2025年4月号Vol.138
【事例2】主体性を重視した標準化の取り組み
システム標準化 > 栃木県真岡市
総務部デジタル戦略課 課長 仁平映夫 氏 / 係長 石崎 努 氏 / 主事 中村貴哉 氏
- 住所
- 栃木県真岡市荒町5191番地
- 電話
- 0285-82-1111
- 面積
- 167.34平方キロメートル
- 人口
- 76,626人(2025年2月1日現在)

──2024年12月23日、ガバメントクラウド上で標準準拠システムが稼働しました。先行してこれに取り組まれた経緯を教えてください。
仁平 TKCとは、これまでも一緒にさまざまなプロジェクトに取り組んできましたが、標準準拠システムへの先行移行の提案を受けた当初は情報担当として不安もありました。
最終的に、石坂真一市長が「市民のためになるならば、ぜひ推進すべき」と決断を下し、幹部職員による全庁合意を経て先行団体としてシステムを移行することになりました。標準化では対象となる業務範囲が広いこともあり、各課が主体性を持って取り組むことを目指しました。
真岡市の組織風土は、どちらかというと慎重に物事を進め、正確性を重視する傾向にあると思いますが、標準化という共通の目標に向かって先行的に取り組むことで職員一人一人が考え、行動するきっかけになると考えました。そこで、推進体制としてデジタル戦略課が統括する形でプロジェクトチームを設置し、そこへ各課の代表者に参加してもらいました。
そして昨年末、ガバメントクラウド上で標準仕様に対応した18業務システムが稼働を開始しました。2年間にも及ぶ大規模なプロジェクトでしたが、全庁的な協力もあって無事に乗り切ることができたと考えています。
情報担当として心掛けたこと
──移行にあたって工夫したことなどを教えてください。
石崎 情報担当として、各課の職員と同じ目線で考えることを意識しました。
また、作業を進める上でまず取り組んだのは〝全庁的な意識付け〟です。プロジェクト発足時の全庁会議で、副市長から取り組みの意義を説明してもらったほか、全庁に向けた情報発信の場を定期的に設けるなど、各課との密なコミュニケーションにも努めました。
さまざまな機会を通じて職員への理解浸透を図ったことで、標準化に伴う作業の優先度が認知され、システムごとの差異分析や運用協議などのスケジュール調整もスムーズに行えました。
工夫した点としては、〝誰でも自主的にシステムを使える環境〟を用意したことが挙げられます。
移行行程では、職員に新しいシステムを検証してもらう必要があります。しかし執務室での検証となると、どうしても日常業務に気を取られ作業に集中できないことが想定されました。そこで本稼働4カ月前から検証専用の部屋とパソコン10台を確保して、職員がいつでも標準準拠システムを検証できるようにしました。
中村 検証専用の場所を用意したことで、会計年度任用職員にも標準化後の運用をイメージしてもらうことができました。従来システムと比べ、標準準拠システムはUIもかなり変更されるため、帳票発行なども含め実務をイメージした処理を事前に確認できたのはよかったと思います。
また熱心な課では、この検証環境を活用して課内職員の研修なども実施していました。
苦労した点は、国から膨大な情報が発信される中、その内容を理解しながら事務手続きなどを進める必要があることです。特に補助金申請ではタイトなスケジュールの中、補助対象の範囲などを整理して申請準備をしなければならず、もう少し余裕を持って取り組めるとよかったなと感じています。
石崎 ここで最大限活用したのが、国と自治体職員間でやり取りができる「デジタル改革共創プラットフォーム」です。
このプラットフォームはとても情報発信が早く、ディスカッションを通じて国や他団体の考えなどを確認できる点でも大変参考になりました。情報交換も活発で、他団体から教えてもらうほか、先行団体として真岡市から情報提供することもありました。これから移行作業をする団体では、ぜひこうした場も活用してはと考えます。

左から、中村主事、仁平課長、石崎係長
職員の声を改善にいかす
──標準準拠システムが稼働して、職員の皆さんの反応はいかがですか。
仁平 標準準拠システムになっても従来通りきちんと業務ができることが大前提で、これによって何か新しいことができるものでもないため、特別な反応は見られません。プロジェクトをけん引してきた立場としては、移行後も大きな混乱なく業務を継続できたことに、胸をなで下ろしています。システムが稼働した当日の朝も、デジタル戦略課がバタバタすることもなく、いつもと変わらない様子でした。
中村 標準準拠システムが稼働して、各課職員から電話やチャットでの問い合わせが殺到することも覚悟していましたが、いまのところ特にそういったことはありません。
石崎 これまで通り、業務が〝当たり前〟にできることはひと安心しましたが、システムが稼働してから日も浅く、まだ目に見えていない課題はあるのかなと考えています。例えば、従来システムと比べて処理時間がかかる場合、その原因が標準仕様によるものなのか、システムの不具合なのか、あるいは環境の問題なのかなど切り分けが困難です。
また、職員が「標準準拠システムだから」と我慢していることもあると思われ、その点ではこちらから積極的に職員の声を吸い上げていかなければならないと感じています。それをTKCにもフィードバックして、引き続き相互に協力しながら、よりよい形へと改善していきたいと思います。
標準化は「ゴール」ではない
──今後の計画などを教えてください。
仁平 繰り返しになりますが、職員一人一人が主体性を持って取り組んだことで、システム標準化/ガバメントクラウド移行を無事に完遂することができました。ただ、これは〝ゴール〟ではなく、自治体があるべき姿に向けた〝スタートライン〟だと捉えています。
真岡市では、これまでもDXビジョンとして「ハイフレックス市役所」を掲げ、取り組みを進めてきました。今後は、ガバメントクラウドという最新のデジタル基盤と標準化のメリットを最大限に活用して、職員負担を軽減しつつ、市民サービスの一層の拡充を目指したいと考えています。
例えば、住民データを他の業務システムとセキュアにデータ連携することで、市民が本当に必要としているものが見えるようになり、より適切なサービスを提供することができるのではないでしょうか。
その一端として、標準化を機に基幹業務システムが持つ基本情報・資格情報と「かんたん窓口システム」との間で標準仕様に準拠したデータ連携もできるようになったため、今後、窓口サービスへの組み込みも予定しています。
また、インフラやインターフェースが統一されることで、新たなサービスの迅速導入や他団体への横展開もしやすくなるでしょう。その点では、ぜひ国やベンダーには積極的な他団体の事例共有や導入支援などを期待しています。

掲載:『新風』2025年4月号