棚卸資産の販売収益の計上時期の検証

第4回 法人税法22条の2第1項及び第2項の検証

更新日 2021.04.12

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株式会社TKC 顧問 税理士 朝長英樹

株式会社TKC 顧問
税理士 朝長 英樹

法人税法における収益の計上時期に関する解釈を述べるものにおいては、棚卸資産の販売収益の計上時期について争われた平成5年11月25日の最高裁判所の判決の解釈が多く引用されています。
本コラムでは、平成5年最高裁判決の一審判決と二審判決を含めて3つの判決のそれぞれの収益の計上時期に関する解釈を確認し、平成5年最高裁判決における収益の計上時期に関する解釈が正しいとは言い難いものであることを具体的に示します。さらに、平成30年度税制改正によって新たに制定された収益の計上時期に関する定めである法人税法22条の2第1項及び第2項の検証も行い、同改正以後における棚卸資産の販売収益の計上時期の解釈の課題について考察します。

1.法人税法22条の2第1項の制定の経緯等の検証

 平成30年度税制改正において、法人税法22条の2が新たに制定されており、収益の計上時期について定めた同条1項は、次のとおりとなっています。

 第22条の2 内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下この条において「資産の販売等」という。)に係る収益の額は、別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

 この法人税法22条の2第1項には、「別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き」という文言がありますので、その文言どおりに同項を解釈すると、収益の計上時期に関して同法22条2項に定められているものについては、同法22条の2第1項は適用されないこととなります。
 一方、法人税法22条2項にも、「別段の定めがあるものを除き」という文言が存在していますので、収益の計上時期に関して定める同法22条の2第1項は、「別段の定め」ということになって、同項に定められているものについては、同法22条2項は適用されない、ということになります。
 このため、法人税法22条2項と22条の2第1項を文言どおりに正しく解釈するとすれば、両方が「別段の定め」としてお互いを除くこととなり、収益の額の計上時期に関しては、いずれの規定も適用されない、ということになってしまいます。
 これに関しては、財務省が公表している『平成30年度 税制改正の解説』において、「資産の販売等に係る収益を益金の額に算入するかどうかについては引き続き法人税法第22条第2項の規定によることとし、その時期及び金額について同法第22条の2で規定されていると整理された」(273頁)と説明されています。
 しかし、法人税法22条2項が収益認識の時期に関する定めであることは、第2回の3においても確認したとおりですし、同項の改正は全く行われていないわけですから、同項の解釈が変わるなどということがあるはずがありません。
 上記の『平成30年度 税制改正の解説』の説明からすると、資産の販売等に係る収益について「その時期及び金額」に関しては法人税法22条の2に定めたと言おうとしているようですが、同条1項にも、同法22条2項を「別段の定め」と捉えていることが明確に分かる「別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き」という文言が挿入されていますので、この文言からしても、「その時期」に「別段の定め」である同法22条2項が適用されるということが明確です。
 法人税法22条2項の「資産の譲渡」に係る収益の計上時期に関しては、従来から引渡基準によるのが原則であると解されてきたところであり、同法22条の2第1項においても引渡基準によるとされていますので、どちらの規定も適用されるということであれば、基本的には、齟齬はない、と解することができます。
 しかし、法人税法22条の2が制定された後、その制定を受けて改正された法人税基本通達における取扱いは、同法22条2項の解釈として示されていた旧法人税基本通達における取扱いと異なるものが少なくありません。
 このため、収益の計上時期に関して、旧通達と新通達の定めが変わった部分については、新通達の定めをそのまま文言どおりに適用すれば、過大に法人税を納税することとなったり、その反対に、過少に法人税を納税することとなって税務調査で否認されたりすることが有り得る、ということになります。
 また、法人税法22条2項の「役務の提供」に関しては、なお一層、難しい問題が生じています。
 法人税法22条2項の「役務の提供」に関しては、従来から完了基準によるのが原則であると解されてきたわけですが、同法22条の2第1項においては、「役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する」というように、提供基準によることを明記しています。
 このため、特に、「役務の提供」に係る収益に関しては、法人税法22条2項と同法22条の2第1項のいずれの規定を適用するのかということが大きな問題となります。

 このように、法人税法22条2項と同法22条の2第1項及び第2項との関係は、上記の『平成30年度 税制改正の解説』の説明では、正しく整理することができない状態となっており(注9)、平成30年に法人税法22条の2の企画立案及び条文案の作成を行った者が考えていたこととやったことが違っていると言わざるを得ません。

(注9)このような状態となっているのは、本来は法人税法22条2項の解釈として通達に書くべきことを同法の条文として同法22条の2に書いたことにより、同法に内容が重複する規定が併存することとなったためです。

