更新日 2014.03.31
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
税理士・中小企業診断士 西村 道浩
グローバル展開する企業にとって、国際税務の知識は必須です。このコラムでは、海外進出から撤退の段階別に、関連する国際税務の個別論点を取り上げ解説いたします。
第5回は、②海外オペレーション時(海外事業のライフ・サイクルにおける"成長期・成熟期"に相当)において、外国子会社から日本の親会社に対して資金・利益を還流する場合における国際税務上の取扱いと連結実効税率への影響について検討します。
Ⅰ 日本の親会社に対する資金・利益の還流が必要な場合とは?
第2回の連載では、日本の親会社が外国子会社の利益を配当せずに再投資する方針をとっている場合等には、外国子会社の留保利益に対する繰延税金負債の計上が不要となるため、現地の法人税率が日本の法定実効税率より低ければ、税率差による連結実効税率の低減が可能となる(結果、ROEは上昇する)点について確認しました。したがって、連結実効税率の低減(及びROEの向上)だけを考慮した場合には、現地の法人税率が日本の法定実効税率より低い外国子会社から日本の親会社への配当等による資金の還流は得策とは言えません。
しかしながら、外国子会社から日本の親会社に対する資金・利益の還流がやむを得ず必要となるケースも存在します。例えば、日本の親会社の配当可能利益は、会社法により個別財務諸表ベースでの計算が要求されることから、連単倍率の高い日本企業が連結財務諸表ベースで配当性向を決定しているケースでは、外国子会社の利益を親会社に還流させなければ株主に配当を行うことができない可能性があります。また、ファイナンス機能が日本の親会社にしかない連結グループでは、日本の親会社に資金を集約した上で、設備投資などで資金需要のある子会社に対し資金を供給することもあります。
II 日本の親会社に対する資金・利益の還流方法
外国子会社から日本の親会社に対する一般的な資金・利益の還流方法は、以下の通りです。
①配当
日本の親会社が外国子会社に出資を行っている場合には、外国子会社から日本の親会社に対し、配当による資金・利益の還流を行うことになります。
②利子
日本の親会社が外国子会社に貸付を行っている場合には、外国子会社から日本の親会社に対し、利子による資金・利益の還流を行うことになります。
③ロイヤルティ
日本の親会社が外国子会社に工業所有権等の無形資産の使用許諾を行っている場合には、外国子会社から日本の親会社に対し、ロイヤルティによる資金・利益の還流を行うことになります。
④棚卸資産取引
東南アジアの一部の国ではロイヤルティによる資金の還流が難しいケースがあります。日本の親会社と外国子会社との間で棚卸資産の取引を行われている場合には、棚卸資産の価格にロイヤルティを加味することで、外国子会社から日本の親会社に対し、棚卸資産の取引を通じた資金・利益の還流を行うことも可能です。
III 資金・利益の還流方法の違いによる税務コストの相違
上記Ⅱで確認した外国子会社から日本の親会社に対する資金・利益の還流に伴う税務コスト(以下、『資金還流コスト』)について、確認しましょう。
①配当
外国子会社から日本の親会社に対して配当が行われた場合、日本の親会社では外国子会社配当益金不算入の適用により配当額の95%が免税となります。したがって、資金還流コストは、次の通り、配当額の5%部分に日本の法定実効税率を乗じた金額、及び、現地での配当源泉税、の合計額になります。
尚、タックス・ヘイブン税制の適用がある外国子会社からの配当については、上記の取扱いとは異なり、外国子会社が利益を計上した段階で、既に日本の親会社において合算課税を受けているため、配当による資金還流時には日本での追加の税務コストは生じません。
②利子等
外国子会社から日本の親会社に対して利子の支払が行われた場合、配当の場合とは異なり、日本の親会社では利子の全額が課税された上で、現地での利子源泉税について外国税額控除の適用を受けることになります。
一方、利子を支払う外国子会社では支払利子が損金算入されるため、支払利子に現地の法人税率を乗じた金額相当の税務コストのマイナス効果が生じます。
したがって、日本の親会社で利子源泉税の外国税額控除を全額とれる前提では、資金還流コストは、外国子会社からの利子額に、日本の法定実効税率と外国子会社の法人税率の税率差を乗じた金額になります。
尚、外国子会社から日本の親会社に対して、ロイヤルティ等により資金・利益の還流を行う場合についても、資金還流コストは、基本的に利子と同様になります。
IV 連結実効税率の低減の観点からみた有効な資金・利益の還流方法とは?
