目次

集合住宅や店舗など保有不動産の維持・管理を生業(なりわい)とするサン・マネジメント。山口透社長は、自社の経営状況を詳細に分析し、長期的な視点に立った事業継続体制の構築に奔走している。それを財務面からサポートする髙島聖也税理士、萩原千穂監査担当とともに話を聞いた。

──2000年創業だとか。

山口透社長

山口透社長

山口 まだ、サラリーマンをしていた45歳の時に、父が所有していた店舗やアパートといった物件の管理委託収入のみを売り上げとする会社として設立したのがスタートです。

──その後、業態を転換されています。

山口 09年に父がなくなったことで私が相続した物件を、当社に売却することで相続税を支払うと同時に、不動産を管理するだけの会社から、自社物件を所有・管理する会社へと転換しました。

──さらに、60歳を超えて売り上げ拡大期に?

山口 15年に、勤めていた会社を退職し、父からの遺産を保有・管理するだけではなく、先祖から引き継いだ資産を子供たちに承継していくための対策に本格的に取り組み始めました。と同時に、金融機関の融資を受けながら資産の組み換えを行い、毎年、1、2軒を買い増していく拡大路線に舵を切りました。ここが最大のターニングポイントだったと思います。結果、過去10年で年商は4倍にまで上昇しています。

──物件の数は?

山口 当初は4物件でしたが、現在はマンション・アパートや店舗など、全部で13物件を管理しています。入居世帯数は150を超えました。

──成功の要因は?

山口 サラリーマン時代の経験が大きかったですね。大手ハウスメーカーに勤めていた時は、地主さんに対して、アパート建築による遊休地の有効活用の提案をしていたので資産運用に詳しいし、土地の目利きも得意です。また、次に勤めた不動産管理会社では、アパート管理を経験し、営業マンとオーナーさんとの「関係性の良しあし」の重要性も認識しています。もちろん、関係が良い方が、営業マンの頭のなかの優先順位が上がるので入居率が高まります。ちなみに、当社の現在の入居率は98%を超えています。

──土地の「目利き」というのは?

山口 まず現地へ行き、100メートル四方を歩き、そして最寄りの駅からも歩いてみます。物件のまわりの印象を肌で感じるわけです。「駅近」「学校が近い」「閑静さ」といった条件はもちろんですが、多分に感覚的なものもあります。条件が良くても「陰気」に感じるエリアもあるので、そのへんは経験だと思います。

物件別に損益を可視化する

──髙島(聖也)先生とのご関係は?

山口 20年だったと思いますが、住宅メーカー主催の税務セミナーでたまたま髙島先生の講義を聞いて、感銘を受けたのがお付き合いのきっかけでした。「不動産経営では物件別に損益を出すことが重要」というお話がとくに印象に残っています。

髙島聖也税理士

髙島聖也税理士

髙島「所有物件が増えるにつれて借り入れも増加してきて、これまでのようにどんぶり勘定のままでいいのでしょうか」と山口社長から相談を受けたので、まずは早期経営改善計画(※1)の策定のお手伝いをさせていただきました。

山口 先生とお話をするうちに、「経営の見える化(可視化)」が必要だと強く感じるようになりました。また、今後、長男への事業承継と相続対策の必要性を感じていた時期でもあり、長男と同じくらい若く、しかも不動産オーナー支援に特化した髙島先生に託すことが、最善の策だと考えました。

──会計システムは?

髙島『FX2』を導入しましたが、インボイス対応もあり、すぐに『FX2クラウド』に切り替えました。当初から物件別(部門別)の損益管理を行っています。

山口 髙島先生のおかげで、売り上げ、利益はもちろん自己資本比率や債務償還年数といった指標の重要性も認識できるようになり、損益も物件別に可視化されました。これによって、金融機関への資料の提出もスムーズになったと思います。事業の性格上、借入金はかなりあるので、きちんとした経営資料を提出しないと、金融機関の担当者も融資の申請書を書けないですからね。

