右端は監査担当の岡下恵さん
映画『二十四の瞳』のロケ用オープンセットを活用したテーマパークを運営する、岬の分教場保存会。昨年12月には「プロが選ぶ観光・食事・土産物施設100選」に選ばれるなど、小豆島で指折りの人気観光スポットとなっている。有本裕幸専務理事に組織改革の道のりと、事業別の詳細な財務管理方法について語ってもらった。
観光客の心をつかむ多彩なコンテンツ
有本裕幸専務理事
──二十四の瞳映画村の年間来場者数を教えてください。
有本 季節により若干ムラはありますが、11月の紅葉シーズンを筆頭に約20万人にのぼります。そのうち4万人は台湾、香港などからの外国人観光客です。香川県による誘致活動も功を奏し、インバウンドは増加傾向にあります。約1万平方メートルある映画村は、撮影で使用された木造校舎やギャラリー松竹座映画館、壺井栄文学館等の施設から構成されています。
──最近のトピックスでは「フィギュアギャラリー海洋堂」を村内にオープンされたそうですね。
有本 国内初の海洋堂公認ギャラリーとして、昨年7月に開設しました。フィギュア業界最大手の同社は、独自の造形表現で高い評価を得ており、数多くのファンを国内外に抱えています。仏像やアニメヒーローなどの精巧な作品を展示しているほか、一部は商品として販売しています。
インバウンドに人気の日本文化といえば、アニメとコスプレ、そしてフィギュア。商品をお土産として購入されたり、写真を撮影してソーシャルメディア(SNS)に投稿されたりして人気を博しています。
「フィギュアギャラリー海洋堂」内には職人の作業場を再現した一角も
──専務理事就任前は自衛隊に籍を置かれていたとか。
有本 陸上自衛隊に入隊し、各地の駐屯地で勤務した後ホテル業界に飛び込み、コンサルティングを手がけました。その後、内海(うちのみ)町(現小豆島町)の依頼により、保存会の専務理事に就任しました。
上谷 有本さんは3代目の責任者ですが、初の民間企業出身者。就任以来、組織の立て直しに力を注がれています。
──就任当時の状況は?
有本 映画『二十四の瞳』を知らない人が増えるにしたがい、映画村の来場者も徐々に減少していました。40代以下の人はタイトルを耳にしたことはあっても、内容を知らない場合がほとんど。収益は悪化し、借入金の返済も滞るなど厳しい状況でした。もし帳簿の中身を事前に確認していたら、メンバーに加わっていなかったかもしれません(笑)。
ただ、小説「二十四の瞳」は「坊ちゃん」や「走れメロス」などと同様、文庫本が安定した売り上げ部数を誇っているし、主人公の大石先生役を務めたいと熱望する俳優がいるなど、作品の大きなポテンシャルを感じていたのも事実です。
──どんな方針で臨まれましたか。
大正、昭和時代を再現したレトロな街並み
有本 最も大切なのは〝お客さまファースト〟である点をスタッフに認識してもらうこと。
われわれは町から補助金をいただいておらず、入場料収入や売店収入で運営費をまかなっています。小豆島の玄関口である土庄(とのしょう)港から車で60分ほどと、必ずしもアクセス良好といえないなかお越しいただいているという感謝の気持ちを持たなければなりません。「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」といった、お客さまへの声がけや映画村内のゴミ拾いを徹底することから始めました。あわせて『FX4クラウド』から出力される財務分析資料を活用し、スタッフに売り上げやコスト意識を持ってもらえるよう努めているところです。
タイムリーな情報共有で税理士との連携が密に
──上谷(うえたに)先生と顧問契約を結ばれたいきさつをお聞かせください。
有本 上谷先生のお父さまもやはり税理士で、2代にわたるお付き合いをしています。今日の映画村があるのは先代の所長先生のおかげといっても過言ではないほど、施設の存続に尽力されました。私も専務理事就任当初、さまざまなアドバイスや叱咤(しった)激励をいただきました。現所長である上谷先生は当会の理事も務められており、顧問税理士をこえた立場から意見を頂戴できるのは心強い限りです。
──上谷先生との面会頻度はどのくらいありますか。