外国子会社(営業利益1,000全額を利子として親会社に還流、現地の法人税率20%、利子源泉税なし)、日本の親会社(利益は外国子会社からの利子のみ、法定実効税率40%、外国税額控除を全額とれることとする)、という具体例で、資金還流コスト及び連結実効税率への影響について確認してみましょう。
このケースでは、資金還流コストは200(=1,000×(40%-20%))となります。
また、連結財務諸表上は、受取利子と支払利子が相殺消去され、連結実効税率は40%(=400÷1,000)となります。したがって、このケースでは、利子として日本の親会社に還流された利益に対する課税は日本の法定実効税率に収斂します。更に、利子源泉税につき外国税額控除がとりきれない場合には、二重課税が生じることとなるため、連結実効税率の上昇(その結果としてROEの低下)を招くことになります。
次に、外国子会社(利益1,000、現地の法人税率20%、税引後利益の全額800を親会社に配当、配当源泉税なし)、日本の親会社(利益は外国子会社からの配当のみ、法定実効税率40%)、という具体例で、資金還流コスト及び連結実効税率への影響について確認してみましょう。
このケースでは、資金還流コストは16(=800×5%×40%)となります。
また、連結財務諸表上は、外国子会社が利益を計上した時点で、資本還流コスト16が留保利益に係る税効果として繰延税金負債に計上され、連結実効税率は21.6%(=(200+16)÷1,000)となります。したがって、日本の法定実効税率と現地の法人税率との税率差を享受することにより、連結実効税率の低減(その結果としてROEの向上)が可能となっています。
言い換えると、資金還流コスト(=5%×日本の法定実効税率+現地の配当源泉税率、このケースでは、2%(=5%×40%+0))が、日本の法定実効税率と外国子会社の法人税率との税率差(このケースでは、20%=40%-20%)よりも小さい場合には、"配当"により日本の親会社に資金の還流を行えば、税率差を享受でき、連結実効税率の低減(その結果としてROEの向上)が可能です。
逆に、資金還流コスト(=5%×日本の法定実効税率+現地の配当源泉税率)が、日本の法定実効税率と外国子会社の法人税率との税率差よりも大きい場合には、"利子等の配当以外の方法"により日本の親会社に資金の還流を行えば、連結実効税率を日本の法定実効税率にとどめることが可能です。
Ⅴ まとめ
連結実効税率の低減(及びROEの向上)の観点からは、現地の法人税率が日本の法定実効税率より低い外国子会社から日本の親会社への資金・利益の還流はあまり得策とは言えませんが、やむを得ず外国子会社から日本の親会社に対する資金・利益の還流が必要となるケースも存在します。
一方で、資金・利益の還流方法の違いにより、資金還流コストや連結実効税率への影響が異なることから、事前に本社主導で資金・利益の還流ポリシーを決定しておく必要があります。また、海外進出時の進出形態の検討に際しては、資金・利益の還流の観点からの検討も行う必要があるでしょう。
次回は、連結実効税率の低減(及びROEの向上)の観点から、日本の親会社まで資金を還流させない仕組み(=中間持株会社の利用)を構築しているケースについて検討を行います。
参考文献
- 大河原健、須藤一郎 『国際取引のグループ戦略』 東洋経済新報社
- 仲谷栄一郎、井上康一、梅辻雅春、藍原滋 『外国企業との取引と税務(第4版)』 商事法務研究会
- 佐和周 『海外進出企業の資金・為替管理Q&A』 中央経済社
- 手塚仙夫 『税効果会計の実務(第8版)』 清文社
プロフィール
税理士・中小企業診断士 西村 道浩(にしむら みちひろ)
TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
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