更新日 2018.06.25
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士 小山 勝
法人税及び地方法人税の連結確定申告書の申告業務においては、処理が大量になる傾向がありますが、電子申告を利用することで、大きな業務効率化を図ることが可能となります。
当コラムでは、連結確定申告書等を電子申告する際の留意点として、提出書類などを中心に解説します。
当コラムの第1回では、連結確定申告書等で提出すべき書類について整理しました。第2回では、電子申告の対象書類について確認していきます。
また、平成30年度税制改正により大法人の電子申告が義務化されましたので、その内容にも触れていきます。
1.電子申告で送信する書類・書面で提出する書類(平成30年度税制改正前)
提出すべき書類を把握した後は、それらを電子申告によりデータとして送信する書類と、書面により郵送などで提出する書類とに区分する必要があります。大まかにまとめると以下のようになります。
(1) 電子申告データとして送信する書類(連結確定申告書及び地方税法人税確定申告書)
- ①連結確定申告書及び地方法人税確定申告書別表1の2及び別表1の2次葉
- ②連結法人税額・連結地方法人税額の計算の基礎を記載した書類
- ③連結事業年度分の適用額明細書
- ④個別帰属額等の一覧表
- ⑤連結法人税の個別帰属額の届出書、個別帰属額の計算の基礎を記載した書類(注1)
- ⑥貸借対照表及び損益計算書、株主資本等変動計算書等
- ⑦勘定科目内訳明細書
- ⑧会社事業概況書
- ⑨出資関係図
- ⑩電子申告及び申請・届出による添付書類送付書(注2)
(注1)当コラムの第1回で触れたように、連結子法人分は添付を省略することができます。
(注2)書面提出の書類がある場合にその書類名を記載し、申告データと併せて送信します。
②は、具体的には、別表4の2から別表17(4)までといった、いわゆる申告書別表です。
④以降は添付書類ですが、注意を要するのが⑥、⑦及び⑧です。⑥についてはXBRL形式、⑦及び⑧については申告書と同様にXML形式のデータだけが送信できます。e-Tax(国税庁ソフト)では、平成28年4月から、一部の添付書類をPDF形式で送信できるようになりました。しかし、財務諸表や勘定科目内訳明細書のように、従来からXBRL形式やXML形式といった定められたデータ形式での送信が求められているものに関しては、引き続きXBRL形式やXML形式での送信が求められており、このような書類をPDF形式のデータで送信しても、それは無効となります。したがって、財務諸表や勘定科目内訳明細書については、XBRL形式やXML形式によらない場合は、書面での提出が必要となります。
なお、⑨についてはPDF形式のデータで送信することができます。
詳しくは、国税庁のHPをご覧ください。
http://www.e-tax.nta.go.jp/imagedata/imagedata1.htm
現在、多くの法人は財務諸表や勘定科目内訳明細書を書面で提出されていると思いますが、この点に関しては、平成30年度税制改正で見直しがされましたので、後ほど触れていきます。
(2) 書面により提出する書類
①e-Taxの仕様に準じて作成されていない書類
例えば、別表で用意されている明細書では欄が不足してしまうため、記載しきれない明細を別葉(別紙)に記載し、別表と併せて提出する場合があります。このような別葉などの書類は、電子申告の対象外となりますので、書面で提出する必要があります。
また、上記(1)で見たように、財務諸表、勘定科目内訳明細書、会社事業概況書については、XBRL形式やXML形式によらない場合は、書面での提出が必要となります。
②申告書作成システムで対応していない書類
システムを利用して申告書を作成する場合、そのシステムで対応していない別表については、別途手書きするなどの必要があります。このように別途手書きした書類などは、電子申告の対象外となりますので、書面で提出する必要があります。
(3) 電子申告の対象外書類を提出(郵送等)する場合の提出部数
電子申告の場合、申告データは1部送信します。これに対して、別途書面で提出する添付書類等については、申告書等を書面で提出していたときと同様の必要部数を提出します。
書面提出の場合の提出部数は、決算月の翌月中旬頃にe-Taxのメッセージボックスに格納される確定申告に関するお知らせなどで確認できます。
法人税申告書の提出部数は、原則として次のとおりです。
- ①資本金が1億円以上の法人(調査課所管法人):3部
- ②資本金9,000万円以上又は法人税額5,500万円以上の法人(税務署所管法人のうち会計検査院該当):2部
- ③それ以外の法人(税務署所管法人):1部
(4) 個別帰属額等の届出書
個別帰属額等の届出書について、電子申告データとして送信する書類及び書面により提出する書類は、上記(1)(2)と同様です。なお、電子申告の対象外書類を提出(郵送等)する場合の提出部数は、1部です(ただし、調査課所管法人は2部)。
2.電子申告の義務化(平成30年度税制改正)
平成30年度税制改正により、一定の法人が行う法人税等の申告は、電子申告によらなければならないこととされました(「電子申告の義務化」といいます)。電子申告の義務化の概要は以下の通りです。
(1) 対象法人
内国法人のうち、事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人並びに相互会社・投資法人及び特定目的会社等です。
電子申告の義務化の対象となった場合は、所轄税務署長に対し、対象法人である旨の届出書を提出する必要があります(届出書の様式は、平成30年6月に公表される予定です)。
(2) 対象税目
法人税及び地方法人税、消費税及び地方消費税です。併せて、法人住民税及び法人事業税についても、電子申告が義務化されます。
(3) 書類の範囲
申告書だけでなく、申告書の添付書類(財務諸表、勘定科目内訳明細書等)もすべて電子申告(又は光ディスク等での提出)が義務付けられます。
(4) 対象手続き
確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書が対象です。加えて、修正申告書及び還付申告書も対象となります。
(5) 適用時期(スケジュール)
