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情報誌 「新風」(かぜ)

2026年10月号Vol.144

【鼎談】東日本大震災発生、その時現地でお客さまを支援した3人が語る緊急対応

自治体の情報化において、一つのターニングポイントとなったのが東日本大震災だ。東北地方を中心に各地へ甚大な被害をもたらし庁舎や職員が被災して一時的に行政機能が失われる団体もあった。あれから15年──当時、お客さまの業務継続・早期回復をどう支援したか振り返る。

エクナ株式会社 公共営業部 アドバイザー 柏木直之 氏
エクナ株式会社 執行役員 公共営業部統括部長 向井健一 氏
株式会社TKC 地方公共団体事業部 営業本部副本部長 森本克典

エクナ株式会社 向井健一 統括部長

エクナ株式会社 向井健一 統括部長

柏木 地震発生時、私はエクナ本社のある盛岡市内にいました。車で移動中にちょうど信号待ちをしていた時のことで、停電で交通混乱も発生する中、急ぎ本社に戻りました。幸いなことにオフィスや社員に大きな被害はありませんでしたが、太平洋沿岸部を巨大な津波が襲う映像をニュースで見た時にはショックで言葉を失いました。

向井 私はたまたま仕事を休んで自宅にいました。震災直後は東北地方のほぼ全域で停電が発生したためテレビも見られず、ラジオを聞くだけではどこで何が起こっているのか被害状況も全く分からない状況でした。

森本 当時、私は宮城営業課(大崎市/当時)の責任者で、お客さまと打ち合わせをしている最中にかつて経験したことのない激しい揺れに見舞われました。庁舎から外へ出た時に、いつも以上に大きなボタン雪が降っていたことを今でも鮮明に覚えています。東北地方では、その前から比較的大きな地震が相次いでいたため危機感は持っていましたが、一瞬でそれまでの日常を奪う自然の猛威の前に、何もできない無力さを痛感しました。

お客さま支援の現場では

エクナ株式会社 柏木直之 氏

エクナ株式会社 柏木直之 氏

森本 東日本大震災は、巨大地震と津波、原子力発電所の事故などが同時多発的に連鎖した未曾有の複合災害でした。当時、TASKシステムを利用するお客さまのうち、業務継続に支障を来す恐れがあったのは約30団体で、本社と営業拠点・パートナー各社が連携して緊急支援を行いました。
 最も被害が甚大だったのが、御社がサポートする岩手県大槌町でした。携帯電話も通話規制がかかり、お客さまと連絡がとれない中で、どうサポートに動かれたのでしょうか。

柏木 お客さま支援のため、震災発生の翌日に岩手県庁へ緊急運行車両の申請に出向き、初めて大槌町の状況を知ることができました。そこから県庁職員の方と一緒に動き始めたのです。
 大槌町を訪れると庁舎は壊滅的な状況にありました。それでも「データを救えるかもしれない」と一縷(る)の望みをかけて、自衛隊の協力を得て建物内へ立ち入り、土砂の中からサーバー7台を回収しました(詳細は32ページ記事参照)。復旧のめどがついたのは発見から1週間ほどたった頃のことです。
 その後、復元したデータを使って、TKCがシステムを再構築し、4月8日に当社が仮設庁舎へ仮サーバーを設置しました。住民情報と税は震災直前のデータを復旧できたものの、福祉系は履歴情報が一部喪失しており、県や福祉事務所から情報を集め約8カ月かけて復旧しました。

向井 データは復旧しても、当初用意できたのは古いサーバーで、Windowsを立ち上げるだけでも40分ほどかかりましたね。また、プレハブの仮設庁舎にはサーバー室もエアコンもなく、夏場は本当に大変でした。室温が40度ぐらいある中で、扇風機でサーバー周りの空気を循環させる応急処置で何とかサーバーを動かしました。
 当時、私はSEとして大槌町をサポートしていました。震災後は約2年間、月曜から土曜まで毎日、盛岡市から大槌町へ通いました。8時半の開庁に合わせて行き、遅い時には夜12時を過ぎてから退室する状況でしたが、「大槌町の復興・再建を支援する」という強い気持ちが先にたって、辛いとは思いませんでしたね。

