株式会社シナノトレーディング

前列左から清水直顧問税理士、山田明日香広報担当、仕名野秀治社長、石原大輝営業チーム課長、中村和弘監査担当

モータースポーツ会場を華やかに彩るテント。シナノトレーディングは耐久性とデザイン性に富むオリジナル商品を開発することで存在感を放ってきた。今年から本格的に市場投入した「トリアージテント」も、新たな事業の柱になりつつある。「新型コロナは事業転換のきっかけを与えてくれた」と前を向く仕名野秀治社長に、業績数値をベースに置いた経営戦略の一端を語ってもらった。

確かな品質を武器に新領域へ果敢に挑戦

──このほど発売された「トリアージテント」が話題です。

企業ロゴ

仕名野 もともとモータースポーツイベント向けテントの開発、販売を手がけてきましたが、台風による水害や新型コロナウイルスの感染拡大を受け、リリースしたのがトリアージテントです。おもに医療機関の発熱外来窓口やドライブスルーPCR検査、災害用物資保管スペース等での利用を見込んでいます。

──製品のこだわりを教えてください。

仕名野 販売しているテントの大半は受注生産商品で、開発過程において最も重要視しているのは耐久性です。フレーム強度を担保しつつ、持ち運びやすく設営しやすい機能性にもこだわっています。そしてデザイン性。華やかなモータースポーツの世界で研鑽してきたロゴプリント技術を生かし、多様なニーズに対応しています。

テント

──モータースポーツイベント向けテントというとニッチな業界ですが、日本国内の競合会社はどのくらいありますか。

石原 業務用ワンタッチテントというくくりでは、トータルで10社前後ですね。それ以外に低価格のテントをネット販売している個人事業者もいます。販売後の手厚いアフターフォローもわれわれの強み。モータースポーツのオフシーズンである秋から冬にかけてユーザーさまを訪問し、フレームの点検やテント生地の撥水(はっすい)加工などのメンテナンス作業を実施しています。

──トリアージテントの想定ユーザーは従来の顧客層と異なるので、営業方法も変わるのでは?

仕名野 近年は従業員が少しずつ増え、営業活動を積極的に行えるようになりました。官公庁関連の案件を受注するべく入札資格を取得したり、防災関連の展示会に出展したりしています。先日も全国の大規模医療機関に対してダイレクトメールを3700通発送したところです。こうした活動のかいもあって、医療機関や医療機器の卸売会社からの引き合いが急増しています。昨年には、神奈川県海老名市に災害用大型テントを納品しました。

──どのようなテントですか。

テント

神奈川県海老名市に納入した災害用テント

仕名野 空気を充てんして設営する「インフレータブルテント」と言われる商品です。10トントラックがすっぽり収まるサイズで、テント内で支援物資を荷下ろしでき、そのまま保管スペースとして利用できます。これほど大型の充てん式テントを取り扱ったことはありませんでしたが、「できません」と言いたくなかったので、大型テントの専門工場を中国に見つけ、製造することができました。

──働き方改革への取り組みは?

仕名野 今年から実施したひとつめの施策は、完全週休2日制の導入。もうひとつは、距離に応じた「交通費」と「出張手当」の支給です。また、チャットツールを採用し、社内メールを廃止しました。石原から提案されたときはあまりピンときませんでしたが、利用してみると要件をダイレクトに切り出せるためスピード感が増し、コミュニケーションの活性化を図れました。過去にやり取りした情報を容易に調べられるのも利点です。

重要指標を社員と共有し一体感の醸成につなげる

──新経営サービス清水税理士法人と創業以来のお付き合いをされているとか。

テント

テント内で次亜塩素酸水を噴霧する
「除菌ブーステント」の効果検証を進め開発中

仕名野 21年前に創業したとき、知り合いの経営者から紹介されたのが新経営サービスさんでした。監査担当の方から計数管理の重要性を説かれ、始めたのが現金出納帳による記帳。いま振りかえると、2年目以降の成長度合いを明確につかむことができ、起業直後からしっかり記帳しておいてよかったと感じています。その後監査担当は中村さんに変わり、10年以上担当してもらっています。

──『FX2』を導入されたのは?

