グループ法人税制への対応のポイント

第1章 資本に関係する取引等に係る税制の改正ポイント(1/2)グループ法人税制の創設

更新日 2010.08.30

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税理士 畑中孝介
税理士 岡田淳

はじめに

グループ経営の進展に伴い、税制もグループ経営に対応をする必要が高まっていたが、税制については連結納税制度・組織再編税制創設以来10年以上にわたって大きな改正が行われておらず、実態面との乖離が広がっていた。

そこで平成22年度税制改正では、新たに「グループ法人税制」を創設するとともに、連結納税制度を改正するなど、グループに関する税務について大幅な改正が行われた。

グループ法人税制は全体を包括する概念であり、その内容は既存の「連結納税制度」と今回新たに設けられた「グループ法人税制」から構成される。(図表1参照)

(図表1)グループ法人税制のイメージ
(図表1)グループ法人税制のイメージ

グループ法人税制、連結納税制度、その他資本取引等に係る税制を合わせて「資本に関係する取引等に係る税制」と呼んでいる。

今回の税制改正については、グループ法人課税制度が新たに導入されたという表面的な理解にとどまっては本質を見失うのではないかと危惧される。筆者の私見ではあるが、今回の税制改正については「税務もその基本的な思考を“単体”から“連結”に転換したという税務における大きな転換点」ではないかと考えている。

また、今回の税制改正においては、連結納税制度の規定がグループ法人税制に導入されたり、連結納税制度をグループ法人課税制度と同様に改正するなど、両制度は統一を強く意識されたものとなっているため、両制度については相互理解が非常に重要となる。

また、組織再編税制との関連性も非常に高く、タックスプランニングを行う際には組織再編税制との相互関連にも注意が必要である。さらに、近年においては、企業会計(税効果会計)への影響も大きくなっており、これらのグループ法人単体課税制度や連結納税制度が税効果会計に与える影響が大きくなるケースもあるので、税効果会計の影響についても注視する必要がある。すなわち、グループ法人税制・連結納税によるタックスメリットをいかにとるかが、繰延税金資産の回収可能性に大きな影響を与えることになる。

グループ法人税制の創設

(1)グループ法人税制の概要

グループ法人税制の概要については次のとおりとなる。

①対象法人

100%支配関係のグループ内国法人すべてに適用される。(法2、12 の7 ⑥)

完全支配関係のある内国法人(原則として発行済株式全部を直接又は間接に保有する関係)に適用され、外国法人・個人(6親等の親族等の範囲)・個人および特殊関係人に支配されている法人も含まれる。

連結納税と同様、従業員持株会およびストック・オプション(役員・従業員分)によって保有される株式が5%未満である場合、それを除いて100%かどうかで判定する。(法令4条②二)

②適用開始日

平成22年10 月1 日以降から適用開始。ただし、受取配当等や中小法人への軽減措置など事業年度単位で適用する項目については平成22 年4 月1 日以後開始事業年度から適用される。(図表2参照)

(図表2)運用開始日の整理
  (原則)10月1日以降 4月1日以降
グループ
法人税制
譲渡損益の繰延べ 受取配当の益金不算入
寄附金の益金不算入 中小特例
連結納税 承認申請書の提出期限の短縮 子法人の欠損金の持込み制限緩和
加入時期の柔軟化  
資本に関係
する取引等
に係る税制
みなし配当の譲渡損益  
清算所得課税  
組織再編税制関連  
(出所)『平成22年度税制改正のポイント』45頁をもとに筆者作成
(2)完全支配関係にある法人間での資産の譲渡損益の繰延べ

連結納税制度における譲渡損益調整資産の規定が、グループ法人課税制度においても導入されることとなる。これは、グループ内における資産の移転に関しては原則として課税を繰り延べるという点に着目したものである。

①対象資産

譲渡直前の資産の帳簿価額(税務上の帳簿価額)が1,000万円以上の下記のものとなる。

イ固定資産
ロ土地(土地の上の存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)
ハ有価証券(売買目的有価証券を除く)
ニ金銭債権
ホ繰延資産

注意点は土地以外の棚卸資産が含まれていない点である。土地は固定資産の場合とそれ以外の場合とされているのですべて対象となる。それ以外の資産については、棚卸資産について列挙されていないので対象外となる。

