米どころ新潟で、127年間、味噌、醤油をつくり続けてきた老舗蔵元・山田醸造。日本人の食の洋風化による構造的な不況にあらがうべく、6代目の山田弥一郎専務は、積極果敢な戦略を矢継ぎ早に打ち出しつつある。

山田醸造株式会社

左から石田経理事務所の渡辺定臣監査担当、
石田直樹税理士、右端は女将の山田正子さん

 創業は1891(明治24)年。こだわりの醤油(しょうゆ)、味噌(みそ)を造り続けて今年で127年目を迎える老舗蔵元「山田屋」(山田醸造株式会社)。3年前に6代目に当たる若き山田弥一郎専務(34)が戻ってきて、それまで停滞気味だった業績が、明確に上向き始めた。

 そもそも醤油や味噌の需要量の漸減傾向は、戦後ほぼ一貫している。主な原因は日本人の食の洋風化。全国津々浦々の蔵元は概して、この構造的な不況に苦しんでおり、廃業を余儀なくされるところも少なくない。それだけに同社の〝健闘〟は出色である。

〝一大決心〟で家業に入る

山田弥一郎専務

山田弥一郎専務

 江戸時代には織物を扱う商人だった山田家だが、初代の弥惣治氏(山田家十代)が醤油製造をスタート。大八車を引いての商売だった。ほどなく味噌も手がけ軌道に乗るが、昭和31年、紹介された大口取引先へ信用で大量出荷するも代金回収ができず、廃業の危機に。歯を食いしばって負債を返済し、昭和36年、株式会社に改組。

「その頃、安く売りさばかれていた当社の味噌が偶然、関東味噌連合会会長の口に入り、〝うまい〟と……。これを機に関東へ本格的な進出を果たしました」(山田専務)

 それと並行して学究肌の4代目・一弥氏(専務の祖父)が、食品研究所や学者を巻き込んで越後味噌の味の分析に邁進(まいしん)。既存の汎用(はんよう)酵母を使用するのではなく、蔵つきの独自の酵母を培養し、いまの山田屋の味噌の基礎をつくる。さらに、現社長の克司氏の時代に入ると、テレビ通販などに進出して売り上げを伸ばすかたわら、従業員の労働環境改善のため工場・設備等の更新を実践していく。

 ところが、21世紀を迎えるあたりから日本人の洋食化に一層の拍車がかかる。全国の味噌出荷量も右肩下がりで、十数年で1人当たりの消費量も半減するようなひどい状態が続く。果たしてこのまま商売を続けるべきなのかどうか……克司社長の心中に迷いが芽生えはじめるようになった。山田専務はこう言う。

「両親から家業は継がなくていいと言われてきたし、私自身も安定した会社のサラリーマンとしてしばらくは過ごしました。しかし、30歳を迎え、幼い頃から慣れ親しんだ味、工場や従業員の方々、そして何よりお客さまの存在の大きさを思うに、私がもし承継しなければこれらすべてがなくなってしまうことへの抵抗感から、帰ってくる決心をしました」

 経理顧問として山田醸造と50年来の付き合いのある石田経理事務所。14年前に入所した石田直樹税理士は、そのあたりの経緯を目の当たりにしてきた。

「山田屋さんは、短期的な損益には苦しんでおられましたが、過去の蓄積や安定した顧客を持っており、もうひと工夫あれば十分に利益を出せる状況でした。それだけに、山田専務の一大決心は非常に大きかったと思います。若い後継者の存在は、それだけで会社を活気づけます。実際、専務の就任以来、損益は一気にプラスに転じました」(石田税理士)

 克司社長は、当初、専務が帰ってくることに反対だったという。かわいい息子に苦労をさせることが忍びなかったのだろう。しかし、最後には「好きにしていいよ」と根負けする。そして、社内は活気づき、専務発案のマーケティング戦略が次々と形になっていく。

SNSで日本食文化を発信

 現在、山田醸造の商品構成は、味噌45%、醤油25%、甘酒20%、残りがおかず味噌などの珍味系となっている。流通チャンネルも自社店舗のほか、地場や関東圏のスーパー・百貨店、あるいは全国の物産展やネット販売と多彩だ。とくに物産展やネット販売は山田専務が帰ってきてから注力しはじめた分野。新たなルートでの売り上げを積み上げ、業績をV字回復させつつある。

 山田専務の最大の強みは、若さからくる行動力。1年半前からは、東京や札幌、千葉、横浜などの有名百貨店などでの物産展での販売をはじめ、シンガポール、イスラエルという海外2カ国での小売りルートも確保した。さらに、県内外の商社や貿易会社などにも積極的にアプローチをかける。

