2026年10月号Vol.144
【TKC+パートナー企業 座談会】DX推進の現場に寄り添い課題をともに解決する
人口減少・少子高齢化に伴い、自治体の職員不足は一段と深刻化している。小規模団体ではなおさらのこと。こうした現場を支えるのが、地域に根差したTKCアライアンスパートナー企業だ。さらなる自治体DXの推進支援へパートナー2社とともに現状や今後の展望を語り合う。
株式会社テクノラボ 取締役副社長 邉見広幸 氏
株式会社鳥取県情報センター 専務取締役 奥田敏行 氏
株式会社TKC 代表取締役専務執行役員 地方公共団体事業部長 飛鷹 聡
司会 本誌編集委員 吉澤 智
──本日は、基幹業務システムを中心に業務提携を結ぶパートナーの2社にお集まりいただきました。それぞれの事業概要をご紹介ください。
株式会社テクノラボ
邉見広幸 副社長
株式会社鳥取県情報センター
奥田敏行 専務
邉見 テクノラボ(本社・北海道札幌市)は、北海道全域を対象にICT事業を幅広く展開しています。
中でも自治体向けでは、①基幹業務、②内部情報、③行政サービスデジタル化、④インフラ・ネットワーク──の四つの専門チームを設置し、TASKクラウドサービスの導入・運用支援のほか、庁内インフラの構築・保守などのサービスを提供しています。
担当する北海道は、極めて広大です。面積では都道府県の面積順に小さい方から24都府県を積み上げた広さに匹敵します。また、距離では東西約750キロメートルと、これを例えるなら東京から島根県松江市までとなります。そうした広いエリアをカバーし、現在34団体にTASKクラウドサービスをご利用いただいています。
奥田 鳥取県情報センター(本社・鳥取県鳥取市)は、1969年に鳥取県と商工団体が県と県内市町村の電算業務の受託・支援を目的として設立した公益財団法人を前身とし、09年4月に会社組織へ移行しました。現在、営業エリアは中国地方を中心に県外へ広がりましたが、自治体支援に特化するという点は創設以来変わっていません。
TASKクラウドサービスをはじめ各種業務システムの導入・運用支援のほか、「鳥取情報ハイウェイ」の管理や情報インフラの提供、データセンターサービス、監視サービスなど自治体のICT全般を支えるのが当社の役割です。特に自社データセンターを拠点としたクラウドサービス(TASKクラウドを含む)は、全国約240団体にご利用いただいています。
〝地域密着〟サービスが自治体支援の原点
飛鷹 TKCは現在、全国約1150団体のお客さまを支援しています。そのサービスを支えているのが、当社15カ所の営業拠点と、全国約50社のアライアンスパートナーの皆さんです。
行政情報システムの市場では、以前から自社製品・サービスの販売を外部のパートナー企業に委託するビジネススタイルが拡がっています。当社でも82年から、自社にない資源や強みを持つ企業とパートナー契約を締結し、直接販売ではサポートが行き届かない市区町村の皆さんにシステム・サービスをお届けしてきました。
その特長は、〈お客さまとパートナー企業、当社の三者がともに成長できる〉関係を大切にしていることです。
そのため、パートナーが担当するエリアのお客さまとの契約や日常的なサポートは各社が主体となり、システムの開発元である当社は後方支援に徹しています。具体的には、パートナー各社を支援する専門部署を設置し、各種システムの提供に加えて、最新情報やリソースの提供、ツール・ドキュメント等の共有、教育・トレーニングの実施、コールセンター(TKCカスタマーサポートサービス株式会社)による支援などを行っています。
このように、それぞれの役割分担を明確にすることで、地域の実情に合わせた質の高いサービス提供とサポートの実現を後押ししています。
その最たる例がシステム標準化への対応といえるでしょう。TKCとパートナー各社それぞれが、担当する地域の枠を越え、技術や人的リソースの相互協力を行うなど〝総力を結集〟して支援した結果、全てのお客さまにおいて、期限内に標準仕様システムへの切り替え/ガバメントクラウドへの移行を完了することができました。
