更新日 2013.02.12

グループ経営のための連結決算

会計基準の変更による連結決算への影響

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あがたグローバル税理士法人

TKC全国会 中堅・大企業支援研究会会員
公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士     稲垣 泰典

上場会社では当たり前になった連結決算。情報開示という面が強く認識されていますが、グループ経営の意思決定のための会計として、時として非上場会社にも連結決算・連結管理会計の導入が必要なのではないでしょうか?

このコラムでは、連結決算を組むメリット、単純合算では見えてこない点、グループ経営のためのキャッシュ・フロー計算書、決算早期化、予測連結、海外子会社の連結等、上場/非上場に関わらず、グループ経営の観点から連結決算を分かりやすく解説します。

 ここ数年、連結決算書と個別決算書で取扱いが異なる会計基準が公表されています。グループ経営を実行するためには個別決算書をどのように連結決算に取り込むかが課題であり、新会計基準の適用では連結会計と個別会計の相違点を理解しておく必要があります。
 今回は、新会計基準において連結決算書と個別決算書の取扱いが相違している事項、及びその対応策を説明します。

(1)包括利益の表示に関する会計基準

 「包括利益の表示に関する会計基準」が平成23年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結決算書から適用されていますが、個別決算書には当面の間適用されていません。
 包括利益を表示する目的は、期中に認識された取引及び経済事象(資本取引を除く)により生じた純資産の変動を報告することにあります。ここで包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。以下の表は、2期間の純資産の変動を表したものです。これらの変動のうち、資本取引などの持分所有者との直接的な取引を除いたものが包括利益であり、包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分を、その他の包括利益といいます。

同会計基準に基づき、包括利益を表示する計算書の作成が求められます。

(2)退職給付に関する会計基準

 「退職給付に関する会計基準」が改正され、平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る連結決算書から適用(退職給付債務、勤務費用の算定方法等一部の取扱いは平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首より適用)となりますが、以下に記載の未認識項目の取扱いについては個別決算書では当面の間従来基準が適用されます。
 この改正により、未認識項目(未認識数理計算上の差異、未認識過去勤務費用、会計基準変更時差異の未処理額)の処理方法が大きく変更されました。改正前は未認識項目を除いた退職給付債務と年金資産の差額を退職給付引当金(または前払年金費用)として計上し、未認識項目はオフバランスとされていました。改正後は退職給付債務と年金資産の差額をそのまま退職給付に係る負債(または退職給付に係る資産)として計上し、未認識項目は税効果調整後その他の包括利益累計額に計上します。
 また、改正前は未認識項目は平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理していました。改正後はこれに加え、未認識項目の当期発生額のうち費用処理されない部分についてはその他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識項目のうち当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います。

(3)連結決算書への組替

 上記のように同じ状況であるにもかかわらず連結決算書と個別決算書の取扱いが異なる会計基準が公表されています。現在の連結決算実務では、連結パッケージを加工して各子会社から連結上適用する会計基準に合うように個別決算書を組み替えている場合が多いものと考えられます。新会計基準に従った会計処理を行うため、必要な情報を各子会社から収集する必要があります。この際、各会社の個別決算書を制度会計に適した形に組み替える方法は、大きく以下のパターンに分類されます。

  1. 親会社が子会社の個別決算書を連結決算用に組み替える。
  2. 子会社が個別決算書を連結決算用に組み替える。
  3. 子会社が個別決算書のほか連結決算用の決算書を作成する。

それぞれの場合の長所、短所は以下の通りです。

  (a)親会社が子会社の個別決算書を連結決算用に組み替える場合 (b)子会社が個別決算書を連結決算用に組み替える場合 (c)子会社が個別決算書のほか連結決算用の決算書を作成する場合
長所
  • 親会社が連結グループの状況を一元的に管理できる。
  • 子会社では従来通りの決算書を作成すればよく子会社で管理コストは増加しない。
  • 個別会計方針と連結会計方針の相違点のみ組み替えるため、効率的である。
  • 各子会社で分散入力させることで、親会社に作業負荷が集中しない。
  • 個別会計方針と連結会計方針の相違点のみ組み替えるため、効率的である。
  • 各子会社で分散入力させることで親会社に作業負荷が集中しない。
短所
  • 親会社の作業負荷が高い。
  • 子会社では連結決算を意識した人材が育ちにくい。
  • 親会社が連結グループの状況を一元的に管理できない。
  • 連結決算に通じた人材が各子会社で求められる。
  • 会計方針の異なる決算書を二重に作成するため、業務システムは両方の決算書に適したものである必要があり、管理が複雑となる。
  • 親会社が連結グループの状況を一元的に管理できない。
  • 連結決算に通じた人材が各子会社で求められる。

 子会社からの情報収集体制をどのように構築すべきかは会社の管理方針にもよるため、どの方法が一番良いかは一概には言えません。ただし、今後制度会計がますます複雑になっていく傾向にあり、子会社の管理部門のスキルアップ、人材育成、教育訓練等により連結決算に通じた人材をいかに子会社側で確保していくかが重要になっていくものと考えられます。また、連結決算で必要な情報をいかに効率的かつ効果的に収集していくかという観点から、連結パッケージを改良していくことが常に求められてきます。

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公認会計士・税理士 大野 崇、野村 昌弘
公認会計士     稲垣 泰典

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