今や商品力でライバルに差をつけるのは難しい時代だ。目の肥えたお客を捉える術は何か。最後は“接客力”が決め手となる。

商品力だけでは生き残れない 最後は接客力!

 「これからは“接客力”が決め手になる」――。そういっても過言ではない時代になった。小売店や飲食店の経営者の大半は、今まで主に「商品力」に力を入れてきた。人気商品を集めたり、価格を少しでも下げることに注力してきた。しかしだれもが商品力の向上に取り組んだ結果、今やその「差」がなくなってきている。つまり競合店同士の商品力に大きな違いがなくなってきているのだ。そんな中でライバル店との違いを明確に打ち出し、たくさんのお客さんを店に呼び込むためにはどうすればよいか。そのための絶対に欠かせない手法が、接客力というわけだ。

 接客とは、小売店の場合なら売り場に並んだ商品をより買いやすくするためのサービス、飲食店の場合なら美味しく料理を食べてもらうためのサービスのこと。顧客が従業員の接客に満足すれば、その店で再び買い物をしようという気になるし、逆に不満を感じれば一度きりで終わりということになりかねない。接客を疎かにすれば結局、客足を遠のかせ、お店の命取りになるのだ。だから挨拶を徹底させたりするわけだが、ライバル店に差をつけるためには、その中身のさらなるレベルアップを図る必要がある。百貨店や高級ホテルにも負けない心のこもったサービス(ホスピタリティ)を提案するなど、ありきたりのマニュアルに書かれている内容以上のものを提供していかなければならないだろう。

 最近はインターネット通販で買い物をする消費者も増えている。家電などの商品によっては、リアルの店舗で買うよりネットで購入した方が安いというケースも多い。それでも店舗にわざわざ足を運んで買い物をする消費者が多いのは、実際に店員から商品説明を受けたり、商品選びの相談をしたいという気持ちがあるからだ。顧客と直に接することができる店頭でのサービスは、ネット通販に対抗できる固有の強みといえる。この点からも、接客力の向上が一層求められているのは確かである。

「接客」を評価する仕組みも大切

 では、会社全体の接客力を高めていくには、どんなことを考えて実践すればよいのか。まず社内に徹底させたいのが、いわゆる「3つのS」だ。「笑顔(スマイル)」「誠実さ(シンセリティ)」「早さ(スピード)」の3つである。

 笑顔は、顧客を和ませて関係をうまく保ってくれる働きを持つ。スタッフの印象がそのまま店舗のイメージにつながるため、笑顔を絶やさない接客は欠かせない。次の誠実さは、顧客に対する心構えやスタンスのこと。そして3つ目の早さというのは、お客様を待たせないようにするためのテキパキとした対応を指す。飲食店なら「できるだけ早くメニューを出す」という行為がそれだ。これらは接客の3原則といえ、どれか一つが欠けてもよくない。

 とはいえ、この「3つのS」はある意味、前述したマニュアルサービスと同じようなもので、できていて当然のレベルと言えるものだ。顧客の多くはこれまでの経験から、「この業態でこの規模の店なら、このくらいの接客サービスはしてくれる」という一般的な常識を自分の中に持っている。つまり、お客様にとっての「期待」だ。基本のマニュアルレベルから脱するためには、その期待をよい意味で裏切るほどの接客サービスが提供できなくてはならないだろう。

 そこで重要となるのが、従業員一人ひとりの「接客に対する意識」の持ち方である。それは端的に言えば、顧客がいま何を望んでいるかに気づいたり、気配りができるかということだ。社内全体にそれを浸透させるためには、以下の4つがポイントになる。

(1)自分の仕事に誇りを持たせる(仕事に対するやりがいと意義を持たせるということ)
(2)自分の仕事に精通させる(商品知識などをきちんと習得させること)
(3)従業員が行動の拠り所にする基本指針を明確にする
 (マニュアルを超えた接客サービスのあり方を示すこと)
(4)良い接客が正しく社内に認められる「仕組みと眼」を持つ(サービスを評価する体制)

