更新日 2026.10.08

デロイト トーマツ 税務・法務領域
DT弁護士法人
弁護士吉田 哲
このコラムでは、取適法(旧下請法)、フリーランス法といった最近改正・施行された法律の概要をはじめ、公正取引委員会(公取委)による近時の取引適正化への取組についてご紹介します。
当コラムのポイント
- 取適法(旧下請法)やフリーランス法に関し、法令の概要や執行事例をご紹介
- 改正物流特殊指定、支払告示など、公取委の「取引適正化」に関する最新の取組についても解説
- サプライヤとの取引において気を付けるべき点が学べる
- 目次
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今回は、連載第1回ということで、まずは取適法(旧下請法)の概要について説明します。
1.取適法の位置付け
取適法は、従来から存在する法律である「下請法」(正式名称:「下請代金支払遅延等防止法」)を改正するに当たり、新たに名称を変更したもので、本年(2026年)1月1日から施行されています。正式名称を「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称を「中小受託取引適正化法」といい、この通称に基づく略称が「取適法」です。正式名称には「取」も「適」も入っていないのに「取適法」と呼ぶのはなんとも奇妙な感じがしますが、所管官庁である公正取引委員会(公取委)が自らそう呼び始めたので仕方ありません。
取適法は、公取委が所管するメインの法律である「独占禁止法」(正式名称:「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」。略称:「独禁法」)における規制の一つである「不公正な取引方法」の一類型「優越的地位の濫用」を補完する法律です。
独禁法は、公正かつ自由な競争を阻害する行為を規制する法律であり、その中の「優越的地位の濫用」は、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為を規制します。しかしながら、自己の取引上の地位が相手方に「優越」しているか、「正常な商慣習に照らし不当に不利益を与え」ているか、といった要件は抽象的であり、違反の認定にリソースと時間がかかってしまいます。
これに対し、取適法は、類型的に優越的地位が認められる一定の委託取引に関して、発注者(「委託事業者」)がサプライヤー(「中小受託事業者」)に対して一定の不当な行為を行った場合に、定型的に違法とするものです。違反要件を形式化することで、独禁法の「優越的地位の濫用」に比べて機動的な執行を可能としています。(なお、一方で、執行が形式的に過ぎ、独禁法の「優越的地位の濫用」に比べて、柔軟な実質判断が行われない傾向があるとの指摘もされています。)
なお、取適法の適用対象とならない取引につき、別途「優越的地位の濫用」が成立し、独禁法違反となる可能性もありますので、一定の注意が必要です。
2. 取適法の適用対象となる取引
それでは、上記の「取適法の規制対象となる一定の委託取引」とは、どのようなものでしょうか。
取適法の規制対象となる取引に該当するか否かは、(1)取引の内容(何を発注したか)と、(2)取引当事者(どのような規模の発注者が、どのような規模のサプライヤーに対して発注したか)によって規定されています。以下、それぞれについて見てみましょう。
(1) 適用対象となる取引の内容
取適法の適用対象となる取引は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託及び特定運送委託の5種類であり、それぞれの中にいくつかの類型があります。詳細は以下のとおりです。
- 製造委託:
物品を販売し、又は製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託すること(4類型) - 修理委託:
物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託すること(2類型) - 情報成果物作成委託:
ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託すること(3類型) - 役務提供委託:
他者に対して運送やビルメンテナンスなどの各種サービス(役務)を提供する事業者が、提供する役務の全部又は一部を他の事業者に委託すること(1類型) - 特定運送委託(今般の改正により追加):
物品の販売等における取引の相手方(その取引の相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(4類型)
取適法のコンセプトとして、発注者が顧客に対して製品・サービスを提供する場合や、自ら業として(反復継続的に)当該製品・サービスの製造・修理を行っている場合に、それらをサプライヤーにアウトソースする場合のいわゆる「下請構造」を問題とする、というものがあり、発注者が単なるエンド・ユーザーとしてサプライヤーの製品・サービスを享受するに過ぎない場合は基本的には取適法対象外となります。(たとえば、今般の改正により追加された「特定運送委託」も、運送委託全般の中で、そういった下請構造が観念できるものだけがピックアップされたものといえます。)
(2) 適用対象となる取引当事者
取引の内容が上記の5種類のいずれかに該当した場合、発注者及びサプライヤーが、それぞれ一定の資本金基準又は一定の従業員数基準を満たしているときに、その取引は取適法適用対象取引となります。
基準は以下の図のとおりです。例えば、物品の製造委託を行う場合で考えると、発注者の資本金が5億円(=「3億円超」)のときは、サプライヤーの資本金が「3億円以下」であれば当該取引は取適法適用対象取引となります。一方、サプライヤーの資本金が3億円超であれば、資本金基準からすると取適法適用対象となりませんが、その場合であっても、従業員数基準により、発注者の従業員数が例えば500人(=「300人超」)であれば、サプライヤーの従業員数が「300人以下」のときは、取適法適用対象取引となります。
なお、これら資本金基準・従業員数基準による取適法適用の判断は、発注時に判断されます。継続的な取引においては、特に発注者又はサプライヤーの従業員数の変動により、個別の発注時に、新たに取適法適用対象となることがありますので、注意が必要です。
3. まとめ
以上、今回は、取適法の概要をお示しするべく、まずは法体系における取適法の位置付けと、取適法の適用対象となる取引についてご説明しました。
とりわけ、今般の改正により、新たに適用対象となる取引の内容が追加され、また、適用対象者の判定において従業員基準が追加されたことにより、その運用は複雑さを増していますので、サプライヤーへの発注に際しては、一層の注意が必要となります。
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プロフィール
吉田 哲(よしだ さとし)
デロイト トーマツ 税務・法務領域
DT弁護士法人
- 略歴
- 2006年東京大学法学部卒、2008年京都大学法科大学院修了。総合電機メーカーのインハウス弁護士(インフラ事業部門、半導体事業米国現地法人等に所属)を経て2020年DT弁護士法人入所。2022年から2024年にかけて公正取引委員会経済取引局デジタル市場企画調査室に出向し、デジタル市場に関する実態調査等に従事。競争法案件を中心に、国内外のM&A・組織再編案件、契約案件、その他企業法務案件を取り扱う。
[本稿は筆者の個人的見解を示すものであり、所属する組織の見解を代表するものではありません。]
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