優れたデザインの導入で業績アップが実現した例は少なくない。企業経営や戦略に"デザイン力"をどう役立てていくか──。見た目だけではない一歩進んだ視点が求められている。

 デザインと企業経営のかかわりを考えるとき、ピラミッド型の3つの階層を想定すると分かりやすい。一番下の最も広いクラスは「コミュニケーション」階層で、ここでは商品の色や形、ロゴデザインなどを決めるのが主な業務になる。真ん中の「コンテンツ」領域は商品やサービスの中身を決定していく作業を指し、一番上の「マネジメント」層は経営者が直接関与する経営戦略の領域になる。当然お客さまともっとも接点のあるコミュニケーション階層が私たちの基本的な仕事場だが、近年、その上のコンテンツやマネジメント領域にまでデザインの貢献できる範囲が拡大しつつある。

 たとえば当社では最近、大阪のタオル専門商社・日繊商工が手がけたオリジナルブランド『works(ルルルワークス)』で企画からデザインまでを一貫して担当した。山形の手織りじゅうたんメーカー・山形緞通のケースではコンセプトの立案からロゴ作成、展示支援など、商品開発を含めたコンテンツ全般にわたるトータルデザインを行っている。

 事例は少ないが、マネジメント部分にかかわるデザイン活動も出始めた。熊本県の老舗しょうゆ・みそ製造会社フンドーダイのプロジェクトでは、第1弾としてドレッシングを発売した『九州キッチン』という新たなブランドをデザインしたのだが、実はこれ、単なる新商品シリーズではない。「地元産食材を使った新たな食の創造」というより広いレンジの考え方を持ち、ゆくゆくは既存のしょうゆやみそなどの個別商品をそのブランドの傘下にぶら下げる計画も含んだ、企業コンセプトそのものを変革していくようなデザインにしたのである。このレベルになると、もはや経営戦略の領域といってもよいだろう。

 このように、中小企業は今後コンテンツやマネジメント領域でデザインを活用することに妙味があるといえる。限りある資源を効率的に集約し、大きな成果を生み出す可能性があるからだ。ビジュアルの良さはもはや当たり前の話で、企業のストーリーを創造したり、商品企画や展示会出展・営業を支援したり、さまざまな領域でデザインを使いこなすことを目指すべきだろう。

 当社では企業ブランディングのプロセスをリサーチ(R)、プラン(P)、コンセプト(C)、デザイン(D)の4つに区切り、常に「フォーカス」を意識しながら各プロセスをぐるぐると回す「フォーカスRPCD®」という方法論を提唱している(『戦略経営者』2014年6月号P11図参照)。

「伝言ゲーム」を効率化する

 そこでまず重要なのは、すべてのプロセスで必要となる「フォーカス」。ブランディングの根本は差別化にあり、どうやって他社との違いを伝えるかに尽きる。それは奇をてらって目立つということではない。競合が少ない市場で、その本質的な違いや強みをいかに打ち出せるかということに命運がかかっているのである。その差別化の視点をずっと持ち続けることが肝心だ。

 フォーカスRPCD®のプロセスを段階的に追ってみよう。最初はリサーチだが、これは市場調査だけではなく自社の強みを徹底的に分析することも含む。そしてそれを計画という形に具体化し(どこにいくか決める「ポジショニング」のPでもある)、次にそれをコンセプトとして言葉で表現する。

 この「言葉」によるコンセプトの表現が意外に大切だ。言葉はぶれない軸になり、商品ラインアップや製品のネーミング、営業戦略などをすべてコンセプトに沿った形で進めることができるからである。これが固まってしまえばデザインはそのコンセプトや世界観を「見える化」するだけだ。

 デザインの本質は伝えることにある。その伝達のスピードが速まれば速まるほど、いわば伝言ゲームのスピードが速くなればなるほど、共感してくれる人も早く現れるだろう。結果的に商品やサービスを買ってくれる人が増えるのは自明の理だ。

 いかに伝言ゲームを効率化するかがデザインの要諦であるから、コンセプトの言葉は極力シンプルであるほうがよい。10個のキーワードより1個のキーワードのほうが覚えやすいのは当たり前だ。しかし社内でこれをまとめるのは大変な仕事。社長をはじめ部長、製造部、営業部、クリエーターの言いたいことはみなバラバラだからである。

 ここに、デザインに関する社内外の専門家・担当者が、開発の上流工程から経営者の横に張り付くことの意味がある。デザインの重要性を知っている人間が側にいれば、一貫したコンセプトを1個のキーワードにしぼることも可能になるだろう。本来デザインは色や形だけではなく、思想や哲学、方法論も含む幅広いツール。経営者とデザイナーが二人三脚で企業戦略・企業経営のデザインをする、という視点が今後は大きな意味を持ってくる。デザインをパッケージの変更や店舗の改装のためだけなど小手先で使ってはダメなのである。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2014年6月号