スマート行政DX推進を支援する

情報誌 「新風」(かぜ)

2026年10月号Vol.144

【特集】いざ、変革(X)を加速せよ!──2040年を見据え、持続可能な自治体への道筋

『自治体DX推進計画』がスタートして約6年。この間、自治体を取り巻く環境は、マイナンバーカードの普及や行政手続きのデジタル化、システム標準化など大きく様変わりしてきた。いま“導入促進”から“活用・定着”のフェーズを迎え、自治体に求められることとは? これまでの総括と今後の展望を、庄司昌彦教授に聞く。

武蔵大学 社会学部メディア社会学科教授 庄司昌彦氏
インタビュアー 本誌編集人 飛鷹 聡

庄司昌彦(しょうじ・まさひこ)

•庄司昌彦(しょうじ・まさひこ)
1976年、東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主幹研究員・准教授などを経て、19年より現職。「自治体システム等標準化検討会(住民記録・税務・選挙人名簿管理)」(総務省)や「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」(総務省)の座長など、多方面で活躍。

標準化の目的は「移行」ではなく自治体の「持続可能性」

──庄司先生は、「自治体システム等標準化検討会」や「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」の座長を務められるなど、自治体DX推進に深く関わっておられます。これまでの取り組みを、どうご覧になっていますか。

庄司 『自治体DX推進計画』が最初に策定・公表されたのは、2020年12月25日で、すでに6年近く経過しました。これまでを振り返ると、マイナンバーカードの普及や行政手続きのデジタル化・オンライン化の進展など、一定の成果があったと考えています。
 マイナンバーカードは、22年度末までに〈ほぼ全ての国民が保有している〉ことを目指して取り組みが進められてきました。この目標はほぼクリアし、いまや対面・非対面を問わない厳格な本人確認手段として社会に普及しました。これは大きな進化ですね。特に、「マイナ保険証」はわれわれの生活にすっかり定着し、高齢者の方々を含め多くの方に利用されています。これにより、「医療DX」など、将来に向けた応用の道が開かれたと考えています。
 一方、自治体システム標準化に対しては、さまざまな意見があります。「意義は分かるが実現は困難」と否定的な意見もあった中、短い期間で〈全ての市区町村の20業務・約3万5000システムを標準化する〉という難題に挑戦し、期限までに約7割が標準仕様システムに移行されました。これは、自治体職員やシステム事業者の皆さんの血と汗と涙の末、成し遂げられた成果です。
 そもそも、システム標準化は〈問題が大き過ぎて、全国規模では手をつけられなかった〉分野で、私は当初から「政府が本腰を入れたとしても、実現には10年はかかる」と言ってきました。移行を終えていないシステムやさまざまな課題も残っており、実際にその通りとなっていますが、次代に向けた基盤が整い始めたという点では大きな進展といえるのではないでしょうか。
 ただ、現状を評価すると「60点」だと考えています。ぎりぎり合格点ですが、決して満点ではありません。移行を終えていないシステムも残っていますし、残りの40点が重要ですね。

──なぜ、60点なのでしょうか。

庄司 自治体システム標準化は、急激な人口減少社会への対応として、〈限られた人員でも質の高い行政サービスを持続的に提供できる〉ことを目指して取り組んできたものです。そのため、本来の評価軸は、標準化によって「自治体がどれだけ持続可能になったか」だと思います。
 これまでは、この指標がなかったため本質的な部分からかけ離れた「期限に間に合ったか」、「移行・運用費はいくらか」といった議論に矮小化されてしまいました。改めて、「われわれは標準化で何を目指していたのか」を考えるべきです。
 現状は、システムが標準仕様に置き換わっただけで、効果を生み出していくのはこれからのことです。そのためにも、標準化によって〝自治体がどれだけ持続可能になったのか〟を評価し、次の取り組みにつなげていかなければ。これが残りの40点の部分です。
 評価の際には、コストだけに着目するのではなく、効果も含めて検証することが重要です。
 例えば、スマートフォンを〈電話〉と捉えれば、従来の携帯電話よりも月額使用料が高いと感じます。しかし、〈多くの価値を得られるツール〉と捉えれば、従来品よりもコストパフォーマンスが高いといえますよね。このように、分母(コスト)だけを見るのではなく、分子(住民サービスや業務改善の効果など)も含めて評価しなければなりません。
 自治体の持続可能性についても同様で、評価の結果、「これはコスパが高かった」、「これはメリットがあった」といった効果を明確に示すことが肝要といえるでしょう。