有本 例年4回ほど開催している理事会でお会いするほか、先生の事務所を訪ね、組織運営に関して意見交換することもあります。各地に出張する機会が多いため毎月面会できているわけではありませんが、巡回監査時には監査担当の岡下さんと面談し、財務状況についての報告を受けています。
──18年2月から『FX4クラウド』を利用されていると聞きました。
有本 人員が限られているため、1人のスタッフが複数の職種をこなす必要があり、私も繁忙期には駐車場で誘導案内をしたり、村内の掃除をしたりします。そうした流動的な体制のなか、適正な人員配置や人件費の配分を検討するには、事業ごとの利益を詳細に把握しなければなりません。そのため、専務理事に就任して以降、団体のお客さま向けの予約管理や経理の仕組みをシステム化していきました。
ただ、以前利用していた会計ソフトは事務所内にサーバーを設置し、データを日々バックアップする必要がありました。また、ハードウエア故障時には、ソフトウエア会社の担当者が高松市からわざわざやって来る必要があった。その点、『FX4クラウド』を利用すれば、島内に事務所のある上谷先生のきめ細かなサポートを受けられるので安心です。
TKCシステムは会計基準に準拠し、法改正への対応もタイムリーに行われると聞いていましたから、『FX4クラウド』のデモを複数回拝見し、移行に踏み切りました。
──移行を決断された決め手は何ですか。
有本 やはりシステムの信頼性の高さですね。データは「TKCデータセンター(TISC)」で自動的に保存され、なおかつ365日利用できます。実際に利用してみると、データ閲覧がスムーズに行え、月次の帳表もより早く手元に出力されるようになりました。
──日ごろの経理体制を教えてください。
上谷勉治顧問税理士
有本 3名の経理担当者が仕訳入力と伺書作成を行っています。以前利用していたシステムよりも入力しやすくなったと聞いています。
上谷 私も巡回監査時に訪問しているのですが、経理担当の方々が優秀なため、監査にかかる時間は丸1日も要しません。
岡下 システムの操作方法などを質問いただく際、事務所のパソコンから画面を見ながら電話で対応できるので便利です。
有本 上谷先生の事務所とリアルタイムで情報共有できるのは、クラウドならではの利点ですね。
──システムでよく活用されている機能は?
映画『二十四の瞳』で主人公役を演じた高峰秀子ギャラリーが併設されるブックカフェ書肆海風堂
有本 事業別の損益予算実績を詳細に把握するため、「マネジメントレポート(MR)設計ツール」を活用し、オリジナルの帳表を作成しています。システムにはブックカフェ書肆海風(しょしうみかぜ)堂、二十四の瞳天満宮、壺井栄文学館など11の事業を登録。それぞれの事業の実績額を単月と累計で確認し、理事長への報告資料としても活用しています。
また、作成した伺書データを元にインターネットバンキング振込用データを作成し、支払仕訳を自動計上しています。
──今後の構想をお聞かせください。
有本 われわれのようなテーマパークの運営に携わる法人は数年先を見すえ、旅行業界の環境変化に迅速に対応できる戦略を立てなければなりません。とりわけインバウンドの伸びしろは大きいととらえており、台湾や香港で開催される商談会に積極的に参加しています。宿泊施設と連携を取りながら香川県をはじめ近県の岡山県、兵庫県などを訪れるインバウンドの誘致にも注力していきたいです。
そして財務管理面では、映画村の施設ごとの利用者数や売り上げを分析し、利益を生む体質づくりを構築していきます。
(中四国統括センター・藤澤修一/本誌・小林淳一)
名称 | 一般財団法人岬の分教場保存会 |
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設立 | 1976年6月 |
所在地 | 香川県小豆郡小豆島町田浦甲931 |
職員数 | 27名 |
URL | https://www.24hitomi.or.jp/ |
顧問税理士 | 税理士 上谷勉治 上谷勉治税理士事務所 香川県小豆郡小豆島町安田甲144番地の202 TEL:0879-82-2281 |