長年にわたり青森県弘前市で食品卸販売を営む、前田酒類食品販売。来年創業60年をむかえるが、流通の“中抜き”も喧伝されるなか、黒字路線を定着化している。単年度の経営計画との予実対比で業績予測の精度を高めている前田賢治社長(64)に話をきいた。
きめ細かい対応で顧客のニーズ満たす
前田酒類食品販売:前田社長(中央)
――事業内容を教えてください。
前田賢治社長 酒類と青果物をはじめとした食品の卸売り、およびミニスーパーの経営を手がけています。卸販売は業務用卸がメーンで、主な取引先はホテルや飲食店のほか、学校や病院などにも給食用の食材と関連商品を卸しています。
地元でとれたさまざまな野菜や果物、全国各地の有名銘柄の日本酒や焼酎を幅広く取りそろえているのが特徴です。
――自社で加工品も製造していますか。
前田 いえ、現在は食材等の提供のみです。市場や地元の生産者から仕入れて当社の倉庫に保管し、注文に応じて出荷をしています。消費者の食に対する安心、安全につなげていくためには、生産者の顔が見える食品を販売することが大事ですから、地元の生産者や団体などと直接取り引きするケースも今後いっそう増えてくるでしょう。将来的には加工品や自社ブランド製品も開発したいと考えています。
――社長は一時期、会計事務所に勤務されていたとか……。
前田 ええ。経理の仕事に携わりたかったため、大学を卒業して東京・八王子市の会計事務所に2年間勤務しました。八王子近辺や相模原市などの町工場を監査のため訪問し、伝票を預かり、毎月試算表を作っていました。当時はまだパソコンが出回っておらず、紙テープにパンチしていく原始的な入力方法でした。
――現在の業務にプラスになっている面もあるのでは?
前田 経理業務を経験したことが少なからず役に立っていると思いますが、そのぶん、毎月監査で来ていただいている弘前経営会計社の幸山(清栄)業務課長に対する要求のハードルは高くなっているのかもしれません。
もともと当社は1953(昭和28)年に「前田商店」という食料小売店として県内の深浦町で創業しました。それから私が72年に会計事務所を退職し、両親の営む個人商店を手伝うようになり、87年に法人化し「前田酒類食品販売」を設立、2000年に社長に就任し現在にいたります。小売部門はミニスーパー「エムスマート」として営業を続けています。
――御社の強みはどんな点にありますか。
前田 ここまで長年にわたり事業を続けてこられたのは、青果物と酒類を組み合わせた“複合経営”に取り組んできたからだと思います。時代によって青果物とお酒それぞれよく売れた時期が入れ替わってきたので、これまであまり景気の波に左右されなかったと感じています。
そして社員の頑張りですね。仕事柄、お客さまの都合にあわせる必要があるので、どうしても朝早く、夜は遅い長時間営業になります。営業時間は7時から22時までですが、青果物の担当者は朝の4時ごろから出社してきますし、酒類の担当者は夏場など夜の1時ごろまで働いていることもあります。というのもすべてはお客さまにとって便利で、利用価値のある会社を一貫して目指しているからです。
――黒字経営を続けられています。
前田 卸販売はなかなか細かい仕事です。出荷に際してはパレット単位ではなく、例えば大根なら本数やグラム単位で、青菜なら束数、グラム単位といった具合に、お客さまからの注文にきめ細かく対応するようにしています。また鮮度も大切ですから、適切な量を適正な価格で仕入れ、余計な在庫を抱えないよう心がけています。
――営業活動はどのようにされていますか。
前田 営業担当者を置いていますが、お客さまから紹介をいただくことが多いですね。長年のお付き合いを通してわれわれのことを理解・信頼していただいているからだと思います。精肉店や鮮魚店など、直接取引のない小売店から紹介いただくことも増えていて、ありがたいなと感じています。これからもまじめな仕事を堅実に、こつこつとやっていけたらと考えています。
FX+継続MASで決算対策は万全
――弘前経営会計社との関与のきっかけを教えてください。
前田 以前から個人的に剣道をたしなんでいて、幸山さんは剣道仲間のひとりだったのです。近所の会計事務所に勤めていると聞き、ちょうど税理士さんを探していたので、幸山さんを通じて弘前経営会計社さんに税務顧問をお願いしました。
幸山清栄・業務課長 実は前田社長は相当な腕前の持ち主で、72年にこちらに戻ってこられた時には「優秀な選手がやってくる」と近所中のうわさになるほどでした。青森県代表の一員として、全国大会で団体戦準決勝まで一緒に戦ったこともあります。
今井宏・弘前経営会計社社長 毎年8月1日には近くの弘前八幡宮の境内で剣道大会を主催されていて、青少年育成にも力を注がれています。現在、弘前商工会議所の副会頭をはじめ数々の要職をつとめられ、弘前の経済界を引っ張っている方のおひとりだと常々感じています。