連結納税制度の場合においても、棚卸資産に関しても対象になるとして誤認しているケースが多くあったので注意が必要となる。

②譲渡損益の実現事由

以下の場合については、繰り延べていた譲渡損益が実現する。

  • 譲受法人が再度譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却等を行った場合
  • 譲渡法人もしくは譲受法人がグループを離脱した場合

当初大綱においては、「譲渡損益調整資産がグループ外に移転等の時に実現する」というような記載があったが、法令においては「譲渡損益調整資産の譲渡・・・の事由が生じたときは」(法61の13、法令122条の14)とされており、グループ外への移転に限定されていないことから、再譲渡等の場合には繰り延べた損益が実現することとなる。

また、本改正において譲渡には非適格合併による資産の移転を含むこととされた。

(3)完全支配関係にある法人間の寄附金の全額損金不算入・受贈益の全額益金不算入

グループ内の法人間の寄附金は、支出側・全額損金不算入、受領側・全額益金不算入とされることとなる。これもグループ内の資産の移転については、原則として課税をしないとの趣旨によるものである。連結納税制度も同時に同様の改正が行われる。 (法37の2、81の6②)

また、連結納税制度の帳簿価額修正の趣旨と同様に、一定のグループ法人間の寄附(寄附修正事由)については、利益積立金額と有価証券の帳簿価額を修正する規定が置かれたので、取引価額等については現行制度同様に注意されたい。(法令9条①7号、119の3⑥)

(4)完全子法人株式等の受取配当等の全額益金不算入

完全子法人株式等の受取配当等について、益金不算入制度を適用する場合には、負債利子控除を適用しないこととなり、結果として受取配当等が全額益金不算入となるものである。すでに、連結納税制度で同様の制度がある。

趣旨としては、前記の譲渡損益調整資産やグループ内の寄附金同様、グループ内の資産移転については原則として課税しないこととするものである。

課税をしないことでグループ内での資金移動を活性化させ、グループ全体最適化の視点によって親法人の株主配当の増加や設備投資原資の増加を図ることも導入の目的といえる。

また、同様の制度としてグループ内での現物配当(みなし配当を含む)についても、含み益(譲渡損益)を繰り延べられることとなり、配当(みなし配当を含む)について、源泉徴収も不要とされた。

(5)中小特例の大法人完全子法人への不適用

中小特例措置の適用に際し、今までは自社の資本金の規模で判断していたが、親会社の資本金の規模についても判定基準に加えられた。

大企業(資本金5億円以上)の完全子法人は、資本金が1億円以下であった場合は中小特例措置が受けられたが、改正後は中小特例措置が不適用になる。この理由としては、次の3点が挙げられる。

  • 大法人の完全子法人については政策的配慮の必要性が乏しいこと
  • 事業部門を中小法人に分社化した場合と一社集中させた場合とで税負担が大きく異なるため、税負担を同一化させることとする
  • 連結納税における導入阻害要因であるため、グループ法人税制にも導入を図る。

この改正により以下の中小特例措置が受けられなくなる。

  1. 中小法人の軽減税率
  2. 特定同族会社の特別税率(留保金課税)の不適用
  3. 貸倒引当金の法定繰入率
  4. 交際費等の損金不算入制度における定額控除制度
  5. 欠損金の繰戻しによる還付制度

筆者の試算では、中小法人の軽減税率、交際費の損金算入の2つの制度だけでも1社当たりの税負担増は最大350万円程度になるのではないかと推測される。(図表3参照)

(図表3)中小特例適用対象外の影響
(図表3)中小特例適用対象外の影響
①+②=353万円税負担増加の可能性があります。

本文は『旬刊経理情報(6月1日号No.1249)』に掲載された記事の転載となります。

筆者紹介(畑中孝介)

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税理士 畑中孝介(はたなか たかゆき)
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

著書
『税務に強い会社は成長する!!』(大蔵財務協会)
『平成22年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント』(TKC出版)
『企業グループの税務戦略-グループ法人税制・連結納税制度の戦略的活用-』(TKC出版)

システム・コンサルティング事例
株式会社大和証券グループ本社様

ホームページURL
税理士法人 無十(武藤会計事務所)

筆者紹介(岡田淳)

税理士 岡田淳(おかだ じゅん)
TKC連結納税システム推進プロジェクト会員
TKC企業グループ税務システム小委員会委員

ホームページURL
久徳会計事務所

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