメント」の要件を規定している基準第6項(3)に「分離された情報を入手できるもの」という規定があります。

 「分離された情報を入手できる」ってどういう意味でしょうか?

 わからない言葉はないし短いので、スッと読みすごしてしまいがちな要件ですね。

 「分離された情報を入手できるもの」、これ、とても重要なんです。

 「分離する(能動態)」ものではなく、「分離された(受動態)」ものでなければならないのです。これを決算実務的に表現するとこうなります。

 「これまでのセグメント情報の作成実務は、連結対象会社ごとにきちんとセグメンテーションされた(分離された)ものがないので、連結決算担当者が無理やり『セグメント按分』とか『セグメント配賦』などを行ってきた、つまり「分離する」作業そのものだった。しかし、今後は、このような分離作業は許されないし、分離する必要もない。なぜなら、連結決算担当者がセグメント情報を作成する手元には、すでに経営企画部などが役員会資料などで説明するために、『事業部別』、『支店別』、『店舗別』、『子会社別』などといった分離した『事業セグメント』ごとの情報があるからだ。」

 結局、今後連結決算担当者は、『セグメント按分』とか『セグメント配賦』をすることは許されず、許されるのは、第11項や第13項できっちり決められた「足すこと」だけになるのです。

 その証拠と言っては何ですが、会計制度委員会報告第1号「セグメント情報の開示に関する会計手法」が、今年の3月1日に廃止されました。これは、連結決算担当者が『セグメント按分』などをする上で、最大のよりどころとなっていたものですが、『セグメント按分』などが認められなくなったから廃止されたのです。もう按分できる根拠規定はないのです。

 最近新しくできる基準にばかり気を取られがちですが、なくなっていく基準がなぜなくなるのかも注意していただきたいものです。

 この他にわかりにくいものとして、基準第21項(9)の「(1)から(8)に含まれていない重要な非資金損益項目」があります。

 この基準は、「セグメント別にキャッシュ・フロー情報を開示せよ」とはどこにも書いてないのですが、この規定により、知らないうちに、「セグメント別のキャッシュ・フロー情報をたれ流す」ことになるのです。

 なぜか。よく読んでください。第19項の利益に、その利益に関連する非資金的項目を加味すれば、第19項の利益をキャッシュ・フローベースに変えられるでしょう。

 第19項の利益が「税前利益」なら、「営業活動キャッシュ・フロー」ができるのです、セグメント別に。

 怖いですね。ですからこの基準、何度も読み込んでいただきたいのです。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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