森本 発災直後の72時間は、人命救助や避難所運営、ライフラインの復旧が最優先されます。そのため、業務システムが本格的に必要となったのは3、4日後からだったと記憶しています。その頃には被災者の生活再建支援が始まり、り災証明書を求める住民も増え、宮城県内でも発行窓口は連日長蛇の列となっていました。

柏木 大槌町の場合、生活再建支援が本格的に動き始めたのは2週間ほど経ってからのことでした。それまでの応急対策業務では、職員は紙の住民情報リストを使って対応していました。これは、TKC(宇都宮市)のホストコンピューターに保管されていた3月1日時点のデータから急きょ作成したものです。このリストをTKC保安サービスのトラックで宮城営業課へ運び、それを当社が受け取りに行って、14日には大槌町へ提供しました。

森本 窓口業務を再開した後は、どういったサポートをされたのですか。

向井 震災後は、医療費や介護費・国民健康保険料等の全額免除や税金の軽減・免除など、さまざまな被災者支援策が講じられ、これらの処理が円滑に進むよう担当部署ごとに支援しました。一番大変だったのは、各地から派遣された自治体職員のサポートです。慣れないシステムに苦戦される方もいて操作説明には本当に苦労しました。

森本 宮城県内でも職員の方は不眠不休で被災者支援にあたっている状況で、営業課の業務再開後も当面は携帯電話によるサポートが中心でした。東京電力管内では計画停電が実施され、課税準備期間ということとも相まって、多くのお客さまが先行きに不安を感じていたと思います。そこで、当社ではお客さまごとに予定されていた業務を洗い出し、スケジュールを組み直すとともに、今後の留意事項をまとめて情報発信するなど、その時にわれわれができる最大限の支援に努めました。

教訓を風化させない

株式会社TKC 森本

株式会社TKC 森本

森本 震災を機に、お客さまの価値観は大きく変わりましたね。特に、クラウドサービスはこれがターニングポイントとなったといえます。当時はまだサーバーの庁内設置が主流でしたが、当社は震災前から基幹業務システムのクラウドサービスを提供していたので、全国から問い合わせが寄せられました。

柏木 震災後、岩手県内の沿岸13市町村がワーキンググループを立ち上げてクラウドの共同利用を検討し、最終的に3町村(大槌町、普代村、野田村)がTASKクラウドサービスを導入しました。こうした動きは各地に広がり、自治体クラウドが急速に進みましたね。
 震災を経験して思いを強くしたのは、〈重要データを守り、業務継続性をいかに確保するか〉ということです。震災の記憶は薄れつつありますが、自然災害は今後も必ず発生します。この時の教訓を風化させてはいけません。

森本 クラウドサービスは、通信経路が確保できれば業務を継続できるという特性があります。特に、全てのユーザーが同一のアプリケーションを共同利用するTASKクラウドサービスでは、認証情報を組み込んだモバイル接続を活用し、被災団体の業務を協定都市等の施設で臨時窓口として継続することも可能です。実際、自治体クラウドの取り組みの中でこうした運用を提供した実績もあります。
 ただし、これだけでは万全な策とはいえません。最大の課題は通信回線の確保であり、不測の事態に備えた対策をあらかじめ講じておくべきです。この点、当社では業務継続のための〝二重〟の仕組みとして照会発行サーバーと縮退運用システムを提供しています。通信回線が途切れた場合、照会発行モードへ自動的に切り替わり、万一の際にも住民にとって最小限必要な窓口業務を継続できるようにしています。

向井 併せて、通信回線の多重化も不可欠でしょう。例えば、衛星通信サービスは能登半島地震の際も有効だったと聞いています。その他にも、複数キャリアに対応した閉域網(インターネットと物理的・論理的に分離された安全性の高いネットワーク)を、災害応急対応業務のためのバックアップ回線として備えておくことが挙げられます。

