「相模原から飲食業界を変える!」と意気込むグローズバルの吉田茂司社長。アルバイトから業界入りし、直営店とFC展開、さらには商品販売へと事業形態を拡大。従業員満足日本一を目標に利益体質を構築してきた。その経営戦略に迫る。

「当時は、とにかく楽しかったですね」──20代なかごろの飲食店でのアルバイト生活を、吉田茂司社長はこう述懐する。

 高校を卒業して6年間の会社員生活の後、人生のネクストステージとして志したITベンチャー起業のための学校通い。並行してアルバイトとして携わったのがイタリアンレストラン&バー「ラヴァーズロック」だった。人生とは不思議なもので、「飲食業として起業するつもりは1ミリもなかった」という20代の吉田社長が、冒頭の発言のように、飲食業で働く楽しさに魅了されたのである。

ずさんな計数管理を修正

吉田茂司社長

吉田茂司社長

 そんなある日、そのレストランのオーナーから「この店を買い取ってくれないか」との思わぬ依頼が。すでに「自分で店をやってみたい」との思いを抱いていた吉田社長。二つ返事で応諾する。

「不安はありませんでした。自分のやりたいように値段を下げ、営業時間も延長してメニューにないものを出したりもしました」

 放っておいてもお客が来た──なかば「遊びの延長線上」と飲食店経営をとらえていた吉田社長の意識が変化したのは、創業して10年を過ぎた頃。当時、やはり飲食関連の別の事業をスタートしていたのだが、共同経営者に金銭面で裏切られるなど、散々な目に遭ったのがきっかけだった。

「これは違うなと思いました。飲食店で働く若者は純粋でいい奴が多いのですが、私自身がそうだったように、いかんせん数字が分からないので安く使われてしまう。労働時間も長いし賃金は安い。せっかくお客さまに喜ばれる素晴らしい仕事なのに、これではダメだと……」(吉田社長)

 なにしろ、1週間分の売り上げをまとめて入金するようなずさんな売り上げ管理は、無駄遣いや横領の温床になるし、底に穴の開いたバケツでお金をすくい上げているようなもの。そんな気づきを得た吉田社長は、法人化してきっちりと利益を出し、従業員に還元する体制づくりに乗り出す。

 こうして株式会社グローズバルを設立したのが2015年のこと。また、地元の青年会議所で知りあった森正雄税理士(森会計事務所)に税務顧問を依頼。まずは、ずさんだった計数管理体制を整備した。森税理士が当時を振り返る。

「設立当初から自計化(会計ソフトを導入して自社で財務管理を行うこと)ソフト(FXシリーズ)を導入したのですが、集計の際に領収書などの証憑類がなかったり、レジ上の現金と入金額が異なっていたり、あるいは記帳指導にも苦労しました。しかし一方で、吉田社長の飲食業にかける情熱には、非常に熱いものを感じました」

 ここを起点に、吉田社長には、情熱に加えて、計数管理を含めた経営者としてのクオリティーが備わっていくのである。

「商品販売」で利益体質構築

 社名のグローズバルは、GLOBAL(「食」を通し世界中の皆さまへ)とROSE(バラの花ことば“愛情・情熱”をお届けする)をあわせた造語。3Kと揶揄される飲食業界を「変えたい」という吉田社長の意気込みを表している。

 会社設立は、結果として、吉田社長のその後の“積極攻勢”の起点となる。なかでも大きかったのが「商品販売事業」への進出。「商品」とは、“とろけるハンバーグ”のことである。

 それまでのラヴァーズロックは完全個室で専属シェフが腕を振るう本格イタリアンバー。人気も高く、もちろん売り上げも十分だが、やはり属人的な部分も大きく、多店舗化するには手間暇や、それなりのお金もかかる。しかし、知人が経営し、“とろけるハンバーグ”を展開していた株式会社スミソンと提携することで、この製品をさまざまな店舗に「卸す」ことができるようになった。

「最初は苦戦しましたが、次第にメニューやデリバリーで使ってくれる店舗が増え始め(現在約100店舗)、さらに「福よし」という店舗ブランドを駆使しながらFC展開をスタートすることで、勢いがつきました」と吉田社長。

