2026年10月号Vol.144
【寄稿】自治体情報化30年を振り返る「電子化」から「デジタル変革」へ
株式会社TKC 常務執行役員 地方公共団体事業部 営業本部長 吉澤 智
1996年10月、『新風』はデジタル社会の幕開けとともに創刊された。Windows95の登場やインターネットの急速な普及により、自治体にもIT革命の波が押し寄せ始めた頃のことだ。以来、自治体の情報化は大きな変遷を遂げてきた。その歩みは単なるコンピュータの利用や事務の電子化にとどまらず、行政運営のあり方そのものを変える挑戦の連続だったといえる。
~2010年
自治体情報化の転換期
2000年前後は、電子自治体の基盤整備が進んだ時代だ。「IT基本法」の施行や『e-Japan戦略』策定を背景に、LGWANや住基ネットなど庁内外をネットワークで結ぶ仕組みが整備された。「電子自治体」という言葉も広がり、それまでの〈事務の電算化〉から、〈行政サービス全体を支える基盤整備〉の局面を迎えたのである。
小誌02年9月号では、「所有から利用へ、変貌遂げる行政の情報化」と題し、クラウドサービスの可能性を紹介している。転機となったのが11年3月に発生した東日本大震災だ。それまでの価値観が180度転換。自治体が保有・管理していたデータや機器を民間のデータセンターに置き、ネットワークを通じてサービスを利用する、という考え方が一気に広まったのだ。その後、複数団体がシステムを共同利用する「自治体クラウド」も全国に拡大したのである。
その後、10年頃になると情報化の焦点は基盤整備から利活用へと移っていった。
住民サービスのオンライン化の先駆けとなったのが、地方税の電子申告だ。05年に「地方税電子申告システム(eLTAX)」の運用がスタートし、紙による申告、内容確認・入力・保管の業務は、電子データを活用したものへと進化。国税連携や共通納税の拡大が実現されると、税務業務はさらに大きな変貌を遂げた。これを機に、情報化の効果は入力作業の削減にとどまらず、〈業務プロセス全体の見直し〉へ一歩踏み出すこととなったのだ。
2010年代後半~
デジタル社会の基盤整備始まる
13年に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)」が公布され、デジタル社会の基盤づくりが大きく前進した。マイナンバー制度は、行政手続きや情報連携のあり方を根本から変えるものであり、小誌でも繰り返し制度導入の留意点や税務業務への影響などを取り上げている。
マイナンバー制度は、自治体情報化の目的をさらに広げたといえよう。それまでの行政内部の業務効率化やコスト削減だけでなく、住民の利便性向上を目的としたサービス改革がより明確なテーマとなったのである。この流れの中で、「証明書コンビニ交付」「書かない窓口」「行かない窓口(オンライン申請)」など、住民接点の多様化を支えるサービスも発展してきた。
ちなみに小誌創刊100号(15年10月号)では、官民データ利活用社会の構築を取り上げている。この頃から、自治体情報化は個々の手続きの電子化から、データを活用し、手続きをつないで住民により便利なサービスを提供する方向へと舵を切ったのである。
特に、新型コロナウイルス感染症の拡大は、行政手続きのオンライン化を一気に現実の課題とした。感染防止対応という制約の中で、来庁を前提とした紙による申請、職員の手入力に依存した処理は、自治体にとっても大きな負担となったのである。そのため、多くの自治体が書かない窓口やオンライン申請の導入に踏み切った。
そして現在、自治体DXの時代を迎えた。書かない窓口やオンライン申請により住民の利便性は向上したが、後続処理に手作業が残れば職員の負担軽減にはつながらない。今後はフロントヤードとバックヤードを分けて考えるのではなく、申請、審査、決裁、台帳処理、通知まで一連の業務を〝デジタル完結〟するよう見直しが重要となる。
そして、これから
人口減少・少子高齢化を背景に、いま国と地方が一体となったデジタル改革が進められている。特に、システムの標準化・共通化は、従来の〝個別最適〟の情報化から、より広い視点で〝全体最適〟を進めるための基盤整備といえる。情報化の歴史においてはゴールではなく、新たなスタートなのだ。標準化で整えられた共通基盤をどう活用し、職員が住民対応や政策形成により多くの時間を使える環境をいかに実現するか。そこに自治体DXの本質がある。
30年の間には、TKCも法律や社会制度、ICT技術、自治体の価値観の変化に合わせてサービスを進化させてきた。これは単なる製品史ではない。自治体の業務が変わり、住民サービスへの期待が変わり、国の制度が変わる中で、変化を先取りし、自治体の実務を支えてきた証跡といえるだろう。
職員の減少に加えて財政難やサイバーセキュリティーの脅威など、自治体情報化を取り巻く環境は今後一段と厳しさを増す。これに対応するため、AIなどデジタル技術の活用も広がるだろう。だが、求められるのは最新技術の導入ではなく、それを活用して持続可能な行政サービスを実現することだ。
自治体情報化の30年間を振り返ると、制度改正や技術革新の歴史であると同時に、それを住民サービスの向上へ結び付けようとしてきた自治体の挑戦の歴史といえる。事業目的に「行政効率の向上を通じて、住民福祉の増進を実現する」を掲げ、お客さまとともに歩み続けてきた当社が目指すものは、これからも変わることはない。
*TKCホームページから、「イノベーションへの挑戦」をご覧いただけます。