精密加工を可能にする設備機器類を多数そろえ、中国、ベトナムでの生産も行う竹石アロイツール工業は、TKCシステムを活用したデジタル化、ペーパーレス化にも熱心に取り組む。同社の経営戦略について、竹内澄夫会長と矢作将親社長、経理担当の森愛実さんに税務顧問の多勢陽一税理士、監査担当の林景子氏をまじえて聞いた。
──金型に使われる「部品」を製造されているのだとか。
竹内澄夫会長
竹内 金型には多くの部品が必要ですが、そのすべてを金型メーカーがつくっているわけではありません。なかには特殊な機械や技術が必要なものもあるし、手間もかかる。それら部品を製造し、金型メーカーに供給しているのがわれわれのような金型部品メーカーです。当社では、ミクロン単位の精密な加工ができる各種マシニングセンターや高度な検査設備を使い、取引先のニーズに幅広く応えています。
──取引先の数は?
竹内 大手企業から零細企業までさまざまですが、トータルで100社くらいでしょうか。基本的にはオーダーメードの一品ものを提供しています。少量多品種に柔軟に対応できるところが特徴です。
──ここのところ業績は右肩上がりだとお聞きしました。
竹内 中国への進出がターニングポイントでした。20年ほど前に、経営が苦しくなって業容を縮小した際に、偶然、中国で工場を経営されている方と知り合い、協力工場になっていただきました。それによって生産能力が飛躍的に向上すると同時に価格競争力もつき、国内のさまざまなオーダーに応えることができるようになったのです。
矢作将親社長
矢作 中国の工場はとにかく規模が大きいので、大量の注文をもらったら中国でつくらせ、当社の工場では、それ以外の急ぎの案件や高度な技術が必要なものに限るようにしました。そのすみ分けを、スムーズな営業活動につなげています。
──中小製造業は営業が苦手というイメージがありますが……。
矢作 当社では営業活動を重要視しています。以前は会長一人で営業していたのですが、10年以上前から私を含めて営業担当を順次増やしていき、まき続けた種が5年くらい前から芽を出し、実をつけはじめたといった感じでしょうか。現在は5名の担当者が日々クライアントのニーズを救い上げています。
竹内 発注をただ待っているだけでは、本当のニーズは分かりません。営業活動を活発化させることで、クライアントが当社に求めているもの、つまり潜在需要が分かるようになりました。
ベトナム工場
──2021年2月にベトナム工場を開設されました。狙いは?
矢作 中国は賃金が上昇してきていますし、カントリーリスクも軽視できません。そうした状況もあって、他の国で自社工場を立ち上げることが竹内会長の以前からの夢でした。業績も好調で資金的に余裕のある「今」しかないと、GOサインを出したというわけです。
──とはいえ、ちょうどコロナ禍と重なってしまいましたね。
矢作 コロナ禍で進出が遅れたのは事実です。当時はベトナムに行くことさえ大変でしたからね。21年2月に機械を入れて、3月から少しずつ動かし始めたのですが、スタート後もロックダウンで数カ月間停止しましたし、その前後も制限しながらの操業が続きました。
──資金的な問題は?
竹内 ホーチミン市と現地企業が外国資本誘致のために用意したレンタル工場の名義を借りて進出するという形なので、それほどの資金は必要ありませんでした。あれやこれやで初期投資は3,000万円くらいでしょうか。設備はまだ十分ではなく、月100万円くらいの生産しかできていないので、これから数千万円単位での投資を実施して、本格的な生産体制を構築していきたいですね。
各種マシニングセンターや検査設備がそろう
インボイス制度にも現在、絶賛対応中!
──多勢先生に税務顧問をお願いしたのは?
竹内 4年ほど前です。ある人から経理業務に関して「もう少し違った展開をしたらどうか」とアドバイスを受け、多勢先生にお願いすることにしました。実際、関与を受けてから会社が変わってきたと感じます。
矢作 おかげさまでここ数年、社内のデジタル化、ペーパーレス化がすごい勢いで進捗(しんちょく)しました。今、昔のように「手書き」中心の業務形態に戻れと言われたらぞっとします(笑)。
多勢 会長、社長を筆頭にして会社全体が前向きなので、常に新しいことに挑戦する雰囲気を感じます。とてもやりやすいですね。
──今年の3月に従来の『FX2』を『FX2クラウド』に変更されたとお聞きしました。狙いは?
