徳島県内で美容室チェーン『HAIRZ』(ヘアーズ)を展開するひまわりは、2年前にPOSシステムを導入し、いわゆるワン・トゥ・ワン・マーケティングに力を入れている。大岩賢社長(61)と大岩幸史専務(32)の2人に、『FX2』を活用した部門別業績管理のポイントなどについて聞いた。

POSシステムを活用し優良顧客を増やす

ひまわり:大岩社長(前列右)

ひまわり:大岩社長(前列右)

――徳島県内で美容業を展開されているそうですね。

大岩社長 『HAIRZ』(ヘアーズ)という店名の美容室を、鳴門市(本店)、徳島市(沖浜店)、松茂町(樫野倶楽部店)の3ヵ所で運営しています。その他にも、地元のリゾートホテルに入って業務を行う「リゾートエステ」や、結婚式向けの「ブライダルエステ」の事業を手がけています。ブライダルエステに関しては、貸衣装店との連携体制をとっていて、四国地方でこのスタイルを採用しているのはおそらく当社だけです。

――美容室の主な顧客層は…。

大岩専務 女性が7割を占め、平均すると20代の来店客が多いといえます。ただ、古くから営業している本店に限って言えば、昔からのお得意様も多いため平均年齢は他の2店舗に比べて少し高めです。

――経営環境はいかがでしょうか。

大岩専務 今から10年ぐらい前、美容業界はバブルの様相を呈していました。カリスマ美容師がブームとなり、パーマやカラーに費やす金額も高めでした。しかし今は、状況がまるで異なります。美容室の数が増えたのに加え、顧客1人あたりの単価が安くなっています。厳しい経営環境であるのは確かですね。

――そんな中での経営戦略は?

大岩専務 私たちのお店を懇意にしてくださっている上得意客様に対し、より手厚いサービスを提供していくことを一つの基本方針としています。2年前、全店舗に顧客データベースを備えたPOSシステムを導入したことにより、様々な顧客分析ができるようになりました。それによって「上位10%の優良顧客が売上の35%をもたらしてくれている」といった事実が明らかになりました。これを踏まえて、来店客全体のリピート率向上を図るとともに、なかでも上位に位置する優良顧客の方にご満足いただけるサービスの徹底に努めています。

――なるほど。

大岩専務 お店にあるPOSの画面からは、顧客1人ひとりの情報をタッチパネルで簡単に閲覧できるようにしています。そのお客様の好みのスタイルや、いつも選んでいるメニューなどが記された、いわばカルテのようなものです。さらに、来店頻度や平均単価などをもとにしたVIP度合い(10段階別)のランクもわかる。スタッフはこれらの情報をもとに適切なサービスを提供していくほか、重要度の高いお客様に対して、不満足な気持ちを抱かせないように細心の注意を払っていきます。もちろんお客様同士を差別する気はないのですが、会社の経営資源は限られているため、抑えるべきポイントをきちんと抑えていくことは必要だと思っています。

――それらの取り組みの効果は出ていますか。

大岩専務 最上位ランクの優良顧客が20%増えたという成果が得られています。これは単にPOS導入による効果というわけではなく、スタッフの日頃の自発的な努力によってもたらされたものだといえます。上得意のお客様の誕生月には、スタッフ全員でお祝いの言葉を述べるといった演出をしたりと、「おもてなし」のサービスの強化に頑張ってくれています。

――そうした従業員の前向きな行動は仕事に対するモチベーションがなければ生まれません。従業員の士気向上を図るうえで意識していることはありますか。

大岩社長 一言でいえば、働きやすい職場環境づくりです。社会保険を完備したり、育児休業の制度を設けて女性が結婚・出産しても安心して働ける職場環境をずっと追求してきました。また、伸び盛りの若いスタッフにチャンスをどんどん与えているのも、みんなのやる気を引き出したいから。徒弟制度の名残が残る美容業界は、1人前のスタイリストとしてデビューするまでの下積み期間が長い。東京などにある美容室の多くは4年以上というのが普通です。でも、うちでは2~3年ほどでデビューさせることが珍しくありません。今月、地元のタウン誌にだした広告も、入って3年目のスタッフ一色で内容を固めました。

筒井義文顧問税理士 じつは大岩社長は地元高校の陸上部のコーチをしていて、これまでに優秀なランナーを何人も育てています。今年1月に開かれた全国都道府県対抗女子駅伝で徳島県は、昨年の42位から過去最高の12位に躍進したのですが、その監督を務めたのが大岩社長でした。それら陸上競技のなかで培った人材育成のノウハウは社内でもいかんなく発揮されています。

10部門別の業績管理で限界利益の推移を把握

――業績管理には『FX2』を活用されているそうですが、導入の経緯をお聞かせください。

大岩社長 当社の出発点は、妻が切り盛りしていた「ひまわり美容室」。昭和50年代に、小さなプレハブ店舗からスタートしました。地元の市役所に勤務していた私が、早期退職して代表取締役に就任したのは今から6年前のことです。ブライダルヘアメイク、エステ事業に参入するなど事業を多角化を進めていく最中でした。そうしたなかで強く感じるようになったのが、それぞれの事業や店舗別の業績がタイムリーに把握できなければ適切な会社の舵取りはできないということ。長年お世話になっていた会計事務所から、部門別管理機能に優れた『FX2』を提案されたことを受けて導入を決めました。

――現在の部門数は…。

大岩社長 いまは本社管理部門やインターネット販売事業などを含めて、合計10部門で管理しています。
 インターネット販売で扱っているのは、自社開発のオリジナル商品。『阿波ノ美』というブランド名で、鳴門わかめ配合のヘアケア商品(シャンプー、コンディショナー)や、すだち果汁を配合したスキンケア商品(化粧水、美容液)を取り揃えています。「鳴門わかめ」と「すだち」は、徳島県の名産品として広く知られています。徳島県を代表する“ご当地コスメ”として、全国から注目されています。

――部門別の業績管理をするうえでのポイントといえば?

