全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)は1975年創設以来、互助の精神のもと〝創造と革新〟を積み重ねつつ、成長を勝ち取ってきた。そして、今、自動車整備業界への迫り来る荒波にも敢然と立ち向かおうとしている。

──ロータスクラブ(全日本ロータス同友会)創設のいきさつを教えてください。

成毛政孝氏

成毛 1973年に第1次オイルショックが勃発し、ガソリンの値段が跳ね上がりました。狂乱物価に「車社会も終わりだ」との声も上がるほどで、自動車整備業界にも激震が走ったわけですが、とくに、大企業の傘の下に守られていない、われわれのような独立系の会社にとっては深刻な事態でした。加えて、車両法改正により、車検がなくなるという危機意識もあった。そこで、全国の有志(374社・36支部)が集まり、自らの生存エリアを確保すべく、1975年1月に当同友会が創設されたのです。

基本精神のもと一丸となる

──やはり、大手であるメーカー系ディーラーへの対抗という意味合いがあったのでしょうか。

成毛政孝氏

成毛政孝 氏

成毛 そうです。1社だけではできないことも、志を同じくするものが集まればさまざまなことができるようになります。業界自体の存続も危ぶまれるなか、力を結集して共通の課題を解決していこうと、いきなり374の整備業社が集まったのですから、先達たちは偉大だったと思います。いわゆる「弱者の戦略」ですね。実際、車販はもとよりメンテナンスパック「スマイルメンテプラス」やメーカーの一般保証を2年間延長する「えんちょう☆先生」、中古車保証「SHUGO☆CIN」、365日24時間対応のロードサービス「ロータス365サービス」など、大手ディーラーさんが持っているサービスで、われわれが展開していないものはありません。目指しているのは「ファーストコールカンパニー」(一番先に選ばれる会社)です。大手と一線を画するには、たとえば、地域密着を徹底することが必要。地域のさまざまな行事に参加したり、交通安全キャンペーンを行ったりといったことです。そのようなきめの細かい活動がわれわれの強みだと考えています。

──とはいえ、それぞれが一国一城の主。まとめるのは大変だったのでは?

成毛 全日本ロータス同友会は任意団体であり、ボランタリーチェーンですからフランチャイズチェーンのような拘束力はありません。その分、基本的な綱領、理念、精神、行動理念(『戦略経営者』 2018年3月号30頁・写真参照)を明確に打ち出し、厳しい規定を設け、お互いに理解を深める信頼関係の構築に邁進(まいしん)しました。また、「勉強のロータス」と言われるほど教育にも力を入れたため、「面倒だ」との理由で入会を拒むところも少なくなかったようですよ(笑)。それだけ、建前ではなく、みんなが本気で勉強してきたということでしょう。いずれにせよ、組織の底流にあるのは「ロータスクラブ基本精神」です。

──基本精神……ですか。

成毛 はい。ロータス(LOTAS)とは、リーダー(経営リーダーシップと業界リーダーの獲得)、オピニオン(革新経営者に求められる見識の醸成)、トラフィックインダストリー(交通産業の範疇(はんちゅう)における経営の追求)、アミティ(親睦と互助の精神の遵守(じゅんしゅ))、ソーシャルコントリビューション(地域社会に対する貢献)の頭文字をとった名称です。とくに「リーダー」という項目に先達たちの熱い思いが込められています。経営者としてのリーダー、そして、業界のリーダーになる……これがわれわれの究極の目的です。

──リーダーの具体的な姿は?

成毛 使命感、無私、ロマン、行動力の四つを持ち合わせていることです。なかでも「無私の精神」の実践は、ロータスクラブという組織を強固にした大きな要因だったと言えるでしょう。

──成長の要因は〝精神〟にあったと。

成毛 創業時に作成した基本綱領から派生した基本理念、行動理念などを本部や支部、あるいは個々の会社で唱和するなど、徹底して浸透させてきました。また、基本精神のなかの「トラフィックインダストリー」もロータス成長の要因でした。同友(会員)のなかにはほかの業種、たとえば喫茶店をやりたいなどという声も少なからずありましたが、われわれはあえて交通産業の範疇に限定することで、散漫にならずに求心力を保つことができたのだと思います。

約75%が黒字の理由

──いまでは、1652社(51支部)の同友(会員)を抱える団体に成長されました。成功の経営的理由を教えてください。

成毛 まずいえるのは、「総合付加価値経営」の実践でしょうか。従来の整備業者は「待ちの経営」でした。それを「攻めの経営」に転換することで、ブレークスルーを起こしたのです。つまり、整備だけではない、他の周辺商品を積極的に販売し、総合的に売上高と利益を確保していこうという戦略です。ちなみに、ロータスの同友の黒字企業割合は、約75%と非常に高いレベルを維持しています。

──すごい数字ですね。

成毛 この総合付加価値経営には提携企業の存在が欠かせません。いわゆる大手企業との提携ですね。ここは株式会社ロータス(1976年設立)がその任に当たります。TKC全国会と株式会社TKCとの関係性と似ているのではないでしょうか。