仕名野 法人設立時です。いまでは毎月の巡回監査時に《変動損益計算書》を確認しながら、オリジナルの「月例監査報告」シートにさまざまな指標を書き留めるのが習慣になっています。
 書き留めている項目は単月、累計売上高と粗利率のほか、自己資本比率、現金残高など。これらの数値は社員に支給する給与明細書に記載していましたが、今年からチャットツールの業績チャンネルで公開するようにしました。外出中に数値を調べる必要があるとき、スマートフォンから確認できるのが便利です。
 そもそも業績を詳(つまび)らかにしているのは、社員に経営感覚を養ってもらいたいから。オフィスにある決算書も自由に閲覧できます。ガラス張りとまではいきませんが、こうした業績の見える化の取り組みを10年以上行っています。

──巡回監査時に話し合う内容は?

テント

大型インクジェットプリンターでロゴを印刷する

仕名野 予想していたほど利益が出ていなかったり、前年同月比で粗利率が大きく変動したりした場合、『FX2』の画面で仕訳にさかのぼり、原因を追究しています。客観的なデータを元に対策を検討できるため、大変重宝しています。

中村 巡回監査時によく質問されるのは、異常な数値がないかという点です。常に改善点を探し、打ち手を施される仕名野社長の姿勢には、われわれも学ぶところが大きいと感じています。

清水 シナノトレーディングさまでは自社製品に社会的意義を見いだされ、トリアージテントとしていち早く発売されました。経営の迅速な意思決定に『FX2』を役立てていただいているのを感じます。

──資金繰りの現状はいかがでしょうか。

仕名野 なにしろサラリーマン経験がないため、創業直後は売掛金や手形といった商慣行を理解できず、資金繰りに苦労しました。販売代理店探しに奔走するあまり、決済条件を気に留めていなかったんです。売り上げの入金は数カ月後になるにもかかわらず、テントの製造コストは出ていくばかり。手元資金がみるみる減っていき、黒字倒産という言葉が脳裏をよぎりました。
 そんなときサーキット場を久しぶりに訪れたところ、ライバル会社のテントが会場を席巻していました。悔しさを感じると同時に、エンドユーザーに対する販売を強化していこうと決めました。小売りは卸売りにくらべ受注件数は少ないものの、利幅は大きい。小売りに注力すると販売数は予想以上に伸び、手応えを感じました。お客さまに社員の熱意が伝わったのかもしれません。手形や掛けによる販売をやめると、資金繰りは徐々に改善していきました。数年前には、完全無借金経営に移行しています。

──毎期、書面添付(※)を実践されているそうですね。

中村 8年ほど連続して実践しています。かつて税務署から申告内容について問い合わせがあり、意見を聴取されましたが、幸い税務調査は省略になりました。

仕名野 きっちりとした納税は国民の義務です。今日も事業を継続できているのは、この国をつくった先人たちのおかげです。納税を通して国や自治体に恩返しするのは、とても大切なことだと思っています。

──今後の構想をお聞かせください。

仕名野 新型コロナのまん延は、医療業界に目を向けるきっかけになりました。感染症対策という世界中の人たちが直面している課題にわれわれが貢献できるのは、独自技術を生かしたテントの開発。社員のモチベーションも高まっており、製品の認知度を引き上げることが社会的使命であると感じています。
 米国の企業がワンタッチテントを開発して30年ほど経過しました。テント業界ではワンタッチテントと総称されますが、実際には設営するのに労力が必要です。当社は正真正銘のワンタッチテントを開発中で、世界に先駆けて発売したいと考えています。

※「書面添付制度」とは

 税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。

  1. 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
  2. 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
  3. 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
  4. 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。

 書面添付をすると、調査対象となる前に、税理士に記載内容についての意見を求められることがあります。これを「意見聴取」と言います。この意見聴取で疑問点が全て解決できれば、調査省略となります。また、調査に移行したとしても、既に調査を行うテーマが分かっており短時間で終了するのが殆どであり、税理士・関与先ともに負担が軽減されます。

日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社シナノトレーディング
設立 2001年12月
所在地 京都府京都市山科区勧修寺西北出町112
売上高 2億2,000万円
社員数 11名
URL https://shinano-t.com/
顧問税理士 新経営サービス清水税理士法人
税理士 清水 直
京都府京都市下京区河原町通五条上る御影堂前町843 清水ビル
URL:https://www.shinkeiei.jp/

掲載:『戦略経営者』2020年7月号