薬剤師に特化した職業紹介業として確固とした地位を築いてきたユニヴ。同社を束ねる吉田雅信社長は創業以来、旺盛なチャレンジ精神と緻密な戦略で数々のハードルを乗り超えてきた。財務面の責任者である管理部の麻生純礼さん、そして田中明子顧問税理士をまじえて話を聞いた。

薬剤師と薬局・病院の間を丁寧にマッチングする

ユニヴ:吉田社長(中央)

ユニヴ:吉田社長(中央)

――創業当初は大学生の新卒採用事業からスタートされたとか。

吉田 バブルまっただ中で完全な売り手市場。学生たちは大手志向で、中堅以下の企業はなかなか良い人材が採れない時代でした。そこで、われわれは大手人材会社が大々的に展開している広告事業とは差別化し、手持ちの学生名簿を使い個別にアプローチして企業をPRする繊細な手法で中堅・中小企業のニーズを満たしてきたのです。当時は、そんな面倒くさいビジネスを行うところは少なく、加速度的に顧客が増えていきました。売り上げも初年度1000万円、2年目5000万円、以降も8000万円、1億円と右肩上がり。1998年には1億6200万円にまで拡大しました。

――しかし、そこからは一転、下降線をたどり始めますね。

吉田 98年以降、新卒採用が売り手市場から買い手市場へ転換し、インターネットの普及による学生の就活スタイルの変化などもあって売り上げはもちろん利益も思うように上がらなくなってきました。そのため、なんとか新規事業で巻き返そうと、畑違いの業種も手がけましたがさっぱりでした(笑)。で、ある時、たまたま薬剤師の友達を通して、淡路島の薬局チェーンの薬剤師採用を手がけて欲しいという依頼があり、ためしにスカウティング活動をやってみたらこれが大成功。
 当時は「医薬分業」という国の方針で、薬局を出せば儲かる時代でした。だから薬剤師は引く手あまた。人材さえ確保できれば、宝の山の市場だったにもかかわらず、そこに気づいている人は多くはなかったですね。私は「ついに見つけた」とばかりに、このビジネスに打ち込もうと決意しました。

――その後は、09年あたりまで右肩上がりの業績を続けられました。成功の理由は?

吉田 とにかく、当社の信条は「まず人ありき」。買い手である薬局や病院の意向を丁寧にくみながら、薬剤師と実際に会って要望や条件、人となりまで丁寧に聞き取り、調査をします。とくに、雇い主がもっとも気にする「人柄」は実際に会ってみないと分かりません。それも、当社や依頼先の事務所に呼びつけるのではなく、自ら全国どこにでもでかけていって話を聞きます。こんな手間のかかる細かなビジネスを手がけているところは少ないと思います。

――この事業で年商4億円近くまで成長されます。

吉田 07年までは一貫して右肩上がりでしたが10年からは下降に転じています。大手を中心に競合が激しくなり、広告費用も増大したため11年度には創業以来はじめての赤字を記録しました。これからが本当の勝負でしょう。

――突破口はありますか。

吉田 一昨年(2010年)、薬学生のための就活サイト「ファーネット」(http://www.pha-net.jp/)を立ち上げて、中途採用だけでなく新卒分野へも進出しました。ただ、この分野は大手の独壇場でもあるので、早計な売り上げ増を期待するのではなく、われわれは地道にファーネットブランドを浸透させていきたい。とりあえずは4000名の学生の登録を目指します。薬剤師は女性が多いこともあり転職率が高く、再就職需要は大きい。その再就職の際、「ファーネットというサイトに登録したことがあった」という記憶だけでも大変な違いです。つまり、ファーネットの登録者を中途向けの「ファーネットキャリア」へとスムーズに移行させていくこと。これが、今後の突破口になると思っています。

月次の“勝敗”へのこだわりが黒字経営のポイント

――とはいえ、今年度は一転して黒字を見込んでおられるとか。

吉田 赤字を出したということは、無駄が多かったということです。私自身も創業以来長年にわたり黒字を続けてきたので、どこかで緩んだ部分があったのかなと。2009年から顧問をお願いしている田中明子事務所のお力を借りながら、無駄を省いて黒字を達成することに執念を燃やしています。

田中明子顧問税理士 社長は以前から、月次決算の黒字を「勝ち」、赤字を「負け」として、「何勝何敗」かで表現する独特の考え方をお持ちで、私もはじめてそれを聞いた際には、はっとさせられました。月次の成績の積み重ねがトータルの実績につながるという信念があるからこそ、創業以来ずっと黒字を維持されてこられたのだと思います。ちなみに昨年度の決算は2勝10敗でしたが、今年度は2月までで6勝1敗です。

――すると、09年に顧問税理士を田中先生に変えられたのも、月次決算を充実させるためですか。

麻生純礼さん(管理部・経理担当) 以前は当月の決算が分かるのが2カ月後と遅く、その結果も郵送でした。担当者の方のコミュニケーション能力にも不満がありました。そんななか、私が田中事務所の税理士さんとたまたま知り合い、田中先生をご紹介いただいたという経緯です。

吉田 いまでは1カ月以内に前月の数字が確定します。しかも、「社長とつくる月次決算書」という20ページにも及ぶ冊子を毎月まとめていただいき、担当の赤堀(直樹)さんに財務の詳細を解説してもらえますから、以前とは大違いです。

