プラスチック製品の設計から生産までをワンストップで手がけるケイ・アイ・ティー。自動車や家電メーカーからの受託開発で安定的な地盤を構築しているうえ、近年はラジコン関連部材など自社ブランド製品の展開で注目を集めている。水永敦社長(43)に『FX2』を活用した財務戦略などについて聞いた。

デザイン・設計から試作までワンストップで提供

ケイ・アイ・ティー:水永社長(右)

ケイ・アイ・ティー:水永社長(右)

――プラスチック製品の受託開発がメーンと聞きました。

水永 工業系製品・部品のデザイン、設計をする会社です。他社と何が違うかというと、「ワンストップ」ということばに集約できるでしょう。通常プラスチック業界はデザイン、設計、試作、金型、成形、組み立てという流れでそれぞれバラバラの会社が縦割りで存在するのですが、当社はそれを豊富な経験により全部自社で手がけられるところに強みがあります。設計に対する責任を負わなければならない上に、意匠的感性や知的財産についての知見が必要になるので、中小零細企業で当社のように一貫して手がける会社はほとんどないのではないでしょうか。

――具体的にはどんな製品ですか。

水永 特殊車両の内装・外装部品向けなど売り上げの50%は自動車関連になっています。なかでも最近伸びているのは実験分野です。これは自動車部品の流体実験や解析に使われる部材開発を手がけるもので、かなりシェアを伸ばしています。あとは家電製品の試作品受託でも大手メーカーと良好な関係を築き上げています。

――最近はラジコン関連での自社ブランド展開が成功しているとか。

水永 趣味が高じて仲間とサーキットを運営することになったのがきっかけです。自社で確保していた倉庫を改造してコースをつくろうとしたのですが、F1で見るような赤白のきれいな縁石をつくる部材がどこにもない。ならば自社でつくろうということで、いろいろなパーツを組みあわせてコースをつくれる部材の生産に踏み切りました。

――サーキット部材の販売活動はどのようにされたのですか。

水永 私が主催するラジコンチーム「TEAM-TETSUJIN」のメンバーが全国各地の仲の良いサーキットなどに行ったときに、サンプル出荷するようにしました。すると「これはいい」と喜んでいただいたお店から追加でまとまった注文が入るようになったのです。そこで新規導入のお客さまに商品を購入いただく見返りに、当社の部材を使ったコースのサーキット写真を「TEAM-TETSUJIN」内のウェブサイトで紹介する「フレンドシップサーキット」制を導入したところ、あっという間に全国40店舗のネットワークを構築することができました。

――部材の売り上げ状況はいかがでしょう。

水永 「カーブシステム」という名称で完全プロユースとして販売していますが、国内外で順調に売り上げを伸ばしています。国内ではラジコンを横滑りさせる技を楽しむドリフトサーキットでシェア8~9割に達しています。海外での販売先も10カ国を超え、米英伊の3カ国では拠点もでき営業支援を得るところまで来ました。現在は毎月1カ国ずつ取引先が増えている状況です。
 しかし実はわれわれが強みを持っているドリフトサーキットはラジコンの世界ではほんの数パーセントのわずかなシェアにすぎません。残り90%以上の圧倒的な割合を占めているのはスピードを競うツーリングと呼ばれる分野なのですが、なんとオランダで8月に開かれるツーリングカーの世界選手権コースで当社の部材が正式採用されました。ドリフトに比べ格段に規模の大きい市場で認知度が飛躍的に向上することになり、これには大きな期待を寄せています。

ドリルダウン機能の活用で目的の数値を素早く把握

――『FX2』導入のきっかけは。

稲垣勝弘顧問税理士 春日井商工会議所で開催した経営計画活用セミナーの相談コーナーでお会いしたのがそもそものはじまりでした。くじ引きでマッチングしていたのでまったくの偶然。なにやら不思議な縁のようなものを感じてしまいます。

水永 当時依頼していた会計事務所に不満を持っていたので、明快な思考のもと会計についての質問にも懇切丁寧に答えてくれた稲垣先生とお会いして“この人”だと思いました。TKCの基本理念にも共感するところがありました。

稲垣 最初からTKCシステムの使用を前提にお願いしていましたが、すでに水永社長と経理担当の奥様(水永美津子氏)が独自の方法で損益を把握する方法を確立されており、スムーズに導入することができました。私が月に一度お邪魔して会計の中身をチェックしてその結果を毎回社長にご報告するという流れですが、その際必ず見ていただく資料は、全体の試算表、《変動損益計算書》、《部門別利益管理表》、《資金繰り実績表》などです。

――部門別管理はどのようにされていますか。

水永 試作品受託などの本業部分を「K.I.T.」部門、サーキット部材などの自社商品部門を「TEAM-TETSUJIN」部門に分けているのですが、新規事業の「TEAM-TETSUJIN」部門の数字がそれなりの大きさになってきました。また、自社商品を海外に出荷するときにラジコン関連製品の注文を受けるケースも増えてきており、この新規事業の部分をもう少し細かく「自社サーキット運営」「商品展開」「ラジコン関連製品の通信販売」の3つに細分化することを検討しています。

