更新日 2022.10.06
2022年9月25日の朝日新聞の記事は、冒頭で「百貨店 大手・三越伊勢丹グループと国税局が2年にわたる攻防を繰り広げ、今春ようやく決着がついた」としていますが、この部分について、少し補足説明をすることとします。
東京国税局は、国税庁が国税庁仕訳表を公表した2020年1月から、税務調査において、共通ポイントの消費税の処理は国税庁仕訳表にあるとおりにするべきであると主張するようになりました。
その主張どおりの処理をするということになると、共通ポイントの加盟店は、顧客にポイントを付与する取引を行った時に、ポイントの発行会社に支払うポイント費用が法人税法上は販売促進費等として損金となるものの消費税法上は課税仕入れとはならないということになり、納付するべき消費税額が増加することとなります。
国税庁が国税庁仕訳表を公表した後、共通ポイントを発行しているある企業は、顧客にポイントを付与する取引を行った加盟店がポイントの発行会社に支払うポイント費用について、従来は課税取引としていたものを国税庁仕訳表に示されたとおり不課税取引に変更するということで国税当局に確認を取ったと聞くところであり、現に、大口の加盟店の一部に対し、その旨の説明資料を配布して加盟店の消費税の納税額が増えることになるという説明(注4)を行っています。
(注4) この説明は、加盟店の消費税の処理について、国税庁仕訳表の処理と全く同様に、ポイントの付与時のポイント費用は課税仕入れにはならないとしたものであり、その結果、加盟店の消費税の納税額が増えるという内容のものとなっていました。
つまり、この説明は、国税庁の国税庁仕訳表と同様に、ポイントの使用の従来の処理についても、本来は「値引き」と処理するべきところ、そのような処理を行ってこなかったという問題があることを看過したものとなっていたわけです。
しかし、ポイントの使用が「値引き」になるということであれば、ポイントの使用時の消費税額が減少し、加盟店の消費税の納税額が増加するということにはならないわけですから、ポイントの使用が「値引き」となるのか否かということは、非常に重要となります。
東京国税局からも、国税庁が従来から共通ポイントの使用は「値引き」ではないとしてきたこと、また、国税庁仕訳表の公表後に共通ポイントを発行しているある企業と国税当局との間で既に上記のような確認が行われていたことなどによるものと思われますが、「難しい問題であるため、よく検討して検討結果を残しておくようにしたいので、照会文書を出して頂きたい」という依頼がありました。
このため、筆者は、ポイントの使用について「値引き」という処理をすることでよいかという内容の照会文書を作成し、そのような処理をする理論的な根拠として、2021年10月に当コラムに寄稿させて頂いた「ポイント制度における消費税の取扱いの検証」の写しを添付して、同月に、東京国税局に照会を行いました。
その照会に対する東京国税局の回答が2022年4月にあり、その回答は、ポイントの使用について「値引き」という処理をすることでよい、というものでした。
上記の朝日新聞の記事は、東京国税局が税務調査でポイント費用は課税仕入れとはならないという主張をするようになってから上記の照会に対する回答を行うまでの期間の全体を「2年にわたる攻防」と捉え、「今春ようやく決着がついた」としているものです。
なお、やや余談にはなりますが、新聞記事の読者には共通ポイントを用いた取引やその取引に関する税の処理に詳しくない方々も数多くおられるわけですから、上記の記事には、自社ポイントを用いて買い物をする時だけでなく共通ポイントを使用して買い物をする時にも、ポイントの使用が「値引き」になるということについて、例えば、「共通ポイントの使用も「値引き」になるということは、自社ポイント・カードと共通ポイント・カードの両方を持って買い物をする主婦の方々が一番よく知っている」などというように、もう少し実感と納得感のある分かり易い記述があってもよかったのではないかと感じているところです。
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