災害時の開示

第8回 三洋電機(招集通知)

更新日 2011.04.01

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公認会計士 中田 清穂TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

災害による決算発表や報告書の期限延長に関する解説や、決算短信や有価証券報告書での記載事例を解説します。

 今回は、平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震の際に、平成17年3月31日に終了する年次決算について三洋電機(株)が作成した定時株主総会招集通知に添付された営業報告書での開示内容を解説したいと思います。

 以下の開示例では災害に関連して、4か所に記載されています。

①1. 営業の概況
 (1) 企業集団の営業の経過および成果
  全般的概況
  ⇒ 利益の減少要因の一つとして記載されています。
    また、株主へのお詫びも記載されています。
    さらに、期末の利益配当金を見送る旨も記載されています。

②1. 営業の概況
 (1) 企業集団の営業の経過および成果
  部門別の概況
  ⇒ コンポーネント部門の売上高の減少要因の一つとして記載されて
   います。

③1. 営業の概況
 (2) 企業集団の今後の見通しと対処すべき課題
  ⇒ 被災した半導体事業の復興を課題の一つとして記載されています。

 以下が、実際の開示内容になります。

 

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三洋電機株式会社 営業報告書
(平成16年4月1日から平成17年3月31日まで)

 

1. 営業の概況
(1) 企業集団の営業の経過および成果
    全般的概況
(中略)
 さらに、平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震により、当社グループの半導体主力製造拠点の1つである新潟三洋電子㈱が被災した影響で、半導体事業を中心に大幅な損失を計上するに至りました。
 この結果、当期の売上高は2兆4,846億円と前期比0.9%の減少となりました。このうち、国内売上高は1兆2,594億円で前期比0.6%の減少、海外売上高は1兆2,251億円で前期比1.3%の減少となりました。
 利益面では、営業利益は423億円で前期比55.7%減少し、地震災害損失などにより税引前純損失は649億円となりました。これに加え、繰延税金資産の回収可能性を厳格に判断し、その一部を取り崩した結果、当期純損失は1,715億円となりました。株主の皆様には多大なご迷惑とご心配をおかけすることとなり、
 誠に申し訳なく深くお詫び申し上げます。
 なお、期末の利益配当金につきましては、多額の損失を計上することから見送りとさせていただきたく、何卒ご了承賜りますようお願い申し上げます。

2. 営業の概況
(1) 企業集団の営業の経過および成果
    部門別概況
 部門別の概況は次のとおりです。
 (中略)
 コンポーネント部門
 電池は、原材料価格の高騰や完成品市場の価格下落などの影響がありましたが、米国住宅市場が好調に推移したことで電動工具向けのニカド電池の売上が大きく増加し、携帯電話向けなどのリチウムイオン電池も引き続き堅調に推移しました。また、太陽電池も需要の伸びが大きく、生産を増強したことから売上が大幅に増加し、電池全体の売上は増加しました。また、米国フォード社および本田技研工業㈱へ、ハイブリッド自動車(HEV)用二次電池の供給を開始しています。
 しかしながら、新潟県中越地震により半導体主力製造拠点の1つである新潟三洋電子㈱が被災した影響で半導体の売上が大きく減少し、光ピックアップも価格下落の影響により減少しました。
 なお、液晶事業につきましては、平成16年10月1日にセイコーエプソン㈱と合弁で三洋エプソンイメージングデバイス㈱を設立し、持分法を適用したことから売上の減少要因となりました。
 以上の結果、当部門の売上高は9,464億円で前期比3.9%減となりました。

1. 営業の概況
(2) 企業集団の今後の見通しと対処すべき課題
 今後の経済情勢は、世界経済は全般的に拡大傾向ながら、米国や中国での金融引き締め・景気減速の可能性をはらんでおり、国内景気においては踊り場からの脱出へ向けた模索が依然として続くものと予想されます。また、「環境」と「デジタル」が本格的に経済を牽引すると期待される中で、当社グループにとってのビジネスチャンスは広がるものの、経済のグローバル化の進展によって企業間競争はますます熾烈化し、また、IT分野を中心とした在庫調整による販売価格の下落、原油価格や原材料価格の高騰などにより、当社グループを取り巻く経営環境は一層厳しいものとなる見込みです。
 このような状況の下で、当社グループは急激かつ厳しい経営環境の変化に即応し、より明確に顧客・市場と向かい合い、スピードある意思決定を行うために、平成17年4月1日付で、従来の企業グループ制・ビジネスユニット制をさらに進化させた「8つの事業グループへの細分・再編」および「小さくかつ強い本社への再編」を軸とした組織改革を実施しました。
 この組織改革では、特に、自動車関連事業を担当するオートモーティブカンパニーや医療・バイオ関連機器を担当するメディカル事業本部の新設などによって、当社グループの将来の重点事業を鮮明にしました。また、従来より取り組んできた「デジタル&デバイス(D&D)」、「エナジー&エコロジー(E&E)」、「コミュニティ&キャピタル(C&C)」の各事業ドメインのさらなる成長へ向けた事業基盤の強化を行うことで、事業により一層専念できる攻撃的な体制への変革を図っていきます。
 また、今後の成長の起爆剤として、ブランド本部、HAインターナショナル本部、コーポレートクロスファンクション推進本部などを新たに設立し、それぞれの組織が、三洋ブランドの再構築、海外における売上の拡大およびグループ横断的な機能強化を徹底的に追求することによって、企業競争力の向上を推進していきます。
 こうした新経営システムの下、新潟県中越地震で被災した半導体事業の復興のみならず、経営陣についても刷新を図り、厳しい経営環境からの復活と進化の実現に挑戦していきます。そのためには、これまで培ってきた経営資源も最大限に活用しながら、当社グループ全体の構造改革を敢行し、有利子負債削減など財務体質の健全化ならびに成長できる事業構成への変革を一層加速していきます。
 当社グループにとって、創業以来類を見ない大変厳しい経営環境下ですが、これら一連の改革にグループ一丸となって挑み、高収益・筋肉質で攻撃的な企業への変革に向けて不退転の決意で臨む所存ですので、株主の皆様におかれましては、引き続き一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

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 以上です。

 なお、本コラムの第3回から第8回で取り上げた、三洋電機株式会社の開示資料は、以下のURLで閲覧できます。
http://sanyo.com/ir/jp/library/financialreports.html

本文は有限会社ナレッジネットワーク社ホームページの『カレントトピックス(災害時の開示)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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