――『FX2』の使い勝手はいかがでしょう。

水永 とにかく機能的に引き出しが多い。ドリルダウン機能でパッパッと目的の数字まで素早くさかのぼれるところが気に入っています。また「こういう表が欲しいな」と思ったときにデータを切り出して希望する表がすぐに作れるところもいい。とくに私はせっかちな性格なので、雰囲気を読んで先回りして表を作成しなければならない経理担当者は重宝していると思います。

――毎月の巡回監査ではどんなやりとりをしていますか。

稲垣 今後社長がどんな計画を持っているか必ず尋ねています。そうすることによって次回以降、「この間言っていた東京出張の費用があがってきてるな」「その割には売り上げが立っていないな」(笑)など、それが会計にどのように反映されているかということを確認することで会社の方向性がつかめるからです。しかしあらためて思い返してみると、水永社長はいろんなアイデアをお持ちです。たとえば2009年には「開発の証券化」という独創的な事業を検討していたり……。

――その開発の証券化とは何ですか。

水永 当社がデザイン・設計から生産までワンストップで手がけるということを聞いて、多いときには月に15件ほど、他社から新商品開発の相談があります。そうした企業はおおむね特許を有しているかまたは申請中という企業が多い。そこで相談を受けた案件を売り出せる寸前の試作品段階まで当社で仕上げ、特許と一緒にしてショーケースに並べ版権と製造権をセットで販売できるマーケットのような仕組みを作ろうとしたのです。最終的には証券会社に話を持ちかけたいと思っているのですが、そのための資金力と実績が不十分でまだ事業化はできていません。しかし必ず実現したいと思っています。

世界大会での採用きっかけに自社ブランド確立目指す

――限界利益を高めるために意識していることは何でしょうか。

水永 以前は利益率を詳細に確認して、「A工業のほうが、B製作所よりも利益率が高いのでA工業に積極的に営業活動をしよう」という風に利益率の高い仕事に重心を傾けて受注をコントロールしていました。しかしここ1、2年は売上高の数字を一番重視しています。そのため合い見積もりの仕事は引き受けないことを社内で徹底しています。合い見積もりでは当然利益率も低くなりますし、売上高も落ちる。そうした仕事を避ければ自然に利益率は上がります。

――今後の抱負を聞かせてください。

水永 ラジコン関連部材の売り上げを伸ばしたいですね。世界には5000カ所以上のラジコンサーキットがありますが、そのうち95%にはまだ当社の商品が使われていません。先ほど説明した世界選手権での採用をきっかけに「TEAM-TETSUJIN」ブランドを世界で確立し、将来的に今のスタッフ10人のままで売上高50億円を目指したいと考えています。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 有限会社ケイ・アイ・ティー
業種 プラスチック製品の設計、開発、生産
代表者 水永敦
設立 2000(平成12)年8月
所在地 愛知県春日井市稲口町1丁目4-3
売上高 約1億円
社員数 10人
URL http://www.pla-kit.com/kit/

CONSULTANT´S EYE
毎月の巡回監査で社長の笑顔を作り出す
所長 稲垣勝弘
稲垣勝弘税理士事務所
愛知県春日井市柏原町3-250-2 電話050-3597-0071
URL:http://www.tkcnf.com/tkckasugai/

 ケイ・アイ・ティー様とは2004年11月からお付き合いをさせていただいております。お会いしたてのころに感心したのは、非常にきちんと事務所が整理整頓されていたこと。会計書類がきれいにファイリングされていたおかげで、毎月の監査業務を極めてシンプルに行うことができました。巡回監査では試算表や部門別損益、資金繰りなどの確認作業はもちろん、今後の事業計画について熱く語り合う時間も多かったような気がします。

 業務内容はやはりメーカーからの受託開発がメーンになりますが、ここ数年で水永社長の思考にある変化が現れてきました。受注の仕事はどうしても「お客さま次第」という側面がぬぐい切れませんが、あるとき社長が「売り上げは自分でつくるものだなあ」とつぶやかれたのです。「いよいよ本当の意味でメーカーになりつつある」と確信しました。実際「無から有をつくる」というものづくりに携わる経営者としての気概を水永さんからはひしひしと感じます。現実的にはまだ受託開発なしには成り立ちませんが、いつの日かラジコンサーキット関連の自社ブランド製品が業績の大きな柱になることを楽しみにしています。

 TKCシステムは現在、『FX2』『PX2』『継続MAS』をご活用いただいております。自社ブランド商品の展開に力を入れている現在は、実際の販売データを蓄積しながら少ない資本でなんとか結果を出す時期。近い将来金融機関に資金調達のための事業計画を提出するときには、『FX2』で作成した基礎データをしっかり提示できるようにしたいと考えています。

 私は会計事務所の所長ですが、同時に、関与先に訪問したときには「社長の笑顔をつくる製造業」でありたいとも思っています。「稲垣さんと合ったら楽しかった。よし明日も頑張るぞ」と思ってもらえるような支援を継続していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2012年8月号