「専務の前職が営業職だったというのがこれらの戦略につながっているのでしょう。技術職だったらまた違っていたと思います」と石田税理士は言う。

 さらに、フェイスブックやインスタグラムといったソーシャルメディアをうまく活用し、「正しい日本食文化」を発信。新商品や各種イベント、セミナーの情報をはじめ、女将(おかみ)(山田正子さん)の料理レシピを掲載したりと意欲的な内容となっており、それが時にマスコミを引き寄せたり、口コミを誘発したりと効果的に機能しているという。

味噌、醤油、甘酒など多彩な商品群を持つ

味噌、醤油、甘酒など多彩な商品群を持つ

レジと会計システムを連動

 既述の通り、山田醸造と石田経理事務所は、いずれも先代からの付き合いで、約半世紀の長きにわたる。石田直樹税理士の代になってからは、TKCの会計システム『FX2』を導入し、巡回監査、月次決算体制を構築。ほどなくして、やはりTKCの『継続MASシステム』を活用しながら経営計画の策定をスタートさせる。監査担当の渡辺定臣氏は言う。

「販売チャンネルごとに売り上げを集計し、できるだけ緻密な計数管理を心がけました。繰り返すようですが、もうひとがんばりで黒字化できる状況だったので、なんとかそのためのお役に立ちたいという思いでした。そんななか、ある日、月次監査にお邪魔したら、iPadでレジ打ちをされていて、〝それ何ですか〟と……」

『Airレジ』導入で業務が大幅に効率化

『Airレジ』導入で業務が大幅に効率化

 女将の山田正子さんが操作していたのは『Airレジ』(リクルートライフスタイル)だった。

「新潟市内のある店舗で、見かけたんです。私はおばちゃんなので(笑)、〝それなになに〟と根掘り葉掘り尋ねました。iPadは持っていたし、タッチパネルのレジなんてすごくおしゃれですよね。しかも無料。消費税アップのタイミングだったこともあり、すぐに導入しました」(女将)

 そのスタイリッシュさを気に入り導入した山田女将だが、使ってみて驚いたのは、まず、登録した商品をタッチするだけの「お会計」の際のカンタンさ。加えて、商品別の売り上げデータがクラウド環境に自動的に蓄積されるので、一元管理が簡単にでき、また、月別や年別など、時系列の売り上げデータや前年比データも簡単に呼び出せるようになったことに、感銘を受けたという。

「従来のレジはカテゴリーでしか数字がつかめなかったのですが、『Airレジ』では何がどれだけ売れたかが、時系列に瞬時に分かる。客単価や売れ筋商品なども一目瞭然です。データも自動更新なので、レジを〝しめる〟必要がなく、作業時間が軽減され、人為的なミスもなくなりました」(女将)

 さらに、マーケティングにも『Airレジ』の機能が生かされている。

「たとえばチラシをつくる際、〝去年はこの商品は売れなかったから掲載はしなくていいね〟とか〝これは売れてるからトップ面に載せよう〟などの判断が可能になりました。以前は勘に頼ってましたから、大変な違いです」(女将)

 さて、女将が『Airレジ』を使いこなしているのを見た監査担当の渡辺氏は『FX2』との連携を提案する。それまでは、『Airレジ』から出力された数字をいちいち『FX2』に打ち直していたのである。両者を連携すれば、その手間が省けるし、打ち間違いも完璧に防ぐことができる。

「従来は、月次監査の時にレジペーパーに印刷された数値を伝票と突合してはんこを押す作業が大変でした。ところが、『Airレジ』では1枚の用紙を出力して、それを確認すればいい。より重要な話をする余裕ができました」(渡辺氏)

 さらに同社では、クレジットカードや電子マネー決済に対応する『Airペイ』というアプリも稼働させている。

「海外からのお客さまも増えつつあり、キャッシュレスへの対応は必要になってきます。そこに乗り遅れないよう『Airペイ』導入を決めました。また、今後は『Airレジ』の機能のひとつである顧客の個人情報や購入履歴などを管理するシステムも利用し、より精緻なマーケティングも行っていきたいですね」(山田専務)

 山田専務の夢のひとつは、自らが60歳を迎える頃に、年商50億円、社員100名規模の会社にし、地域に利益を還元していくことだという。そのためには、石田経理事務所との連携や『Airレジ』の活用などでしっかりと計数管理を行い、財務的基盤を確保しながら適切な投資をしていく必要がある。「加えて、技術の継承にも気を配る必要があるでしょう。結果として、日本の正しい食文化を後世に伝えていくという創業以来の理念を堅持できればと考えています」

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 山田醸造株式会社
創業 1891年
所在地 新潟県新潟市北区葛塚3119
売上高 約1億円
社員数 12名
TEL 04-7136-7030
URL http://www.e-misoya.com
顧問税理士 税理士法人石田経理事務所
代表 石田直樹
新潟県新潟市中央区医学町通1-68-2
URL:http://www.ikeiri.com/

掲載:『戦略経営者』2018年8月号