本誌編集人 飛鷹

本誌編集人 飛鷹 聡

──おっしゃるとおりですね。自治体の持続可能性という点で、解決すべき課題は何だとお考えですか。

庄司 それについては、自治体の人材確保や人材育成をめぐる構造的な課題が挙げられます。一例が自治体職員の人事異動です。
 近年、自治体を取り巻く環境は大きく変化し、デジタル技術の進化や複雑化する地域課題などを背景として、自治体職員には業務分野を問わず高い専門性が求められています。これまでのように、数年で別の部署へ異動する、というやり方だけでは、時代環境の変化に対応するのは困難でしょう。すでに採用難や中堅・若手職員の離職増も起こっており、これは自治体の持続可能性という点でも憂慮すべき事態です。
 そのため、最近では外部人材の積極登用など、自治体ごとに組織的なキャリア形成の見直しも進んでいます。システムや業務の共通化が進めば、人材についても共同で確保・育成する仕組みを考えやすくなります。
 標準化が実現したことで、こうした人材の問題についても、個々の自治体がそれぞれ対応するだけではなく、〈地方全体の問題として制度や組織体制を考える〉など構造改革へ取り組みやすくなるのではないでしょうか。そうした本質的な議論ができるようになったのも、標準化の一つの効果といえますね。

変えるのは、「業務」ではなく自治体そのものだ!

──『自治体DX推進計画第5・1版』(26年1月30日公表)では、目標期限がなくなり、中長期にわたって継続して取り組む方針へと変更されました。また、重点取組事項の項目は従来と同じですが、その内容はこれまでの〝導入促進〟から〝定着・運用〟フェーズへと前進しました。その中で今後、注目されることは何ですか。

庄司 地方自治法の改正(24年6月成立)により、全ての自治体に対して今年からサイバーセキュリティー対策の実施と方針策定が義務付けられ、3月には『地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』も改定されました。また、バックヤード連携を含むフロントヤード改革等により、業務やサービスのデジタルシフトはさらに進みます。
 こうした現状を踏まえると、自治体が負担するデジタル化関連コストは今後も確実に増大していくことでしょう。もはや、「自治体単独で取り組むには限界がある」ことを前提として、これまでの構造を変えるべき段階に入っているのではないかと考えています。
 その点では、今後はシステムの共同利用だけでなく、事務や事業運営についても広域連携による共同実施など〝共同化〟の流れが一段と強まっていくと見ています。その中で、共同窓口やバックオフィス業務の集約、広域連携BPO(業務プロセスの一部を一括して外部委託する手法)などの検討も本格化していくのではないでしょうか。

──実際に、いま全国の自治体クラウドの共同利用組織から当社に対して「コスト最適化に向けた対応について話を聞きたい」という問い合わせが増えています。そうした中で、これから自治体が優先して取り組むべきことは何だとお考えですか。

庄司 それはDXの「X」だと思います。つまり、「トランスフォーメーション」(変革)ですね。
 最近では「DX」の発展形として「AX(AIトランスフォーメーション)」という言葉も登場していますが、AIはあくまでも手段です。いくら最先端のAIを導入していても、業務が依然として〝紙とハンコ〟のままであればそれは変革とはいえません。
 目指すのは〝よりよい方向へ変えること〟であり、その手段は最新のデジタル技術である必要はありません。例えば、〈業務システムで、これまでにない情報連携が可能となった〉や〈職員がWeb会議・テレワークができるようになった〉でもいい。極端に言えば、〈これまでやっていた業務をやめる〉のも立派なトランスフォーメーションです。
 重要なのは、人口減少時代にも行政を持続していくために業務や制度、組織など自治体そのものを〝変える〟ことです。一部の部署や人が先進的なことに取り組むのではなく、さまざまな分野で幅広く、量的・質的な変革を積み重ねていくことが大切でしょう。

──庄司先生が参加されている「地方自治体におけるAIトランスフォーメーションに関する研究会」(総務省、座長・須藤修東京大学名誉教授/26年7月発足)でも、AIを活用した業務や制度などの変革がテーマです。

庄司 そうですね。日本の高齢者人口がピークを迎える2040年まで、残すところ十余年しかありません。それまでに、自治体は従来の半分の人員でも本来担うべき仕事をこなせる「スマート自治体」へ転換しなければならない。いまの変化のスピードでは到底間に合わないでしょう。そんな中、まるで〝切り札〟のようにAIが登場したわけです。自治体でも有用に利活用することが求められますね。
 とはいえ、これまでの業務プロセスのまま単にツールとしてAIを導入するのでは不十分です。これを最大限活用することを前提とした〈新しい業務プロセスや組織・制度〉へと変える必要があります。そのためには、「こんな風になりたい」と具体的な未来の理想像から変革を設計するバックキャスト思考も欠かせません。

AIの利活用で自治体職員に求められること

──AIは、作業時間の大幅な短縮や生産性向上が期待される一方で、活用に消極的な人も一定数存在します。背景には、ハルシネーション(もっともらしい誤情報)への不信感や、機密情報の漏えいなどへの不安などが挙げられます。今後、職員一人ひとりはAIとどう向き合うべきでしょうか。

庄司昌彦(しょうじ・まさひこ)