 (1)と(2)については、社員を集めての「集合研修」や日頃の「ミーティング」などを通じて働きかけることができる。会社の経営理念や、自社がどんなふうに世の中のためになっているかを教えたり、ロールプレイングを通じて商品提案の手法などを学習させる。たとえばメガネチェーンを展開する会社なら、顧客の視力矯正をするという自分たちの社会的な役割に加えて、それを達成するには各スタッフが商品知識(フレームやレンズ等)や視力測定技術を身に付けるのが前提となることを教える。

 (3)は、従業員の行動基準を示すということだ。その典型が手厚い接客で有名なリッツ・カールトンホテルの「クレド」である。クレドに盛り込まれた会社の信条・方向性にもとづき、各従業員が自らの判断で宿泊客のニーズを満たすための様々なサービスを実践している。

 (4)については、単に「誰がどれだけ売り上げたか」という数字だけの評価ではなく、接客対応というプロセスをきちんと評価することが大事だ。それが従業員のモチベーションを高める。各社それぞれが、自分たちにとって最適なやり方を見つけてもらいたい。

 その一例は、若い女性を対象にしたアパレル店を多店舗展開するC社のケースだ。C社では全販売スタッフが参加する「接客ロールプレイングコンテスト」を実施し、優れた接客スキルがあると認めた社員を表彰している。この社内コンテストで上位に入ることを目標に、日頃から接客スキルの向上に励んでいる社員が多いという。

 他にも、千葉県を中心に串焼き居酒屋を多店舗展開するK社の事例が参考になるだろう。K社の店舗では毎日のミーティング時に、スタッフ全員が同僚に感謝したいことなどをスピーチする取り組みをしている。あるフロア係の接客が上達したことに気付いた店長が、その感謝の言葉を述べるという光景がしばしば見られる。いわば「言葉の報酬」というわけだが、自分の努力が認められると従業員は本当に嬉しそうな表情を浮かべるという。

店のカラーに合った接客スタイル

 組織全体の接客力を高めるにはこのように、従業員個人のスキルアップや意識変革にアプローチしていく方法が一般的だが、別のやり方で成果を出しているところもある。

 たとえばある地方で食品スーパーを営むA社では、接客サービスを専門に担当するスタッフ(1名)を置くという工夫で、店舗全体の接客力を著しく向上させている。スーパーでの買い物は、商品選び→レジ精算→袋詰めというワンウェイで流れる。このレジ精算を終えてから商品の袋詰めまでの間に“接客専門スタッフ”を配置したわけだ。商品がたくさん入った重いカゴをレジから袋詰めする場所まで運んであげたり、袋詰めの手伝いをするのが主な役割。こうしたスタッフをたった1名置くだけで、利用客のその店に対する印象はガラリと変わった。

 また、顧客の満足を得るためには、店舗のイメージコンセプトに合わせた接客スタイルを志向することも考えていきたい。自分たちの店舗イメージに合わせて、丁寧な言葉使いがいいのか、フレンドリーがいいのかをもう一度確認してみるとよいだろう。高級イメージの店舗なら、ホテルや百貨店に負けないホスピタリティを目指すべきだが、専門店の場合はフレンドリーな接し方のほうが好まれるかもしれない。かしこまっても、気さくすぎてもよくないので、お店のカラーに合っているかをチェックしたほうがよい。

 いずれにせよ、「顧客を喜ばす」「顧客に感謝される」接客サービスを社員一人ひとりが身につけることが重要だ。これからの時代、リピーターを増やし、来店客を増やして業績アップをはかるには、何よりそれが欠かせない。

プロフィール
こうの・ひでとし 経営・商業コンサルタント。セブン&アイ・ホールディングス(イトーヨーカドー)から大手コンサルティング会社を経て独立。小売業・サービス業における現場改善を得意とする。著書は『通いたくなるお店の接客サービス』(ぱる出版)、『売り場の魅せ方、仕掛け方22のコツ』(NTT出版)など20冊に及ぶ。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2010年5月号