更新日 2016.02.22
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・公認会計士 鯨岡 健太郎
今回の決算及び税務申告は、平成27年度税制改正のみならず平成26年度以前の税制改正内容の初度適用や地方税に関する改正項目も多く含まれています。当コラムでは、平成28年3月期決算法人のための直前対策として、決算及び税務申告において初めて適用される主な法人税(地方税も含む)、消費税に関する税制改正項目について解説します。
1.はじめに
間もなく到来する平成28年3月期決算及び税務申告に備え、事前準備も本格化している頃でしょう。
今回の決算及び税務申告に当たっては、主に平成27年度の税制改正の内容が初めて適用されますが、一部、平成26年度以前の税制改正内容の初度適用も含まれているので留意が必要です。また、平成27年度の税制改正では、地方税(法人住民税、法人事業税及び地方法人特別税)に関する改正項目も多く含まれていることが特徴的です。
そこで当コラムでは、平成28年3月期決算において初めて適用されることとなる税制改正項目の概要について解説を加えることとします。
なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
2.平成28年3月期決算及び税務申告において初めて適用される税制改正項目
平成27年度の税制改正項目をはじめ、主に以下の項目が適用されることとなります。
(1) 法人税・地方税関係の改正事項
- 税率の見直し(実効税率の引下げと地方法人課税の偏差是正)
- 欠損金の繰越控除制度の見直し
- 受取配当等の益金不算入制度の見直し
- 研究開発税制の見直し
- 所得拡大促進税制の見直し(事業税への適用新設)
- 地方拠点強化税制の創設
- 地方税における「資本金等の額」の取扱いの見直し
- 法人に係る利子割の廃止(★平成25年度税制改正)
(2) 消費税関係の改正事項
- 事業者向け電気通信利用役務の提供に係る取扱い(リバースチャージ方式)
- その他の電気通信利用役務の提供に係る取扱い(登録国外事業者制度)
このうち(1)の法人税・地方税関係の改正事項については、特に、税効果会計を適用する観点からは、平成28年度の税制改正大綱についても留意が必要となるため、当コラムでもあわせて取り上げることとします。
3.法人税申告(地方税を含む)の直前対策
(1) 法人税・地方税の税率の見直し
①税率の引下げ
平成27年度の税制改正により、法人実効税率の段階的引下げが盛り込まれ、平成27年4月1日以後開始事業年度より、法人税の税率が23.9%に引下げられたほか、事業税についても外形標準課税の割合を引き上げるとともに所得割(地方法人特別税考慮後)の税率が引下げられたことによって、法人実効税率が32.11%に引下げられました(標準税率ベース)。
具体的には、以下の「H27.4.1以後開始事業年度」の税率が適用されます(地方税については標準税率。外形標準課税適用法人、かつ、軽減税率不適用法人を前提とします)。
税目 | H26.4.1以後 開始事業年度 |
H26.10.1以後 開始事業年度 |
H27.4.1以後 開始事業年度 |
---|---|---|---|
法人税 | 25.5% | 25.5% | 23.9% |
地方法人税 | - | 4.4% | 4.4% |
住民税(法人税割) | 17.3% | 12.9% | 12.9% |
事業税(所得割) | 2.9% | 4.3% | 3.1% |
地方法人特別税 | 148.0% | 67.4% | 93.5% |
地方法人特別税を含めた事業税 | 7.2% | 7.2% | 6.0% |
法人実効税率 | 34.62% | 34.62% | 32.11% |
あわせて、平成26年10月1日以後開始事業年度より、地方法人課税の偏差是正を目的とした「地方法人税」が創設されるとともに、法人住民税(法人税割)の税率が引下げられています。これを受け、法人税申告書別表1(1)の様式も改正され、法人税及び地方法人税は同一の申告書により提出することとなります。ただし納付書は別となりますのでご留意ください。
また、税効果会計の観点からは、平成28年度税制改正大綱において、法人税率のさらなる引下げ、並びに事業税における外形標準課税割合の引き上げ(を通じた所得割の税率の引下げ)によって、法人実効税率のさらなる引下げが盛り込まれており、税効果会計の適用上留意が必要です。
具体的には、平成28年4月1日以後開始事業年度の法人実効税率は29.97%、平成30年4月1日以後開始事業年度の法人実効税率は29.74%に引下げられる見込です(標準税率ベース)。
この点については現在、企業会計基準委員会より公表されている『税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)』の動向についてご留意ください。公開草案通りに適用指針が公表される前提に立てば、税効果会計で使用する税率は、決算日時点で国会で成立している改正税法規定に基づく税率によることとなります。
②外形標準課税の段階的拡大
事業税の税収に占める外形標準課税の割合が段階的に拡大され、平成28年3月期では、全体の8分の3を外形標準課税から得ることとされました。これに伴い、外形標準課税(付加価値割及び資本割)の税率が引上げられ、対応して所得割(地方法人特別税を含む)の税率が引下げられています。
③事業税の負担軽減措置(中堅企業への特例)
事業税の税収構造が変化していくなか、所得水準が十分に高ければ、所得割の税率引下げ効果により事業税全体の負担が軽減されますが、赤字法人や所得水準が高くない法人にあっては、外形標準課税の税負担が増加することによって事業税全体の負担が増加することとなります。