庄司 現状を見ると、個別の業務に特化して「AIをどう活用しようか」と考えられがちですね。しかし、そこまで難しく考えずに、まずは使ってみること。それがAIリテラシーを高める第一歩です。
 AIの活用方法は、議事録の作成や文書の下書きなどに限りません。
 例えば、身近なアシスタントに相談する感覚で、日常のちょっとした調べものを頼む、仕事の段取りや課題、頭の中にあるもやもやした考えやアイデアを整理してもらう──など。私自身も日頃そんな使い方をしています。住民情報や機密情報を扱わない範囲であれば、気軽に利用できますよね。
 上手に付き合うコツは、AIを〈完璧な答えを出してくれる魔法の箱〉ではなく、〈考えるためのさまざまなヒントをくれる優秀なアシスタント〉として扱うことです。最後に判断するのは自分です。
 AIの利活用を進める上では、団体固有のマニュアルやガイドラインなどを読み込ませ、独自の「RAG(検索拡張生成)」を構築して、それに沿った回答を生成できるようにする──といった専門的な知見に基づく基盤整備も、もちろん大切です。
 それと同時に、より多くの職員が日頃からざっくりとした質問・相談を重ねていくことも重要でしょう。AIの回答に対して、「それは行政ではできない」などとやりとりする中には、自治体職員としての業務知識や暗黙知が含まれています。そうしたやりとりを意識的に蓄積・整理し、AI活用の基盤に生かしていけば、回答精度の向上にもつながると考えています。

──おっしゃる通りですね。

庄司 一方で、AIの回答をそのまま信じるのではなく、「何かバイアスがかかっていないか」、「別の見方はないか」と問い返す力も必要です。また、何かアイデアがほしい場合にも、的確な回答を得るには「どう質問をすればいいか」を考えなければなりません。
 これからの職員には、AIの回答を検証する力のほか、判断力や課題設定力、質問力などを磨くことも求められるでしょう。

──専門性とリベラルアーツの両方を備えることが重要だということですね。

庄司 そうですね。そのためには、AI活用を前提とした人材育成の検討も必要だと考えています。

持続可能な自治体へ創意工夫こそが力となる

──DX推進も新たな局面を迎え、いま自治体では「フロントヤード改革」や「公金収納におけるeL-QRの活用」、「マイナンバーカードの取得支援・利用の推進」への取り組みが、一段と加速してきたと感じています。

庄司 システム標準化やマイナンバーカードの普及によって、自治体DXの基盤はかなり整ってきました。これから問われるのは、その上で何を実現するかです。
 また、システム標準化についても今後は時機に応じた見直しが行われ、それへの対応が必要となるでしょう。
 例えば「印鑑登録」です。法律はありませんが、各団体が個々に条例を制定して運用していることから、印鑑登録業務も標準化対象となりました。しかし、今後はさまざまな契約・手続きで、〈紙と押印〉ではなく〈電子署名〉が主流になっていくと想定されます。これに伴い、印鑑認証という商習慣が見直され、いずれは印鑑登録業務自体がなくなるかもしれません。
 このように変革のスピードは、今後、一段と増していくことでしょう。自治体には、これまで以上に素早く・柔軟に〝変化する力〟が求められますね。その変革の効果は、自治体内部にとどまりません。

──小誌(20年7月号)にご登場いただいた際にも、〈自治体のデジタル化は、地域社会の生産性向上に加え、新たなビジネスや市民活動の促進にもつながるだろう。大きな視野で地域全体のデータ流通や業務プロセスの改革を進めることが求められる〉と述べておられました。

庄司 その思いは、いまも変わりません。私は、地域が元気になってこそ、日本全体の持続的で健全な発展につながると考えています。これまでは、『自治体DX推進計画』など国主導で大きな改革が進められてきましたが、国ができることには限界があります。これからは、自治体に「行政サービスの提供者」としての役割とともに、「地域を元気にしていく取り組み」の強化が期待されます。
 例えば、大企業だから給料が高く、福利厚生などに優れていて、社員の満足度も高いかというと必ずしもそうではありません。小さな企業でもすごく給料のいい会社とか、ヘルシーな働き方をしている会社、ユニークで手厚い制度を導入している会社がたくさんあります。社員の満足度が高い企業であるかどうかは、経営次第なんですよね。
 自治体でも、最近は税収が増えているところや、小規模だけど人口が増えているまちが登場しています。人や産業が集まるまちになれるかどうかも、自治体経営が左右します。多様な主体との連携による新規ビジネスの創出や、市民活動・地域コミュニティといった人と人とのつながりの形成など、それぞれの特性を生かした取り組みを進めることが肝要です。
 コストパフォーマンスを考えれば、「ビッグ・テック」(世界市場で圧倒的な支配力を持つ巨大IT企業の総称)のプラットフォームも賢く活用しながら、その上でさまざまなデジタル技術を組み合わせて展開するのがいいのではないでしょうか。地域SNSでどんな交流をするか、オープンデータやAIをどう活用するか──など、その答えは自治体ごとに異なります。
 持続可能なまちづくりのために、デジタル技術を活用して地域課題を解決する「地域社会DX」の好事例が数多く登場してほしいと思いますし、地域同士の共創や競争にも大いに期待しています。
 持続可能な地域をつくっていくために、まさにここからが勝負ですね。

撮影 中島淳一郎

インタビューを終えて

導入システム