――財務管理に戦略財務情報システム(『FX2』)を利用されているそうですね。
前田 顧問契約を結んだばかりのころは、3枚複写伝票に手書きで取引を記入していましたが、「J3100」というラップトップ型のパソコンによる運用に切りかえ、その後提供と同時に『FX2』を使いはじめました。いつも経営内容を把握しておきたいと考えていたので、願ったりかなったりでした。メールのやりとりやスケジュール管理など、もはやパソコンは日常業務に手放せない道具です。
幸山 前田社長はさきほど話されたとおり、以前会計事務所で働かれていたので会計に関する知識が豊富で、B/SとP/Lの内容を即座につかみます。前田酒類食品販売様の自計化の歩みは、TKCの自計化システム開発の歴史とだいぶ重なっているといえます。書面添付の理念にも賛同をいただき、TKC全国会から表敬状をいただきました。
――自計化は自然の流れだったわけですね。普段どんな機能を活用していますか。
前田 「最新業績の問合わせ」メニューにある「決算の先行き管理」機能をよく使っています。《変動損益計算書》を見て売上高と利益額の推移をチェックし、期末着地点の業績を予測しています。それをもとに決算に向けて不良債権対策をどうするかなど、打ち手を検討しています。手軽に大まかな予測ができるのが楽ですね。
それと売上高や仕入高、経費関係の勘定科目には枝番を設け、青果物、酒類、ミニスーパーそれぞれの内訳がわかるようになっています。売掛金は取引先別に管理しているので、どの取引先にいくら未回収額があるのか一目瞭然です。支払いが滞っている取引先は、必要に応じて社員に伝えて注意を促しています。また、現在の経理担当者は幸山さんから紹介をしてもらいましたが、日々正確な伝票を『FX2』に入力してもらっているので大変助かっています。
――『継続MAS』システムを使って経営計画を立てているとお聞きしています。
前田 当社は12月決算なので、毎年年末に近づくと当期の決算対策とあわせて翌期の計画についても検討をはじめます。『継続MAS』で「5つの質問」(次期の(1)目標経常利益(2)売上高伸び率(3)限界利益率(4)従業員賞与伸び率(5)従業員数)シートを印刷してもらって専務と常務を交えて内容を話し合います。単年度で立てた計画を予算として『FX2』に登録し、四半期ごとに進ちょく状況をチェックしています。前期比較と同時に予算比較も常に把握できるのが便利です。
幸山 5つの質問は社長に経営計画を立てていただく、入り口のツールとして非常に使い勝手がいいと感じています。
ピアツーピア活用で経営判断がより迅速に
――社長のパソコンに入っている『FX2』のデータはどのように更新していますか。
前田 『FX2』に搭載されているピアツーピア機能を活用しており、経理担当者が入力したデータがオンラインで社長室のパソコンに届くようになっているため、常に最新の業績をつかめる仕組みになっています。幸山さんの提案をうけ導入しました。会社の数字はいつも動いているものですから、伝票の内容で気になる点はその場で担当者に確認し、指摘すべき点は指摘するようにしています。
最新のドットネット版に切り替えてからはデータだけでなく、インターネットで『FX2』をバージョンアップできるようになり、いっそう便利になりました。
――今後はいかがでしょうか。
前田 東北地方は復興景気でうるおっているなどといわれますが、ここ弘前での実感は依然厳しい。最近ではインターネット取引が盛んになり、同業者の間でもよく話題にのぼります。しかしわれわれが扱っている商品は生ものなので、参入するとなると鮮度や運送の問題なども出てくるでしょう。やはり消費者の安心、安全を第一に、地場の青果物を中心とした生産者の顔が見える商売を続けていきたいと考えています。
私自身いま64歳ですが、70歳で引退し次の世代にゆずることを宣言しています。幸い優秀な社員に恵まれているので、次代を見すえじっくり後継者育成にも取り組んでいきたい。地産地消のお手伝いを通して、今後も地元・弘前のために貢献していきたいと思っています。
(本誌・小林淳一)
名称 | 前田酒類食品販売株式会社 |
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業種 | 酒類・食品卸販売、ミニスーパー経営 |
代表者 | 前田賢治 |
所在地 | 青森県弘前市和徳町113番地 |
TEL | 0172-35-6655 |
売上高 | 約10億円 |
社員数 | 38名 |
顧問税理士 | 萱野 彰 弘前経営会計社 青森県弘前市徒町8 0172-32-4381 |