多勢 ひとつには電子帳簿保存法(電帳法)への対応がありました。今年の1月からは、電子取引の書類は、紙に出力しての保存は認められず電子データのまま保存する必要があります。『FX2クラウド』の証憑(しょうひょう)保存機能(※)を活用すれば、そこに無理なく対応できますから。
林景子監査担当
林 差し当たり、竹石アロイツールさまの業務のなかで、頻繁にメールでやりとりされている輸入の関税関係の書類を電子データで保存する必要がありました。それにプラスして、やはり電帳法の「スキャナ保存制度」に対応すべく、紙で受け取った請求書や領収書などの書類をスキャンし、電子データとして保存する取り組みも進めています。それらは、経理の森(愛実)さんが一人で引き受けておられます。
──(森さんに)大変ですね。
森 今は移行期で、しかも期の途中なので、書類を残しながらデータ保存に取り組んでいて少し大変ですが、移行が完了してしまえば、書類を廃棄できるので一気に効率性が高まると思います。また、会計システムがクラウドになったことで、分からないことがあったらすぐに林さんにクラウド上で確認してもらえるので、とても助かっています。
多勢 当初、決算の9月くらいまでに関税の書類の処理分だけはデータ保存にと見込んでいました。電帳法の対応はとりあえずそれで済みますからね。でも、森さんの活躍であれよあれよという間に、デジタル化への対応が進んでいる感じです。
森 来期からはほぼすべての書類がデータ保存化されると思います。
経理担当の森愛実さん
──インボイス制度への対応は?
森 当社が使っている販売管理システムのベンダーさんと打ち合わせをしながら、適格請求書発行事業者の登録番号を請求書に入れるなど、インボイスに要求される記載事項を満たすシステム改変に取り掛かっています。あと、請求書なども今は紙で郵送しているのですが、メールで送る方法を検討するなどインボイス対応についてはまさに真っ最中です。
林 森さんは経理だけではなく、図面制作や労務関係のお手伝いもされていてとても優秀な方です。竹内会長や矢作社長はとても優しく、また会社自体は活気があって、チャレンジングな社風なので、森さんの積極的な姿勢が生きているのだと思うし、外部からも「自然と応援したくなる会社」です。
──今後はいかがでしょう。
竹内 まずはベトナムの自社工場を軌道に乗せること。そうすれば目標である年商10億円が見えてくるのではないかと……。長期的な視点からは、新しいマーケットへも挑戦していきたいですね。たとえば、最近では、注射器の耐久性を上げるためのお手伝いを当社がしたこともありました。金型業界は淘汰(とうた)と寡占の時代に入ってくる雰囲気もあるので、新市場の開拓にもより具体的に取り組んでいく必要があると思います。
※FXシリーズの「証憑保存機能」
改正電子帳簿保存法により2022年1月1日以降、取引先からメール等を介して受け取った請求書や領収書のPDFなどは、印刷して書面で保存していても正式な国税関係書類とはみなされなくなった(ただし2年間の宥恕期間あり)。
そこでTKCでは、22年1月から、「証憑保存機能」を搭載したFXシリーズの提供を開始。メール等で受け取った請求書等のPDFを読み込み、電子取引データとして保存できる当機能を利用することにより、改正電帳法における電子取引に簡単に対応できる。また、「取引先名」「日付」「金額」「消費税」など証憑の内容を読み取り、仕訳の基礎データとして利用することも可能となる。なお、「証憑保存機能」はFXシリーズの“標準機能”として搭載するため、新たにプログラムを購入する必要はない。
(本誌・高根文隆)
名称 | 有限会社竹石アロイツール工業 |
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設立 | 1980年4月 |
所在地 | 東京都江東区東砂4-1-12 |
売上高 | 約7億円 |
社員数 | 26名 |
URL | https://www.takeishi-at.com/index.html |
顧問税理士 |
多勢陽一税理士事務所
東京GODO会計 所長 多勢陽一 東京都江東区亀戸6-2-3 URL: https://www.godo-tax.jp/ |