森本 また、いざという時にスムーズに行動できるよう訓練も必要だと考えています。地域によって想定されるリスクは異なりますが、クラウドサービスを利用する上では回線切断時の初動と業務継続・早期回復のプロセスの確認は欠かせません。訓練の実施をどう支援できるか、改めて社内でも検討したいと考えています。

柏木 東日本大震災では、職員自身も被災者でありながら過酷な状況下で住民支援の最前線に立ち続けました。われわれは、そうしたお客さまを支援する重要な仕事に就いていることを忘れてはいけませんね。お客さまのためになることは何か──それを常に意識しながら、今後もお客さまに寄り添い、支えていきたいと考えています。

大槌町をはじめ、各地で頻発する自然災害により被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復興をお祈りいたします。

撮影 中島淳一郎

左から、向井統括部長、柏木氏、森本

左から、向井統括部長、柏木氏、森本

TKC創業50周年記念誌「ふるさと日本50」より転載

サーバー復旧へ挑んだ奇跡のリレー

津波からの生還!

 東芝クライアントソリューション株式会社(本社・豊洲、2016年4月に東芝情報機器から商号変更)の受付の脇に、赤錆が浮いた1台のサーバーが保管されています。「津波からの生還」と記された、このサーバーは津波で倒壊した大槌町の庁舎で発見されたものです。そこには奇跡のリレーがありました。
 TKCシステムを利用されるお客さまのうち、最も甚大な被害を受けたのが岩手県大槌町(当時人口1万5000人)でした。津波により2階建ての庁舎は2階天井付近まで浸水し、サーバルームも水没。災害発生直後、市町村には人命救助と並行して住民の安否確認や被災者支援が求められ、それには住民情報などを管理するシステムの利用が欠かせません。大槌町では29の業務でTKCシステムを利用していましたが、これがまったく使えなくなったのです。
 TKCでは、1980年代より日々の業務は庁内のシステムで行い、納税通知書の印刷など大量一括処理はTKCのホストコンピューターが分担する「分散処理方式」という独自のアウトソーシングサービスを提供しており、大槌町の場合も3月1日時点のデータが保管されていました。
 庁舎被災の第一報を受け、TKCはホストコンピューターのデータから「住民情報」(CSV/PDF)を生成し、エクナ株式会社を通じて14日に大槌町へご提供しました。大槌町では、当初これを使って住民の安否確認や被災者支援を行ったのです。
 並行して3月1日時点のデータでシステムを構築、提供するなかで、関係者に一つの疑問が湧きました。「庁舎にサーバーが残されているのではないか。そこからデータを復旧できないだろうか」と。
 3月25日、エクナの担当者が岩手県職員とともに庁舎へ入り、泥やがれきに埋もれたサーバーラックの中から基幹系システムのサーバー7 台(総合福祉、住基・税、介護、照会発行、運用、財務会計)を発見・回収しました。しかし、発見時のサーバーは海水混じりの泥にまみれ、「データの復旧は絶望的にも感じられた」(柏木直之・エクナ株式会社取締役公共部長、当時)といいます。
 データ復旧へわずかな望みをかけて、エクナとTKCと東芝情報機器(当時)が連携し、サーバーを東芝の青梅工場へと運び込みました。交通網が一部寸断されている中で、サーバーを乾かさないよう慎重さとスピードが求められる搬送作業は大変だったようです。
 受け取った東芝では、クリーンルームで分解・洗浄作業を繰り返し、データ復旧にあたりました。そして発見から約10日後、震災直前の住民情報と税、介護情報のデータが完全復旧したのです。そのデータを使ってTKCがシステムを再構築し、4月8日にエクナの手により仮設庁舎へ設置され、13日から住民票の発行などの業務が無事再開されました。
 現在、保管されているサーバーの説明には、「あきらめる訳にはいかない」と当時の思いが記されています。それは、関係者みんなの思いでした。

*東芝クライアントソリューション株式会社は、2019年1月1日にDynabook株式会社へ社名変更

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