平成32年(2020年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から適用されます。したがって、3月決算企業で中間申告をする場合、最も早い適用時期は以下のタイミングとなります。
【電子申告義務化のタイミング:3月決算企業の場合】
税目 | 最も早い適用時期 |
---|---|
法人税及び地方法人税(※) | 平成32年度の中間申告(提出期限は平成32年11月末)から |
消費税及び地方消費税 | 平成32年度の1回目・2回目の中間申告(提出期限は平成32年7月末)から |
(※)法人住民税及び法人事業税についても同様。
電子申告の義務化の対象となる法人が電子申告をせず、書面により提出した場合には、無申告として取り扱われ、無申告加算税の対象となります。義務化の適用時期直前になって慌てないようにしましょう。
※電子通信回線の故障、災害等の理由により電子申告が困難な場合は、所轄税務署長の承認を得た上で、書面による提出が認められます。災害等の理由の範囲及び承認申請書の様式については、平成30年6月に公表される予定です。
3.利便性の向上を図るための環境整備の実施
大法人の電子申告が義務化される一方で、法人税等に係る申告データを円滑に提出できるよう環境整備が進められます。なお、これらは中小法人等の電子申告にも適用されます。
【順次実施される環境整備】
区分 | 施策の内容 | 実施時期 |
---|---|---|
提出情報等のスリム化 | 勘定科目内訳明細書について、記載内容が簡素化される。 ※例:記載件数が100件を超える場合、勘定科目に応じて、上位100件のみの記載や、支店・事業所別に記載する方法が可能とされる。 |
平成31年4月以後終了事業年度の申告から予定 |
イメージデータ(PDF)で送信された添付書類について、一定の要件により、紙原本の保存が不要とされる。 | 平成30年4月以後の申請等から実施 | |
データ形式の柔軟化 | 財務諸表について、現状のデータ形式(XBRL形式)に加え、CSV形式による提出が可能とされる。 | 平成32年4月以後の申告から予定 |
法人税申告書別表(明細記載を要する部分)や勘定科目内訳明細書について、現状のデータ形式(XML形式)に加え、CSV形式による提出が可能とされる。 | 平成31年4月以後の申告から予定 | |
提出先の一元化 | 外形標準課税対象法人等が財務諸表を電子申告により提出した場合には、法人事業税の申告における財務諸表を提出したものとみなされる。 | 平成32年4月以後終了事業年度の申告から予定 |
連結親法人が連結子法人の個別帰属額等を電子申告により提出した場合には、連結子法人が個別帰属額等を記載した書類を提出したものとみなされる。 | 平成32年4月以後終了事業年度の申告から予定 | |
認証手続きの簡便化 | 電子申告の場合、経理責任者の電子署名は不要となる。 | 平成30年4月以後終了事業年度の申告から実施 |
法人の代表者の電子署名に代えて、代表者の電子委任状を添付することにより、委任を受けた当該法人の役員・社員の電子署名での送信が認められる。 | 平成30年4月以後の申請等から実施 |
4.まとめ
(1) 連結納税グループは、ぜひ電子申告を!
上記3で見たように、利便性の向上を図るための施策により、平成32年4月以後は、連結親法人が電子申告をした場合には、連結子法人は個別帰属額等に関する書類の提出が不要となります。これにより、各連結子法人の業務負担が大幅に軽減されることになります。そのため、連結納税を採用している企業グループにおいては、電子申告義務化の対象となる大法人はもちろん、それ以外の法人であっても電子申告の利用を検討することをおすすめします。
(2) 初めて電子申告に取り組む場合の事前準備
従来まで申告書を紙で提出していた法人が、電子申告へ切り換えるにあたっては、当コラムの第1回で触れたパソコンの環境整備や開始手続きなどに加えて、社内の申告書の承認ルールを変更するなど、業務プロセスや職務分掌を見直すことが必要になるケースがあります。
また、電子証明書の管理など新たな社内規定やルールの構築が必要なケースもあります。
(3) 添付書類(財務諸表・勘定科目内訳明細書等)への対応も忘れずに
既に電子申告をしている場合であっても、財務諸表や勘定科目内訳明細書は書面で提出されている法人が多いのではないでしょうか。電子申告の義務化においては、申告書だけでなくその添付書類である財務諸表や勘定科目内訳明細書等も電子申告(又は光ディスク等での提出)が義務づけられます。
利便性の向上を図るための施策により、平成31年4月以後は勘定科目内訳明細書等、平成32年4月以後は財務諸表についてCSV形式での提出が可能となります。これらに向けて、国税庁からCSVデータ作成用の標準フォーム(エクセル)が提供されることなどが予定されていますので、引き続き注目が必要です。
電子申告に向けた取り組みは、電子申告に詳しい専門家(税理士法人など)に相談しながら、早めに準備を進めるようにしましょう。
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プロフィール
税理士 小山 勝(こやま まさる)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
TKC企業グループ税務システム普及部会会員
TKC全国会 システム委員会 FXクラウド(固定資産)小委員会会員
- 略歴
- 2011年9月まで株式会社TKC勤務を経て、現在、税理士法人青山アカウンティングファームに勤務。株式会社TKCでのシステム設計・営業経験を活かし、上場企業から中小企業までの税務顧問業務、会計・税務申告システムの導入・運用コンサルティング等に従事。
- 主要著書
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- 『令和7年用 法人税申告全書 2024年 11月増版』 (税経通信)
- 『月刊税務QA』(税務研究会)、『税経通信』(税務経理協会)などに執筆
- ホームページURL
- 税理士法人 青山アカウンティングファーム
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