──テクノラボと鳥取県情報センターでは、それぞれ地域に根ざしたサービスを展開されています。お客さまをサポートする上で大切にしていることを教えてください。
邉見 地域密着企業の役割は、事業活動を通じて住民や地域の幸せな未来づくりに貢献することです。だからこそ、われわれは単なるシステム提供会社であってはいけないと考えています。職員の視点に立って、業務効率化や住民サービス向上のための提案をすることは私たちの責務といえるでしょう。
そのため、一番大切にしているのは、「顔の見える関係」です。
システムの運用サポートでは一般に電話対応が中心となりますが、当社ではできるだけ現場へ足を運ぶことを心掛けています。毎週の巡回訪問のほか、当初課税など重要なイベントの際には複数チームが連携して訪問支援を行うこともあります。こうした日々の支援を通じて、頼れるパートナーとしての信頼関係の構築に努めています。
奥田 当社では、「One Team for Partner」というスローガンを掲げています。
この言葉には、〈導入・運用、インフラ、セキュリティーなど、各分野の担当者が組織の垣根を越えてワンチームとなり、真に喜ばれるサービスを提供し、お客さまを支える〉という当社の決意が込められています。
邉見さんもおっしゃったように、われわれの役割は、システムを導入して正常に稼働すれば終わり──ではありません。それを活用して、いかに住民サービス向上や業務効率化につなげるかまで支援することが重要です。
ICTの専門知識と、長年の実績で培った行政業務への理解を強みとして、お客さまの課題を見極め、本当に価値のある最適なサービス・サポートを提供するよう心掛けています。
進捗が二極化するDX、小規模団体をどう支えるか
──システム標準化が一段落し、これからDX推進が本格化します。推進にあたっての課題は何で、その解決にどう貢献しようと考えていますか。
本誌編集人・飛鷹
本誌編集委員・吉澤
飛鷹 市場全体の問題として、まず運用コストの高止まりが挙げられます。
当社では標準化対応にあたり、デジタル庁が推奨する「共同利用方式/アプリケーション分離」(マルチテナント)方式を採用し、それぞれの団体にかかるクラウド基盤利用料の低減を実現しました。それでも、従来に比べて運用コストは上がっています。そのため、さらなるコストダウンを目指して検討を進めています。
もう一つがサイバーセキュリティーの脅威です。特にAIの急速な進化は、これまでのセキュリティー対策のあり方を根底から覆すこととなりました。記憶に新しいのが、今春に登場した高性能AI「クロード・ミュトス」でしょう。開発会社が「悪用されたら危険」と製品の一般公開を見送るなど、世界中に大きな衝撃を与えました。
そうした中で、お客さまにこれからも安心してクラウドサービスを利用していただけるよう、より高度な防御策や運用監視体制の構築について検討を開始しました。
奥田 視点を変えると、小規模団体の支援も重要な課題です。DXは持続可能な行政運営の前提条件といえますが、進捗状況を見ると団体規模による二極化が顕著となっています。これは全国的にも同様の状況です。
例えば、鳥取県では19市町村のうち15団体は人口3万人以下で、いわゆる〝一人情シス〟も珍しくありません。こうした市町村を支援するため、国はCIO(最高情報責任者)やCIO補佐官、地域情報化アドバイザーの派遣などに取り組んでいますが、任期が限られ、なかなかノウハウなどが残りにくい状況です。地域密着企業として、われわれがどんな解決策を提供できるか、しっかり考える必要がありますね。
小規模団体が限られた職員でも行政サービスを持続できるよう支援するには、システムやサービスの導入・運用に加えて、業務フローの可視化や優先順位付け、定着まで一貫して支える専門的なサポートが重要でしょう。その意味では、当社が行政と住民の中間的な存在として職員不足を補い、行政サービスの維持・向上を支えるようなことができないかと考えています。
