更新日 2010.04.12

IFRS導入とその影響

第1回 IFRS総論

  • twitter
  • Facebook
公認会計士 中田 清穂

TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年4月12日掲載

 国際会計基準(International Accounting Standards: IAS)は、国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee: IASC)というところが作っていました。この組織は9カ国の会計士の団体が集まってできた民間団体です。

 最初は、それぞれの国で会計基準があるけれど、他の国の会計基準を見た時に、自分たちの国の会計基準よりも優れたものが他国にあるということで、それぞれの国の会計士が集まって、自分たちの国の会計基準をより良いものにするだけでなく、一つの国際会計基準というのを作ってみようということで作り始めたわけです。最初のころは、選択肢がたくさんあって、一つの取引についていろんな会計処理が認められていました。

 このIASCの活動に証券監督者国際機構(IOSCO)という組織が目を付けて、ただ、支持しただけではなくて、一緒に統一的な会計基準を作っていこうということで共同作業を始めました。ここから、IASCの活動はかなり性格が変わり始め、それぞれの国の会計基準をレベルアップしようという目的から、どこの国で財務諸表を作っても世界中で同じ会計基準が使われている限り、世界中のどこの誰が見ても比較ができる、世界統一ルールとして位置づけようというものに変わっていきました。これによって、選択適用がどんどんなくなり、ひとつの物差しとしての色彩が強くなってきました。

 そして今から約10年前に会計基準としてのワンセットができました。そしてその直後に、IOSCOがこの国際会計基準について推奨することになります。つまり、この国際会計基準に従って作られた財務諸表は、どこの国で提出されても受理できる、レベルの高い財務諸表であるというお墨付きを与えたのです。

 そしてIOSCOが推奨した翌月の6月には、EU域内のすべての上場企業に連結財務諸表を作る上では、国際会計基準に準拠することを義務付ました。

 ここで、この国際的な会計の物差しは、「作る」段階から「実際に使われる」運用段階に入ったということで、IASCは大幅に改組され現在の国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board: IASB)になりました。

 そしてIASBになって以降、新たに作られる会計基準が、現在、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)といわれているものです。

 ここで、同じヨーロッパで資金調達をしている会社のなかで、EU域内の会社は、IFRSに準拠して財務諸表を作らなければならなくなったけれども、同じEUで資金調達をしている日本やアメリカといったEU域外の会社が、IFRSに準拠しなくていいのか、別の会計基準で作った財務諸表を受理していいのか、やっぱりだめだという問題が、EU域内で起きました。したがって、日本も、EU域内の会社と同じ様にIFRSに従って財務諸表を作らないと、ヨーロッパの資金調達市場から出て行けということを突きつけられたのです。

 そんなこと急に言われてもできないということで、日本の会社がIFRSに準拠して財務諸表を作るということではなくて、日本の基準そのものをIFRSに近づけて行くから、近づいた日本基準で作った財務諸表を受理してほしいということで話がまとまりました。

 これがコンバージェンスのスタートです。

 コンバージェンスは、いくつかの段階が踏まれていて、短期項目と中長期項目、項目というのは、何かというと、日本基準とIFRSで、棚卸資産会計、有形固定資産会計、リース会計とか会計基準の一つひとつを比較したときに、異なる項目がいくつかあり、その項目の中でも短期的に調整が出来るものと時間がかかるものとに分けられました。短期的にできるものは、2008年の暮れまでに、中長期項目については2009年から2011年にかけて、日本の会計基準をIFRSに近づけるということで話がまとまっています。

 2000年の頃にこの問題が発覚した時には、IFRSと日本の会計制度は、ものすごいひらきがありました。これについて、皆さんご存知のように、工事進行基準の原則化、持分プーリング法の廃止、低価法の強制適用、後入先出法の廃止、セグメント会計基準のマネジメントアプローチの導入、資産除去債務など、おびただしい数の会計基準が日本で公表されました。実はそれは、日本で必要だったから作られたわけではなくて、IFRSに近づけないと欧州で資金調達ができなくなる、しかも時限が決められて約束していたから作られていた会計基準だったわけです。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

免責事項

  1. 当コラムは、コラム執筆時点で公となっている情報に基づいて作成しています。
  2. 当コラムには執筆者の私見も含まれており、完全性・正確性・相当性等について、執筆者、株式会社TKC、TKC全国会は一切の責任を負いません。また、利用者が被ったいかなる損害についても一切の責任を負いません。
  3. 当コラムに掲載されている内容や画像などの無断転載を禁止します。