 国税庁が法人税法22条の2が制定されたことによって収益の計上時期をどのように解釈することとしたのかということを確認してみると、国税庁が公表している「「収益認識に関する会計基準」への対応について」においては、「なお、中小企業の会計処理については、従来どおり企業会計原則等による会計処理が認められることとされていますので、今般の通達改正により従来の取扱いが変更されるものではありません。」というように、従来の取扱いが変更されるものではない、という説明がなされています。
 この従来の取扱いが変更されるものではないという説明は、平成30年の法人税法22条の2を制定する改正が「収益認識に関する会計基準」という大法人等にのみ適用される会計基準の適用に伴って行われたものであることからすれば、妥当性がある、と言ってよいものです。
 ただし、この国税庁の説明がいずれの条文のどのような解釈によるものかということは、明確ではありません。
 このため、税務調査の場面では、調査官が新通達の文言のみを根拠として、収益の計上漏れがあると指摘するということも、十分、有り得る、と考えられますが、そのような場合の対応は、非常に難しくなります。

 また、平成30年度税制改正においては、法人税法22条の2の制定に伴い、同法22条4項に、次のとおり、「別段の定めがあるものを除き」という文言を追加する改正も行われていますので、この改正の経緯等に関しても、検証を行っておく必要があります。

 4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。

 この法人税法22条4項に「別段の定めがあるものを除き」という文言を追加する改正に関しては、『平成30年度 税制改正の解説』において、「〔引用者追加:法人税法22条4項と同法22条の2の〕優先関係を明確にするために、収益認識の時期については法人税法第22条第4項が適用されないこととされたものです。」(273頁)と説明されています。
 しかし、第3回の4において確認したとおり、法人税法22条4項は、収益の額の計算に関する定めであって、収益の額の計上時期に関する定めではありませんので、上記の「収益認識の時期については法人税法第22条第4項が適用されないこととされた」という説明は、同項の解釈を誤ったものということになります。つまり、法人税法22条4項に「別段の定めがあるものを除き」という文言を追加する改正は、同項の解釈を誤ってなされたものである、ということです。
 このように、改正前の法律の条文の解釈を誤って法律改正が行われているという場合に、その改正後の法律の条文をどのように解釈するのかという問題は、難問であり、それに対する決まった答は、ありません。
 ただし、法人税法22条の2第4項及び第5項は、収益の額として益金の額に算入する金額に関する定めとなっていますので、これらの規定に関する限りでは、同法22条4項の「別段の定めがあるものを除き」という部分は、その文言どおりに解釈されるべきこととなって、収益の額の計算に関しては、同法22条の2第4項及び第5項が適用されるものには同法22条4項は適用されない、ということになります。
 そして、この法人税法22条の2第4項に関しては、資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供の全てを指す「資産の販売等」について収益の額として益金の額に算入する金額を定めるものとなっていますので、資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供の全ての収益の額の計算は、同法22条の2第4項及び第5項によって行うこととなり、同法22条4項は、それらの収益の額の計算には適用されない、ということになります(注10)。

(注10)法人税法22条2項の「その他の取引」で、上記の「資産の販売等」に該当しない取引の収益の額の計算には、従来どおり、同条4項が適用されることとなります。

2.法人税法22条の2第1項の内容の検証

 法人税法22条の2第1項は、上記1において引用したとおり、棚卸資産であるのか固定資産であるのかということを区別せずに「資産」という用語を用い、収益の発生事由についても販売と譲渡を区別せずに「販売等」という用語を用いて、資産の販売等に係る収益の額の計上時期について、「目的物の引渡し…の日の属する事業年度」としています。
 このため、上記1において述べたように法人税法22条2項と同法22条の2の関係をどのように整理するのかという問題はあるものの、同条1項の制定により、棚卸資産の販売収益と固定資産の譲渡収益のいずれに関しても、旧法人税基本通達249の但し書きから引き継がれてきた引渡基準によるべきことが明確に法定された、と捉えることができるものとなっています。
 このように、法人税法22条の2第1項は、資産の販売等の収益の計上時期について従来から採られてきた引渡基準によるということを定めているということになりますから、資産の販売等の収益の計上時期について、「権利確定主義」を採ったものと言い得ないことは勿論のこと、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によることとせずに資産の販売等の収益の計上時期を定めたわけですから、「実現主義」を採ったと言うのも適当ではありません。
 それでは、法人税法22条の2第1項の定めは、どのような「主義」によるものと言えばよいのでしょうか。
 その答は、法人税法22条の2第1項の文言から導くほかありませんが、同項においては、同法22条2項とは異なり、収益の額の計上時期を表す明確な文言が用いられていますので、その文言を手掛かりとして、同項がどのような「主義」を採っているのかということを判断することができます。
 その手掛かりとなる文言とは、「属する」という文言です。
 法人税法22条2項においては、第2回の3において確認したとおり、「当該事業年度の収益の額」というように、「の」という文言を用い、それが「帰属」を示すものであると説明されています。このように、収益の計上時期に関しては、「帰属する」のか否かによっていずれの事業年度に収益の額を計上するべきかということを判断することとされているために、法人税法22条2項の収益の額の計上時期に関する解釈を示す法人税基本通達においては、2-1-1の見出しを「棚卸資産の販売による収益の帰属の時期」とし、2-1-14(旧2-1-3)の見出しを「固定資産の譲渡による収益の帰属の時期」とすることとされています。
 「帰属する」も「属する」も、意味は同じですから、法人税法22条の2第1項も、同法22条2項と同じように、「主義」ということでは、「「帰属主義」とも言い得るもの」を採っている、と判断するのが妥当であると考えます(注11)。