大岩専務 各部門における利益率の推移について特に目を光らせています。各部門の限界利益や経常利益を簡単に見比べられる《部門別損益比較表》などをよく見ています。ちなみに売上については、どちらかというとPOSシステムで確認することが多いです。POSに入力されたあらゆるデータは本店事務所内で一元管理しているので、毎日の売上状況などはすぐにわかります。

労働生産性の向上が利益率アップの鍵を握る

――利益率の高い組織を目指すためには何が必要だと考えていますか。

大岩専務 従業員1人あたりの生産性をいかに高めていけるかです。美容業は、人件費率が高い。なので、従業員1人あたりの生産性を高めていくことが利益獲得という面での鍵を握ります。そのためにどんな工夫をしているかというと、予約の多い少ないにあわせて、3つの店舗間でスタッフを柔軟に動かせる体制づくりをしたことなどです。各店舗の予約状況やスタッフのシフトに関してはPOSシステムで把握できます。それをうまく使い、その日忙しい店舗に別の店のスタッフを応援に回したりするわけです。そうすれば「手待ちの時間」が減る分、間違いなく労働生産性が高まります。

――『FX2』を通じて、予実管理をしているそうですね。

大岩専務 まずは『継続MAS』を用いて策定した中長期経営計画をもとに単年度の予算を決めます。次に、その数字を『FX2』に月別登録することにより、予算と実績との対比が画面上に数字で表れるようになります。予実管理によって、社内にPDCAサイクルが根付いてきたことは非常によかったと思っています。

――業績検討会は定期的に開催されていますか。

大岩社長 毎月1回、店長会議のなかで各部門の業績検討を行っています。(1)売上(2)リピート率(3)来店サイクルという3つの視点に基づいて、各部門の状況を詳しく検討していきます。なお店長会議は、組織を横断した「横のネットワーク」が社内に築けるという点で大きな意義がありました。あるお店で好評だったサービスを店長同士が情報共有して、他の店舗がそれを取り入れるということが頻繁に行われています。

――今後の抱負をお聞かせください。

大岩社長 売上高前年比アップの流れをこのまま持続し、将来的に四国でナンバーワンの美容室チェーンになるのが密かな目標です。そのためにもITを活用した効率的な経営をさらに進化させていくと同時に、現場でのアナログ的なサービス強化を極めていきたいものです。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社ひまわり
業種 美容業、エステ業など
代表者 大岩 賢
設立 1985(昭和60)年11月
所在地 徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜586
TEL 088-685-3407
売上高 2億6000万円
社員数 40名
URL http://www.hairz.jp/

CONSULTANT´S EYE
部門別管理を通じて社長の経営改善を後押し
監査担当 日下一芳
税理士法人すばる会計
徳島市中州町1-45-3 電話088-625-2030
URL:http://subaru.tkcnf.com/pc/

 ひまわり様の監査担当になってから4年目になりますが、はじめの頃より大岩社長の経営改善に対する積極的な取り組み姿勢を感じてきました。経営改善を進めるためには、自社の「経営分析」が不可欠。そのためには、月次監査と部門別業績管理が必要であると説明し、『FX2』の導入を決断してもらいました。1年目は7部門管理を目標にし、複数の部門にまたがる共通経費については本社経費勘定で各部門に配賦していくやり方(間接配賦)をしましたが、2年目以降は共通部門を使用せずに直接配賦のかたちにしました。

 現在は合計10部門の管理をしており、「美容売上高」「商品売上高」「花嫁着付け収入」「エステ売上」などの数字がタイムリーに把握できるようになっています。《部門別損益比較表》をベースに、BAST比較を取り入れながら現状分析を行うことで、大岩社長が目指す経営改善は着実に進行しています。なお、市場の動向をみながらのマーケット分析は大岩専務の得意分野。私自身、いろいろ勉強させてもらっています。

 部門別管理によって、不採算部門がどこであるかがすぐに分かるようになったことは大きなメリット。部門別管理をはじめたことにより、収益性が劣る部門からの撤退がはやく決められるようになりました。その一方で、大岩専務は新たな市場開拓を進めており、社内のスクラップ&ビルドがうまく行われているのは間違いありません。当期も、大型ショッピングセンターに新店を出す計画が着々と進んでいます。

 今後は、『継続MAS』を活用した予算実績差異分析の支援にさらに力を入れていくつもりです。事業部門別にさまざまな検証をして、数値目標クリアのみならず、スタッフが一体化できる組織を構築するためのお手伝いを続けていきたいと思っています。

掲載:『戦略経営者』2011年4月号