1.はじめに
早いもので年が明け2月となりました。年末に税制改正大綱が発表されることから今年も平成31年度の税制改正に注目が集まっていますが、これから決算申告を迎える3月決算法人の実務としては、平成30年度税制改正の内容を改めて確認することが必要な時期です。平成30年度税制改正では、前年から引き続き「所得拡大・設備投資の投資型税制」に重点がおかれています。特に従来の「所得拡大促進税制」に関しては大きな変更がありました。
加えて、平成29年度以前の改正に関しても適用時期という観点から適用可否の再確認が必要となります。
本稿では2回にわたって3月決算法人のうち主に大法人向けに「法人税申告(地方税含む)の直前対策」として、平成30年度税制改正の内容を中心に、平成29年以前の改正によるものであっても、平成31年3月期の法人税等の申告(以下「本年度申告」)に影響を与える項目についてポイントを解説します。
※本文中の元号に関しましては、本稿執筆時点においては新元号が決まっていないことから将来年度についても「平成」の元号を使用しておりますことをお断りしておきます。
2.適用税率
各税目について本年度申告において適用される税率の概要は以下の通りであり、一部の税目において税率変更となっています。
(1) 法人税
平成28年度税制改正において引き下げられた税率が適用され、本年度申告に適用される法人税率は23.2%となり、前年度から変更(引き下げ)となっています(法法66、H28改正法附則26)。
平成31年3月期決算において税効果会計に適用される法定実効税率の計算にも影響を与えることから注意が必要です。
(2) 地方税
事業税については外形標準課税の割合が段階的に拡大されているところですが、本年度申告に適用される税率は前年度と同じです。
住民税(所得割)についても本年度申告における変更はありません。
なお、税源移譲のための住民税(所得割)税率の引き下げ、地方法人税率の引き上げ、地方法人特別税の廃止といった事項が予定されていますが、消費税の税率を10%に引き上げる時期が平成31年10まで延期されていることに伴い延期されています。
予定通りであれば消費税は平成31年10月に税率の引き上げが実施されますが、住民税等の税率に関する変更は平成31年10月以後開始事業年度からの適用となっており、3月決算法人で決算期の変更等がなければその影響がでるのは平成33年3月決算となります(地法51、地法314の4、地法72の24の7①一、③一、地方法人特別税等に関する暫定措置法2、9)。
税目 |
平成30年3月期 |
平成31年3月期 |
平成32年3月期 |
|
法人税 |
23.4% |
23.2% |
23.2% |
地方法人税 |
4.4% |
4.4% |
4.4% |
住民税(法人税割) |
12.9% |
12.9% |
12.9% |
|
事業税(所得割) |
0.7% |
0.7% |
0.7% |
地方法人特別税 |
414.2% |
414.2% |
414.2% |
地方法人特別税を含む事業税 |
3.6% |
3.6% |
3.6% |
法定実効税率 |
29.97% |
29.94% |
29.94% |
事業税(付加価値割) |
1.2% |
1.2% |
1.2% |
事業税(資本割) |
0.5% |
0.5% |
0.5% |
※3月決算法人を前提とする。
※外形標準課税適用法人・軽減税率不適用法人の場合。表中の税率は標準税率による。
3.繰越欠損金
繰越欠損金については、数年間にわたって繰越限度額の引き下げが行われておりましたが、本年度申告において最終段階となります。これに伴い繰越期間についても変更となりました。
(1) 控除限度額
中小法人等以外の法人の繰越欠損金の控除限度額が、本年度申告においては50%と前年度からさらに引き下げられています。これにより段階的引き下げの最終段階となりました(法法57条①、58①、H27改正法附則27②)。
平成27年4月1日以後開始事業年度 |
65% |
平成28年4月1日以後開始事業年度 |
60% |
平成29年4月1日以後開始事業年度 |
55% |
平成30年4月1日以後開始事業年度 |
50% |
(2) 繰越期間
平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金については繰越期間が10年に延長されることから、平成31年3月期に生じた欠損金の繰越期間は10年へと延長になりました(H27改正法附則27①)。
事業年度 |
H24.3期 |
H25.3期 |
H26.3期 |
H27.3期 |
H28.3期 |
H29.3期 |
H30.3期 |
H31.3期 |
繰越期間 |
5年 |
7年 |
9年 |
9年 |
9年 |
9年 |
9年 |
10年 |
4.外形標準課税の段階的拡大に対する負担軽減措置(中堅企業への特例)
平成27年度及び28年度税制改正にかけて、外形標準課税の拡大が行われましたが、これに合わせて平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する事業年度について、付加価値額40億円未満の中堅企業を対象とした負担軽減措置が設けられています。
負担軽減額については年々引き下げが行われており、原則3月決算法人においては本申告年度において特例適用最終年度となります。
(1) 概要
当該事業年度の所得割、付加価値割、資本割の現行税率で計算した税額から、平成28年3月31日現在の旧税率で計算した税額を控除した金額(すなわち税率変更による事業税(所得割+付加価値割+資本割)の増加額)を基に、以下の算式により計算した金額を事業税額から控除することになります。付加価値額が30億円を超えると控除率が段階的に引き下げられ、付加価値額が40億円に達した段階で控除率がゼロとなります(H27地法改正法附則8②~5、H28地法改正法附則5②~⑦)。
(2) 本年度申告に適用される税率、算式
控除額計算に適用される税率(標準税率)
|
平成28年3月期 (旧税率) |
平成31年3月期 (現行税率) |
所得割 |
年400万以下の所得 |
1.6% |
0.3% |
年400万円超800万円以下の所得 |
2.3% |
0.5% |
年800万円超の所得 |
3.1% |
0.7% |
付加価値割 |
0.72% |
1.2% |
資本割 |
0.3% |
0.5% |
控除率の算式(平成31年3月期の場合)
付加価値額 |
控除額 |
30億円以下 |
(現行税率による事業税額-旧税率による事業税額)× 1/4 |
30億円超40億円未満 |
(現行税率による事業税額-旧税率による事業税額)× (40億円-当期付加価値額)/ 40億円 |
40億円以上 |
控除なし |
(続く)