2026年10月号Vol.144
【スマート行政最前線】源内AI・源内OSSが創る行政の未来──行政効率の向上を、住民福祉の増進につなげる
株式会社TKC 共通基盤開発センター 横山大輔
人口減少や少子高齢化が進む中、地方公共団体では限られた職員数で行政サービスを維持し、その質を高めることが大きな課題となっています。こうした状況を背景に、生成AIを行政の新たな基盤として活用する動きが本格化しています。その中で注目されるのが、デジタル庁の「ガバメントAI 源内」と「源内OSS*1」です。
源内は、政府職員が生成AIを業務で利用するための共通基盤です。特定のAIモデルを「源内」と呼んでいるわけではなく、複数のAIモデルや行政業務に特化したAIアプリケーションを組み合わせて利用できる基盤として整備されています。
デジタル庁では2025年から利用を進め、今年5月には全府省庁を対象とした大規模実証を開始しました。5月末時点で約10万人の政府職員が利用可能となり、今後はさらに約18万人まで対象を拡大する計画です。
利用用途は、文章作成や要約、翻訳などの一般的な利用に加え、法制度の調査、国会答弁の検索・作成支援、行政文書の確認など、行政特有の業務への適用が進められています。すでに源内を利用して職員が作成した国会答弁案を、デジタル大臣が最終確認した上で答弁する事例も生まれています。
7月には国産クラウド上で基盤モデルを試用する取り組みも始まり、日本語への対応力強化を含め、その実用性を評価する動きが進められています。
一方、源内OSSは、源内AIで開発された仕組みの一部を、地方公共団体や民間企業などでも利用できるように一般公開したものです。
これは、単に「国が無料の生成AIを公開した」のではありません。各団体がそれぞれ類似したAIシステムを一から開発すれば、全国で同じような開発投資が繰り返されることになります。そこで国が開発した共通部分をOSSとして再利用し、サービス提供者がその上に業務特性に応じた機能を加えることで、重複開発の抑制やコスト低減、特定事業者への過度な依存の抑制が期待されています。
また、源内OSSは、4月の公開後も継続的に改良されています。8月14日には最新版となるV1・3・1が公開され、依存パッケージ*2の更新やチャット機能の改善などが実施されました。こうした継続的な更新が行われていることも、今後の利活用を考える上での重要なポイントです。
民間サービスとの違いと源内OSS導入の留意点
地方公共団体向けの生成AI利用サービスは、すでに複数の民間企業から提供されています。中には多数の導入実績を持ち、行政データとの連携やRAG(AIが回答する際に、社内文書や外部資料から関連する情報を探し出し、その内容を参考にして正確な文章を組み立てる仕組み)の構築、LGWANからの利用、研修・運用支援まで、幅広くサービスを展開する例もあります。
これに対して源内OSSは、国が実際に利用している仕組みをベースとしていることに加え、地方公共団体や民間企業が活用・拡張することで、行政AIの「共通部品」になり得る点に大きな特長があります。
ただし、導入にあたっては注意も必要です。デジタル庁が運用する源内の安全性と、公開された源内OSSを利用して構築したシステムの安全性は同じではありません。源内OSSを採用する場合は、認証、ネットワーク、ログ、暗号鍵、バックアップ、AIモデルとの契約、脆弱性対応などについて、導入者側が責任を持って適切に設計・運用する必要があります。
「国が公開したOSSだから安全」と考えるのではなく、行政システムに求められるセキュリティー、可用性、保守性、運用体制まで含め、システム全体として評価することが重要です。
「源内AI」画面イメージ
AI活用による「行政改革」を
『デジタル社会の実現に向けた重点計画』(7月21日閣議決定)では、「AIの徹底活用」が掲げられました。政府だけではなく、地方公共団体のDX基盤強化も重要な政策として位置付けており、人口減少・人手不足を前提として行政のあり方そのものを変えていく方向が示されています。
地方公共団体においても、生成AIの活用対象は多岐にわたります。
例えば、国や都道府県から届く通知・事務連絡の整理、制度や法令の調査、議会対応資料の作成、庁内規程や過去資料の検索、住民向け文書の作成などです。現在、多くの時間を費やしている業務に、AIを活用できる余地があります。
ただし、本来の目的は「これらの業務を短時間で終わらせること」ではありません。AIによって生まれた時間を、住民相談、地域課題の分析、政策立案、福祉、防災など、人が向き合うべき仕事へ振り向けることが重要です。つまり、行政効率の向上を「職員の作業時間削減」で終わらせず、「住民福祉の増進」へつなげることで、初めてAI導入の成果といえるでしょう。
◇ ◇ ◇
源内AI・源内OSSは、行政におけるAI活用を大きく前進させ、職員の業務効率向上や住民サービスの充実につながる可能性を秘めています。しかしながら、現時点ではその効果を過大に評価すべき段階ではありません。
今後は、単なる利用回数・利用者数だけでなく、業務時間の削減、回答品質、費用対効果、自治体への導入実績など、具体的な成果を継続して確認することが重要です。
TKCとしても、こうした動向を注視し、安全性や実用性、継続的な運用を十分に見極めながら対応していく考えです。これまで培ってきた行政業務とシステム運用の知見に、新しい技術を採り入れ、これからも皆さんが安心して利用でき、その先の住民サービスの向上につながるシステムを提供してまいります。
*1 OSS(Open Source Software):ソフトウエアの設計図であるソースコードが、無償で一般公開されているもの
*2 依存パッケージ:あるプログラムやソフトウエアを動かすために、前もってインストールや用意が必要となる別のプログラム(部品)のこと