 このFC事業は、グローズバルが「本部」ではあるが、開発と運営は業務提携をした別会社と緊密に連携して行う。したがって、売り上げの3%であるロイヤリティーは、3社が1%ずつ分け合う。投資を抑える分リターンも少ないが、人的リソースが少なくて済み、店舗が増えても負担は僅少だ。また、店舗が増えるのに比例して“とろけるハンバーグ”が売れるので、自動的に売り上げと利益が転がり込んでくるし、利益率も高い。現在は直営7店舗、FCは10店舗を数えるが、FC店舗は今年から来年にかけて倍増する予定だという。

 さて、その“とろけるハンバーグ”とは何者なのか。現在流行中の“育てる系ハンバーグ”に分類されるこの商品は、福よしブランドを創業したシェフの住村哲央氏が開発し、相模原市の地域ブランドとして親しまれている。それどころか「われわれが“育てる系ハンバーグ”のパイオニア」と吉田社長は胸をはる。

 要するに、一口ずつ切り分けて鉄板で焼くスタイルのハンバーグで、小麦、卵、乳製品などのつなぎを一切使わず、文字通りとろけるような食感のハンバーグだ。

「ハンバーグをお客が焼くという発想が、それまではありませんでした。また、“とろける”という表現も、当時は使われてなかった」という吉田社長。その斬新さが受けて、モンドセレクションや楽天市場ランキング、東京メトロランキングなど、数々のアワードで1位を受賞。あげくの果てには、民間単独開発第1号ロケット、いわゆる“ホリエモンロケット”の「MOMO3号」に搭載されて、宇宙へデリバリーされ、話題をさらった。これによって、JAXAのキャンパスを持ち、「宇宙を身近に感じられるまち さがみはら」として、盛んにアピールしている相模原市を、地元企業としてはからずも応援する形となった。

従業員満足度日本一を目指す

 冒頭でも記した通り、吉田社長の事業目的の一つは「従業員満足度日本一」。人を笑顔にする飲食業という仕事に従事する若者たちには、相応の見返りがあるべきだとの考え方に基づいている。

「給料や福利厚生が上場企業並みになれば、この仕事に就きたいという人が増え、彼らに夢を与えることもできる。そのためには、きっちりとした財務管理を行い、無駄のない利益体質をつくっていく必要があります。私は飲食業界を変えたいと思っています」

 そんな同社の財務を、創業以来サポートしているのが前述の森会計事務所。森税理士と松川ひろみ税理士が、日々、飲食業界を変えるべく精進する吉田社長の相談に乗っている。松川税理士は言う。

FX4クラウドによって直営店は店舗ごと、あとは商品販売部門(FC含む)、総菜工場、Eコマース、コンサル部門と細かく分けて損益を管理しています。経理担当は奥さまで、常に正確なデータを迅速に吉田社長に提供されています」

 吉田社長の数字をみる「目」も肥え、事業内容の幅がかなり広がったにも関わらず、創業時のどんぶり勘定が嘘のようなきっちりとまとまった筋肉質の企業体になりつつある。

「日ごとに経営者として成長する吉田社長を見ることができて喜びを感じています。グローズバルにはのびしろしかありません」という森税理士。吉田社長は言う。

「当社は高級店から庶民的な店までまんべんなく展開しています。そうした強みを生かし、飲食業界の多くの人が、やりがいをもって働ける場をつくりたいと考えています」

 今後、5年でFC100店舗、10年で売り上げ100億円、そして上場と、吉田社長の夢は広がる。

(取材協力・森会計事務所/本誌・髙根文隆)

会社概要
名称 株式会社グローズバル
業種 飲食店経営、飲食コンサルタントなど
設立 2015年7月
所在地 神奈川県相模原市中央区相模原1-3-8
売上高 約7億円(今期見込み)
従業員数 約100名
URL https://grosebal.jp
顧問税理士 森会計事務所
所長 森 正雄
神奈川県相模原市中央区千代田3-1-17
URL: https://www.morikaikei.com/office

掲載:『戦略経営者』2024年5月号