――「社長とつくる月次決算書」は『FX2』の帳表をもとにしてつくられているそうですね。

田中 関与スタートと同時に導入した『FX2』の《予算実績比較表》《利益管理表》《要約貸借対照表》を骨格にして、月別3期比較のグラフ、月次推移表、あるいは分かりやすくアレンジしたキャッシュフロー計算書や担当者のコメントなども折り込みながら作成しています。

吉田 月次の内容が黒字ならブルーの表紙、赤字ならピンクの表紙になるので危機意識が高まります(笑)。また、この決算書の簡易版を社員に開示し、一緒に黒字を実現していこうと呼びかけ、社内のベクトル合わせに利用しています。

――部門別管理機能も活用されておられるとか。

麻生 はい。拠点のある東京、大阪、福岡、名古屋の各中途採用事業、それから「ファーネット」の新規採用事業、さらに本部機能の6部門に分けて管理しています。

田中 拠点別というよりは、どちらかといえば事業別に分けている感覚です。マネジメントへの活用という意味ではこれからですが、拠点・事業別に計数管理できれば、吉田社長の打ち手をサポートする有用なデータが提供できると考えています。

「薬剤師・薬局」市場でナンバーワンを目指す

――社長が毎月とくに注目される勘定科目は。

吉田 もちろん何勝何敗か、つまり、最終利益が一番気になりますが、その利益を出すには「固定費」を抑える必要があります。なかでも当社の場合のポイントは広告宣伝費ですね。このところ、競合が激化するとともに、インターネットのリスティング広告やSEO対策、雑誌広告などにかけるコストが嵩むようになってきました。たとえば、07年から10年くらいにかけて、売上高はそう変わらないのに経営が苦しくなっていったのも、広告費が増えた分利益が圧迫されたのが原因です。

――解決策は?

吉田 過去の登録者にメールマガジンを送付するなど「お金のかからない」広告宣伝活動にシフトしています。蓄積された登録者データはわれわれの資産ですから、これを最大限に活用してなるべくコストを抑えていく策を講じるべきだろうと……。このような活動が実を結び、昨年度の赤字から今年は反転して黒字を実現できそうです。

――今後はいかがでしょう。

田中 私は「かっこよく生きる」という吉田社長の標榜されている理念が大好きです。自分も社員も共に楽しみながら社会のなかで存在価値のある人間になること。この考え方のもと、社員を信頼し、仕事をまかせ、意思決定すべき時には明確かつ迅速に決断する社長が健在である限り、今後も大いに成長が期待できると思います。

吉田 褒めすぎですよ(笑)。私としては、とにかくできうる限り会社を維持していくことが目標です。できれば100年企業を目指したいですね。もっといえば、「薬剤師」「薬局」がテーマの人材関連会社としてナンバーワンになりたい。当社には、これまで6000名の薬剤師の転職を手がけた実績と専門特化したノウハウがあります。これからも積極果敢に挑戦して、市場を切り開いていきたいですね。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社ユニヴ
業種 職業紹介業
代表者 吉田雅信
設立 1989(平成元)年1月
所在地 大阪市北区西天満3-4-15
売上高 3億円
社員数 27名
URL http://www.univ.co.jp/

CONSULTANT´S EYE
ブランド認知作戦で“5億の壁”突破へ
監査担当 赤堀直樹
田中明子税理士事務所
大阪府大阪市西区京町堀1-13-19 電話06-6225-7100
URL:http://cocoro-design.com/

 株式会社ユニヴ様は、私が担当させていただいているお客様の中でも、月次報告のモデルケースの一つといえます。

 毎月、吉田社長だけでなく、藤田取締役、経理担当の麻生様を交えて月次報告を行っております。「継続MAS」を利用して予実対比を行い、前期比較をふまえて異常値を確認し、対応策などを話し合います。また、現預金残高の増減の理由もキャッシュフロー計算書を用いて説明させていただいております。

 半期を過ぎた頃には、予算どおりの利益を出すためにはあといくら売り上げが必要なのか、あといくら売り上げがあればトントンになるのかという視点に立ち、ついつい後ろ向きになりがちな会計報告をできるだけ前向きな報告になるように努めています。

 お渡しする資料はホチキスが留まらないほど分厚いものになってしまうこともありますが、その中でも吉田社長が一番気にされているのはやはり毎月の利益です。「黒字決算は毎月の黒字の積み重ねでしかない」は真理だと思います。

 月次報告の場で、麻生様の指摘を機に経費の大幅カットが実現されたり、役員様主導のもと、蓄積された過去の営業データを使った新たな営業手法が発案されたりと、吉田社長の意思決定をバックアップする体制が社内に整備されていると実感しています。

 また、吉田社長主導で新しい試みも積極的に採用されています。たとえば、毎月の月次報告の資料から抜粋して社員様用にアレンジしたものを作成し、社内で情報を共有されています。現場に立つ社員様の間でも、あとどれだけの売り上げで今月黒字になるのかという意識が高まったとお聞きし、自計化された会計データが生かされていることを大変うれしく思います。

 ユニヴ様は、文字どおり全社一丸となって毎月の勝負をされています。「5億の壁」の突破と同時に、「薬剤師・薬局のことならユニヴ」というブランドが認知されるよう、私どもも充実した月次報告をすることでお役に立ちたいと考えております。

掲載:『戦略経営者』2012年6月号