(注11)これは、筆者が法人税法22条の2第1項の文言から判断したものであって、平成30年に同項の企画立案及び条文案の作成を行った者が同項の「主義」を「「帰属主義」とも言い得るもの」と考えていたということではない、ということを確認しておきます。

3.法人税法22条の2第2項の内容の検証

 平成30年度税制改正においては、法人税法22条の2第1項の引渡基準の特例として、次のとおり、同条2項において、近接日基準によることができるという定めも設けられています。

 2 内国法人が、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、同項の規定にかかわらず、当該資産の販売等に係る収益の額は、別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

 この法人税法22条の2第2項には、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて」という要件がありますので、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」において採られている「主義」も、同項により、特例として採られることが法定された、という見解もあり得ます。
 しかし、法人税法22条の2第2項において、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」において採られているものを認めるのも、無条件ではなく、収益を計上する事業年度は、「引渡し・・・の日」に「近接する日」の属する事業年度でなければなりません。
 このように、「引渡し・・・の日」に「近接する日」という条件が付けられたものを「権利確定主義」や「実現主義」と言い得るのかというと、「権利確定主義」や「実現主義」においては、「引渡し・・・の日」に「近接する日」に収益を計上しなければならないこととされているわけではありませんし、「権利確定主義」や「実現主義」によらずとも「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って「引渡し・・・の日」に「近接する日」に収益を計上しさえすれば法人税法22条の2第2項の適用を受けることができることになりますので、同項の近接日基準は、「権利確定主義」や「実現主義」に基づくものと言うことはできない、と考えられます。
 それでは、法人税法22条の2第2項の近接日基準は「「帰属主義」とも言い得るもの」に基づくものということになるのかというと、そういうことにもならないと考えられます。
 それは何故かというと、法人税法22条の2第2項に関しては、近接日基準がどのような「主義」に基づくものであるのかという以前に、同項の内容自体に、そもそも疑問があるためです。
 法人税法22条の2第2項の「契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日」という部分の「契約の効力が生ずる日」は、改めて言うまでもなく、「前項に規定する日」(「引渡し…の日」)に「近接」することもあれば「近接」しないこともあります。
 このため、「契約の効力が生ずる日」を「前項に規定する日に近接する日」の例示として条文を定めていることには、疑問がある、ということになります。
 「近接する日」とは、他の法令の使用例から判断すると、1月以内の日と解するのが常識的な解釈と考えられますが、実際の取引では、契約の効力が生ずる日(特別な定めがない限り、契約の締結の日)と引渡しの日とが1月以上離れているものも珍しくありません。
 また、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に「近接日基準」などというものが存在するわけでもありません。
 そして、引渡しの日に近接する日に収益を計上することを良しとする理由が何かということも、明らかではありません。
 収益を計上する日が1日ずれると、収益を計上する事業年度が1期ずれるということもあるわけですから、引渡しの日に近ければ良いという安易な考え方を採るわけにはいきません。
 このように、法人税法22条の2第2項には、そもそもその内容自体が適切であるのかという点で、疑問があります。
 このため、ここでは、法人税法22条の2第2項の「主義」が何かということに関しては、これ以上の言及はしないこととして、同項に近接日基準という「基準」が法定されたという動かしがたい事実があるため、同項が適用される取引の収益の計上時期については、同項の「主義」がどのようなものであるのかということにかかわらず、同項の近接日基準によって判断されることとなる、ということを確認するだけに止めることとします。

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税理士 朝長 英樹(ともなが ひでき)

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