このような税負担増の影響を軽減するために、平成27年度及び平成28年度の2事業年度に限り、改正前後の税率で計算した税額の増差額の一定割合を控除する措置が設けられました(負担軽減措置。地法H27附則8②~⑤、9②~⑤)。
具体的には、適用年度の税率で計算した税額から、前年度の税率で計算した税額を控除した金額に一定の控除率を乗じた額を事業税額から控除することとなります。
この点に関し、「前年度の税率」とは、平成27年3月31日における税率であり、平成27年3月期の税務申告で用いた税率とは異なるため留意が必要です。具体的には、事業税所得割の税率が異なります(地方法人税の創設を受け、平成26年10月1日以後引下げられています)。
控除率は、付加価値額が30億円までは50%とされ、30億円超から段階的に引下げられ、付加価値額40億円でゼロとなります。
この経過措置の適用を受けるときは、第6号様式別表5の7(平成27年改正法附則第8条又は第9条の控除額に関する計算書)を作成し添付する必要があります。
(2) 欠損金の繰越控除制度の見直し
欠損金の控除限度額が段階的に引下げられ、平成28年8月期における控除限度額は、控除前所得金額の65%となります(事業税の欠損金も同様)。繰越期間は9年であり、改正による変更はありません。
また、以下の法人は、控除限度額の制限から除外されます(法法57⑪)。
- 中小法人等(資本金5億円以上の大法人との間に完全支配関係のある法人を除く)
- 会社更生・民事再生手続中の法人(更生手続又は民事再生手続開始決定の日から、これらに係る計画の認可決定の日以後7年を経過する日までの属する各事業年度が対象。ただし金融商品取引所への再上場等があった場合、その日以後に終了する事業年度から対象外となる)
- 新設法人(法人の設立の日から7年を経過する日までの期間内の日の属する各事業年度が対象。中小法人等、大法人による完全支配関係のある法人、株式移転完全親法人を除く)
なお、欠損金の控除限度額及び控除期間については、平成28年度の税制改正大綱において下表のとおり改正が予定されており、繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能額が減少する可能性があるため留意が必要です。
H27.3期 | H28.3期 | H29.3期 | H30.3期 | H31.3期 | |
---|---|---|---|---|---|
控除限度額 (H27年度改正) |
(80%) | 65% | 65% | 50% | 50% |
控除限度額 (H28年度改正案) |
(80%) | 65% | 60% | 55% | 50% |
繰越期間 (H28年度改正案) |
(9年) | 9年 | 9年 | 9年 | 10年 |
(3) 受取配当等の益金不算入制度の見直し
①株式等の区分及び益金不算入割合の見直し
益金不算入額の計算基礎となる「株式等の区分」が「完全子法人株式等」「関連法人株式等」「非支配目的株式等」「その他の株式等」の4区分とされ、益金不算入割合も見直されました。
②負債利子控除の見直し
関連法人株式等のみ考慮することとされました(法法23④)。
また、控除負債利子の計算基礎となる「総資産の帳簿価額」の計算に当たっては、従来、その他有価証券評価損益を調整することとされていましたが、今回の改正により、調整不要となりました。
なお、控除負債利子の計算を簡便法による場合には、基準年度が更新され、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度とされました。
まとめると下表のとおりとなります。
株式等の区分 | 定義 | 益金不算入割合 | 負債利子控除 |
---|---|---|---|
完全子法人株式等 | 配当計算期間を通じて内国法人との間に完全支配関係があった他の内国法人の株式等(法法23⑤) | 全額 | なし |
関連法人株式等 | 配当計算期間を通じて他の内国法人の発行済株式等の3分の1を超える株式等を有している場合の当該株式等(法法23⑥、法令22の3①) | 50% | あり |
非支配目的株式等 | 配当等の支払基準日において、他の内国法人の発行済株式等の5%以下の株式等を有している場合の当該株式等(法法23⑦、法令22の3の2①) | 20% | なし |
その他の株式等 | 上記に該当しない株式等 | 50% | なし |
③公社債投資信託以外の証券投資信託の収益分配金の取扱い
公社債投資信託以外の証券投資信託の収益分配金については、この制度の適用対象から除かれ、全額が益金算入されることとなりました。
ただし、特定株式投資信託(いわゆる日本版ETF)については、引き続き「非支配目的株式等」に該当するものとして取り扱われます(措法67の6①)。
(4) 研究開発減税の見直し
総額型の控除上限額(法人税額の30%)の時限措置は適用期限到来に伴い廃止されましたが、あらためて恒久措置として30%確保されました。ただし、従来の「総額型」から、「オープンイノベーション型(特別試験研究費)」が別枠とされ、控除上限は総額型とオープンイノベーション型でそれぞれ法人税額の25%と5%を確保し、合計30%とされました。
特別試験研究費の控除率は、従来の12%から大幅に引き上げられ、大学や特別試験研究機関等との共同・委託研究については30%、その他の共同・委託研究については20%とされました。また、従来認められていた1年間の繰越控除制度は廃止されました。
なお、特別試験研究費の額については、専門家による「監査」(特別機関との共同委託研究については不要)と、研究機関の長等からの「認定」を受け、その書類の写しを確定申告書に添付する必要があるため(措令27の4⑦、措規20⑨~⑪)、申告実務上はその準備時間を確保するようにご留意ください。
(続く)
プロフィール
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