邉見 北海道も同じで、道内179市町村のうち127は人口1万人以下の団体です。こうした小規模団体が動かなければ、国が進める自治体DXの成功はありえませんね。
以前、民間シンクタンクが行った都道府県別自治体DXの進展状況の分析結果を見ると、北海道は低評価となりました。要因として、団体数が多く、そのほとんどが小規模で推進できる人材の不足などが挙げられていますが、個人的には効果が見えにくいことが大きな壁になっていると考えています。
例えば、コンビニ交付の場合、小規模団体では、①店舗がない・住民の利用がさほど見込めない、②そもそも来庁者が少ないため、窓口の混雑緩和や業務軽減の効果が見込めない──など、メリットが生まれにくい状況です。しかし、公平性ということでは、どこに住んでいても同じ行政サービスを受けられるべきでしょう。地域を超えて〝全国・広域規模での最適化〟という視点で、効果を捉えることも必要です。
地域間格差を解消するために、先進事例を積極的に横展開して、財政が厳しい団体でも取り組みやすい提案を行うことが、われわれの役割ですね。
飛鷹 おっしゃるとおり、小規模団体の支援はますます重要なテーマとなりますね。特に、職員の皆さんは数年で人事異動があるため、継続して運用を支援していかなければ持続的な効果は期待できないでしょう。
この点、標準化によってシステムの仕様や業務フローが統一されたことで、サポートの質向上もしやすくなると考えています。一例が職員の皆さんが日々行う業務のサポートです。特定の業務ではなく、個々の職員に焦点を当てて円滑な業務遂行を支援する新たな仕組みの研究にも着手しました。
DX推進で広がり始めた共同化・広域化の新潮流
──小規模団体のDX推進ということでは、都道府県による共同化・広域化の動きも注目されます。システム等の共同調達や共同利用のほか、業務の共同処理・アウトソーシングなども全国で広がり始めました。
邉見 北海道でも、道庁がハブとなって市町村や民間と連携するDX推進体制の構築が進められていますが、業務ルールの共通化や合意形成の難しさもあって、未だ手探りの状態にあるように思います。業務の共同化ということでは、直面する課題を共有する近隣団体同士が自主的に取り組む方が、歩調も合わせやすく、比較的早いスピードで進むのではないでしょうか。
その点では町村会の動きに注目しています。すでにシステムの共同調達や共同利用を行っているところも多く、町村会を中心に法定事務以外の共同処理などが進むことも期待されますね。
奥田 共同化・広域化は、確実に進んでいくでしょうね。これまでも、消防や下水道、ごみ処理などの運営で複数団体が連携して業務の効率化やコスト削減を図る例がありましたが、最近では福祉業務分野でも共同化の動きが活発化しています。
例えば生活保護業務の場合、小規模団体は独自に福祉事務所を設置する義務がなく、都道府県へ事務を委任するほか、近隣自治体と共同処理を検討するケースもあります。そこでボトルネックとなるのが、業務システムです。従来のシステムは自治体ごとに利用することを前提としており、共同でやろうとすると途端に業務とシステムが追いつかない。「このギャップをどう埋めればいいか」など共同化に関する相談も増えてきました。
飛鷹 当社にも、「基幹業務システムの共同利用について話を聞きたい」という問い合わせが増えています。また、一部に市町村合併の動きも見られますが、今後は〝物理的〟な合併ではなく、業務を全国や広域圏で共通化・共同運用するといった〝仮想的・機能的〟な統合が主流となっていくでしょうね。
TKCの基幹業務システムを利用する市町村にとって、納税通知書など大量一括処理のアウトソーシングは当たり前のサービスとなっていますが、全国的にはまだ自庁処理を行っている例も少なくありません。その点では、われわれのお客さまはすでに「当初課税業務の処理を共同化している」といえます。ただ、5年先、10年先もこのまま同じサービス形態で十分だとは考えていません。
そのため、次代のアウトソーシングサービスとして、「BPaaS」(システムと専門人材による業務代行を組み合わせ、業務プロセスそのものを丸ごと外部委託するクラウドサービス)の検討も開始しました。