──どのような提携関係なのでしょう。

成毛 車輌、タイヤ、保険、オイル、カーエレクトロニクス(バッテリー・カーナビ等)、ローン(オート・車検)、カード(ロータスカード)の分野において、リーダー的存在の大企業(12社)と提携し、共同で勉強会、研修会やキャンペーンを行ったりしながら、ウインウインの関係を築いてきました。各分野のプロに商品知識や「売り方」を教わり、一方、われわれは販売網を提供するわけです。これによって、同友は多様な商品を扱うことができ、総合付加価値経営を無理なく実践できるようになった。また、ロータス本部への会費をわずか月1万円(別にロードサービス1000円、支部会費が必要)に抑えることができているのも、提携企業の商品を販売させていただいているからこそです。

──キャンペーンとはどのようなものですか。

成毛 夏(6、7月)、春(2、3月)、秋(10、11月)の年3回行われるもので、いわゆる強化月間ですね。提携企業と一体となり、組織で取り組んでいる商材を販売していきます。値付けなどは各店舗にまかせますが、のぼりやポスターなど販促材は本部から提供します。キャンペーンでは、各店舗の実績が明らかにされ、当然、同規模の店舗であっても業績に差が出る場合があります。売り上げや利益が上がらなかった店舗は、それを支部例会などの場での仲間(同友)との情報交換によって改善していく。その繰り返しです。何かあったら仲間に聞く。お互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら、販売力をつけていくわけです。ようするにPDCAサイクルをみんなで回す試みですね。

「売れるフロント」を育成

──「人財」教育を、強力に推し進めておられる印象があります。

成毛 やはり企業は人です。われわれはメカニック研修はもちろん、フロント育成プログラム、ロータスアカデミー経営者コース、同後継者コースなど、あらゆる角度からの人財育成のための施策を実践しています。ちなみに、メカニックの育成においては、ロータススーパーアドバイザー(国家1級整備士資格以上)、ロータスサービスアドバイザー(国家整備士有資格者以上)という独自の資格を設け、研修・認定を行っています。現在、前者は約50名、後者は全体で2200名近くいますから、1店舗に1名以上は有資格者がいる勘定になります。

──フロント育成プログラムとは?

成毛 「売れるフロント」を育成するために、2014年に創設しました。今後、自動車保有台数は減少することが予想され、整備事業はシュリンクしていきます。その分、販売する力を強化する必要がありますが、その際にはお客さまとの接触面となるフロントの育成がポイントとなるでしょう。逆にいえば、フロントにまだまだ改善点があるということ。このプログラムは、3級、2級、1級とレベルアップしていく仕組みになっており、接客マナーやお客さまへの対応の仕方にはじまって、お客さまの要望を聞き取り、さまざまな商品を提案し、信頼関係を築きあげて生涯顧客にしていく能力を育てます。このプログラムの特殊なところは「効果測定型」であること。研修の前後における、たとえば車検台数やオイル交換台数など、各人の店舗での実績をシビアに測定し、その結果に基づいて認定するわけです。いくらメカニックが優秀でも、フロントが無愛想で提案もできないのでは実績が上がりませんからね。

──電気自動車など、次世代型自動車の普及による整備業界の苦境も予想されます。

成毛 現在、ハイブリッド研修やスキャンツール(外部故障診断装置)技術研修などを行いながら、電子制御分野の整備技術を蓄積し、ロータスの看板を持つ店舗で次世代自動車の整備ができる体制を整えつつあります。また、2016年には「ロータス次世代自動車取り扱い認定制度」を発足させました。

計数管理で危機意識を醸成

──経営者向けの研修会では、株式会社TKCと提携し、TKC全国会の会員税理士を講師に招いた勉強会を盛んに行われていますが、狙いは?

成毛 繰り返しになりますが、保有者台数の減少、次世代自動車の普及など、いま、自動車整備業界はターニングポイントにあります。にもかかわらず、同友の危機意識は薄いと言わざるをえません。まずは、計数管理を徹底して、自社の現状を分析することが必要です。TKC会員の税理士先生方には、そのあたりの「気づき」を与えてもらいたい。スイッチを入れてほしいですね。

──具体的には?

成毛 商品・サービス別、拠点別といった部門に分けた損益管理を教えてほしいと思っています。それによって、どこの部門が強く、どこが強化すべき部門なのかが分かる。ここが明確にならないと手の打ちようがありません。加えて、経営計画の策定法、あるいは、1人当たりの生産性(人時生産性)を把握できるような指導もお願いしたいですね。ここへきてようやく業務管理ソフトの統一化が実現しつつありますが、会計ソフトに関しても、将来的には統一化に向けて動き出す必要があるでしょう。その際には、TKCさんのお力を借りなければならないかもしれません。

──人材不足が深刻ですね。

成毛 われわれは社員1人当たりの粗利1000万円、年間賃金550万円という中期目標を掲げています。空前の人手不足のなか、ある程度、待遇を引き上げなければ良い人財は確保できないし、生き残っていけないと考えています。この目標を実現するには、まずは経営データをもとにしたシミュレーションを行い、中期経営計画を策定する必要があります。また、業績管理ができていないと、PDCAサイクルをしっかりと回すこともできない。その意味でも、TKCさんとの提携には、今後も大いに期待しています。

(構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2018年3月号