※1早期経営改善計画策定支援…資金繰りの安定や収益力の改善を目指す中小企業事業者と専門家(税理士など)の取り組みを支援する制度

ロカベンを金融機関に送付

──ローカルベンチマーク(ロカベン ※2)を作成し、TKCモニタリング情報サービス(MIS)を通じて金融機関に送られていると聞きました。

髙島 ロカベンについては当初、山口社長が経済産業省のサイトにあるフォームで作成されて、私に見せてくれた際には、とにかく驚きました。それはTKCのシステムでもつくれますよと……。

萩原千穂監査担当

萩原千穂監査担当

萩原 ちなみに、MISでは年次決算書と月次試算表を取引銀行(3行)に送信しています。

山口 隠すものは何もありませんから。内実をすべて見てもらった方が融資もしやすいでしょう。それと、ロカベンは会社の通信簿だと考えています。財務分析はもちろん、業務の内容や差別化ポイント、ビジネスフロー、理念、弱み・強みなどまとめて落とし込んであるので、経営者としても、金融機関にとっても会社の全体像をつかむ格好のツールだと思います。

髙島 ロカベンについては金融機関へのアピールもありますが、後継者であるご長男さんへの経営者としての学習資料という面もあるのでは?

山口 おっしゃる通りです。ロカベンもそうですが、「月次決算速報サービス」による資料も、関心をもってもらえるよう、毎月長男に転送しています。12月に転送した際には、長男から「この数字はどういう意味?」などという質問もありました。よい傾向だと思います(笑)。

萩原 「月次決算速報サービス」については、山口社長が『戦略経営者』24年11月号の記事を見て、「ぜひ利用したい」と要望され、すぐに準備して12月(11月実績)から利用を開始しています。経営者自ら、このサービスを要望されるのは珍しいかもしれません。

──サービスの感想は?

山口 タイムリーな経営数値を気軽にスマホで見ることができるのがいいですね。純売上高については家賃収入、店舗、売電といった事業分野別に分かるし、最近、気にするようになった自己資本比率の推移もグラフで確認できます。これまで正直、毎月、月次巡回監査を受けていて、ピンとこないこともありましたが、このサービスが始まってからは、理解が深まるようになりました。なにより、長男への「教材」という意味でぴったりだと思っています。

※2ローカルベンチマーク…企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツールとして、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、 双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されるもの

事業継続へのリスク対策も万全

(上)創業時から保有・管理する「カラオケ館福岡粕屋店」、(下)保有・管理する「サンスクエア福岡東」

(上)創業時から保有・管理する
「カラオケ館福岡粕屋店」、
(下)保有・管理する
「サンスクエア福岡東」

──事業継続へのリスク対策の一環ということですね。

髙島 山口社長は、大規模修繕の積立計画の策定や倒産防止共済などのリスク対策も進めておられます。使える資金を色分けし、きちっと管理を行うことで、安心して経営されているように感じます。

──大規模修繕の積立計画とは?

山口 修繕だけではなく将来的な「経営者・家族の年齢」と「不動産物件の築年数」を並べた表をつくり、さらなる資産の組み換えや相続税の納税時期などをプロットした資金計画を作成しています。

髙島 自分の代をはるかに超えるタイムスパンで、会社の継続を考えておられるのはすごいことだと思います。

──将来展望を教えてください。

山口 後継者への「物件の承継」と「経営承継」を実践するために「物件別の引継書」の作成を検討したいと考えています。また、個人で所有する物件を、相続人(家族)へ譲渡すると同時に、法人への譲渡も行い、相続財産圧縮と資産拡大・売り上げ増を図ります。
 また、当社は、小規模な同族会社なので、長期的に安定した事業とするには、まずは目標利益を設定した上で、逆算して売上高、経常利益、純利益、長期借入金、自己資本比率などの目標を掲げ、それを着実にクリアしていく体制が必要です。そのためにも、髙島先生のご協力を得ながら、より緻密な財務管理を実践していきたいです。

(取材協力・髙島聖也税理士事務所/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 サン・マネジメント有限会社
業種 不動産管理業
設立 2000年6月
所在地 福岡県糟屋郡粕屋町仲原2743-4
顧問税理士 髙島聖也税理士事務所
所長 髙島聖也
福岡県福岡市博多区博多駅前3-23-12
URL: https://www.takashima-tax.jp

掲載:『戦略経営者』2025年5月号