持続可能な行政運営へこれからも支え続ける
──DX推進について、今後の展望をお聞かせください。
邉見 いま「自治体DX」という言葉ばかりが先行していますが、ここで求められているのは〈住民や地域社会も含めて、デジタルの恩恵を実感できる社会〉をつくるための「日本DX」に取り組むことです。
道路や橋が地域社会を支えているように、デジタルも社会インフラとして考えるべき時代になりました。行政サービスもデジタル基盤がなければ成り立ちません。そのインフラを守るのは、われわれのような地域密着企業です。デジタル化やDXというとコストばかり注目されがちですが、そうではなく「長期的な行政サービスの持続可能性」といった、住民や地域社会が享受できる大きなメリットにも目を向けることが大切ですね。
奥田 DX推進の支援は、当社としても大きなテーマと捉えています。
ロボットやAIなどデジタル技術はさらに進化し、活用の幅も確実に広がっていくでしょう。特に、AI活用では安全性重視のプライベートクラウドが再び注目されており、この点では自社データセンターを持つ強みを生かして、安全に利用できるAI活用基盤の構築などを目指したいと考えています。とはいえ、これらはあくまでも手段であり、目的は「自治体をいかに持続させるか」です。
自治体が抱える課題はそれぞれ異なり、それに対して当社が全ての解決策を持っているわけでもありません。ただ、一緒に考えることはできます。課題整理や解決策の検討、AIなどのデジタル技術やデータをどう活用して業務改革につなげていくか──お客さまと同じ視点で取り組む。これからも、そういう存在であり続けたいですね。
邉見 まさに同感です。これからのサポートでは〝伴走〟ではなく、横に並んで一緒に進む〝並走〟役でありたいと考えています。自治体の要望に応えるだけではなく、同じ目線で一つのゴールを目指して、一緒に企画し、考え、実現していくことが必要でしょう。
そのためには、われわれも成長しなければなりません。今、システムとセールス、サービスの役割を兼ね備えた「スーパーエンジニア」の育成を計画しています。そして、お客さまに最適なICT環境の企画・提案、設計等を通じて、われわれも住民サービス提供の一員となることを目指します。
人口減少時代を迎え、DXは単なる効率化を超え、持続可能な行政運営に欠かせない生存戦略となりました。
特に〝一人情シス〟のような小規模団体では、何から始めればいいか分からないと悩むところもあるでしょう。まずは小さな一歩を踏み出すことが大切です。われわれのような事業者も含め、身近で力になってくれる存在は必ずいます。ぜひ、相談していただきたいですね。
奥田 おっしゃるとおりですね。
標準化によってDXを推進する基盤は整いました。これまでの標準化対応は、国が定めた標準仕様へいかに準拠するかに主軸が置かれてきましたが、これからは、よりユーザー視点に立った使いやすいシステム・サービス、機能の提供が期待されるようになるでしょう。TKCとともに、われわれもリソースや技術、ノウハウなどを結集し、お客さまの期待に応えていきたいと考えています。
飛鷹 「行政効率の向上と住民福祉の増進を支援する」という、TKCとパートナー企業の役割はこれからも変わることはありません。
これまで、当社は四つの変化(法律の変化、社会制度の変化、ICTの変化、お客さまの価値観の変化)に着目して、イノベーションに挑み続けてきました。例えば、AIもICTの変化の一つであり、大いに活用して新たな価値を提供したいと考えています。
とはいえ、どれだけ技術や製品が進歩しても、最も大切なのは自治体職員の皆さんに寄り添い、サポートすることです。そのためにも、より多くの〝仲間〟との連携を模索したいですね。そして、「持続可能な行政運営を支える」という高い視線を持って、これからもパートナー各社とともにわれわれの使命を果たしてまいります。
撮影 中島淳一郎
左から、飛鷹、奥田専務、邉見副社長、吉澤