更新日 2026.08.31

株式会社 KPMG Forensic & Risk Advisory
シニアマネージャー
渡辺 慎一郎
従前より、子会社(特に海外子会社)の不正に悩む日本企業が後を絶ちません。そこで、当コラムにおいて、5回にわたり近年の不正事例の傾向や注意すべき法規制の動向、不正の原因および必要な対策とその実務事例を解説します。
当コラムのポイント
- 最近の傾向として、経営者不正が増加している
- 国内外の内部通報や取引先管理に係る法規制には注意を要する
- 不正の最大の原因は「一人仕事」であり一人仕事対策が不正対策の基本だが、今後はデータを有効に活用したモニタリング手法の高度化が必要不可欠な時代となる
- 目次
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前回の記事 :第3回 国内外に共通する不正の原因と今後に重要かつ必要な対策
1.決算データ分析・仕訳データ分析
どのような企業であっても、国内外・規模・業種などを問わず、必ず会計データが存在します。そのため、まず会計データの分析について説明します。
(1) 決算データ分析
大規模な会計不正は、決算データ分析により早期に発見できる可能性があります。決算データ分析は、5期比較、可能であれば四半期決算で5期比較することが推奨されます。会計不正は、営業キャッシュフローと税引前当期利益との差異が年々乖離する傾向がありますが、売掛金・在庫の増加という形で現れることが多いため、売掛金や在庫の回転期間が年々高まります。期末に無理な販売を計上し、翌期首に取り消すケースが多々あるため、四半期でモニタリングすることが肝要です。例えば、第4四半期の売掛金・在庫の回転期間と、翌期の第1四半期とのバラツキの程度が年々大きくなる傾向が顕著な場合、取引条件やリードタイムの大きな変更がない限り、会計不正の疑いが高まります。また、第4四半期の粗利が急上昇し、翌期の第1四半期の粗利が悪化する規模が年々大きくなる場合も、会計不正の疑いが高まります。
会計データは、グループ会社の会計システム・勘定科目がグループで統一されていれば、細かな勘定科目単位での分析が期待できます。グループ各社の会計システムが異なり、勘定科目もグループ各社で異なる場合には、分析ツールを準備し、データを補正して勘定科目の統一等の調整を要しますが、連結パッケージで収集したグループ各社の決算データの活用も有用です。連結パッケージの勘定科目の粒度は荒いかもしれませんが、決算データ分析は「木を見て森を見ず」に陥らないための手法ですので、まず実践することが肝要です。
(2) 仕訳データ分析
従前からCAAT(監査支援)ツールを用いて、仕訳データを検証する実務はありましたが、不正の早期発見に役立たなかった事例は多いです。例えば、次のようなケースです。
- ① 仕入計上は購買管理システムのデータに基づく自動仕訳が基本であるにもかかわらず、異常なハンド仕訳が相当数あったものの、個々の仕訳検証に固執し、不正のハンド仕訳を見抜けなかった。
- ② 異常とみなす抽出条件を設定したが、個々の抽出条件に該当する仕訳数が相当数に上り、リソース面から十分な検証ができなかった。
①のケースの失敗を防ぐためには、ハンド仕訳データの全体像(例:入力者と承認者が同一の仕訳データ、前年との仕訳データのパターンとの比較)の分析的手続が重要です。
②のケースの失敗を防ぐためには、複数の抽出条件にヒットした仕訳を中心にモニタリングすることが肝となります。
例えば、下記のような仕訳データを発見した場合は、会計不正、着服・横領等の不正が疑われます。
- ✓ (借方)売掛金 (貸方)現預金 のように、通常の仕訳ではあり得ない仕訳
- ✓ 摘要欄に、不正の兆候にあたるような文言(例:調整、特別、その他の隠語)
- ✓ 休日・深夜などの異例な時間帯での仕訳
- ✓ 同一相手先との取引で、計上と取消が急増・頻発している仕訳
- ✓ 幹部クラスが直接に入力している仕訳、など
なお、仕訳データをモニタリングする場合、分析ツールを導入しても不正を容易に発見できるとは限りません。「A子会社の内部管理は1名のベテランに依存し、支払承認・支払処理も当該ベテランが直接行っている」「未知の取引先との購買が急増している」という状況の場合、「A社では購買取引でベテランによる不正取引があるのではないか」等の不正のシナリオを想定して、抽出条件を設定することが肝要です。分析ツールは「魔法の杖」ではありません。
2.販売管理システム・購買管理システム・電子メール等のデータ分析
(1) 販売管理システム・購買管理システム等のデータ分析
グループで共通のERPを採用している場合、親会社がグループ各社の会計データ(決算データ、仕訳データ等)を入手することは容易です。
一方、グループで共通のERPを採用していない場合には、グループ各社、ひいては各事業で販売管理システム・購買管理システム等はバラバラであることが多く、データの様式・項目なども様々となります。そのため、親会社が会計データから異常性の有無を抽出する条件設定を行うためには、グループ各社が利用している個々のシステムのデータの状況を確認する必要があります。
実務的には、親会社は会計データをもとに作成した決算データ分析から高リスクと考えられるグループ会社を特定します。特定されたグループ会社の仕訳データ分析から要確認の取引があった場合に、当該取引に関連する業務支援システム(販売管理システム・購買管理システム等)のデータを分析する、と段階を踏んだステップが必要となります。
(2) 電子メール等のデータ分析
会計帳簿から不正を発見できる場合もありますが、カルテルやキックバックのように会計帳簿からは発見が困難な不正も多くあります。そのような会計帳簿から発見が困難な不正は、電子メール等のデータをモニタリングすることで発見できることがあります。
とはいえ、電子メール等のデータ数は膨大ですので、まずは電子メール閲覧の専用ソフトを用いて、重複メール排除やメルマガ等のメールデータの削除などを実施することが必要です。そのうえで、不正の兆候を示す「例の件」「費用付替」「調整」などの不正の兆候を示すキーワードを設定し、閲覧したいメールデータを抽出します。ただし、抽出したとしても、一般的に考えられるキーワードでヒットする電子メール等のデータは相当数になることが通常です。この点については、AIを活用した効率的なモニタリングを行うことも考えられますが、それだけで不正を十分に発見できるとは限りません。
不正の発見が難しくなる背景として、組織的かつ大規模な不正の事案に共通していることは「隠語」による会話が多いという点が挙げられます。例えば、会計不正の事案では、将来の利益を前借りして先行計上するという意味で「借金」、エビデンス資料の改ざんという意味で「エビ」、カルテル等の調整行為の意味で「握り」などの隠語が、実際に過去弊社が実施した調査で散見されました。
そのため、AIを活用しても、このような隠語の発見は難しく、やはり相当数の電子メール等のデータについて、人の目で隠語の有無を確認するプロセスは非常に重要です。
3.インテリジェンス調査
(1) インテリジェンス調査とは
インテリジェンスとは 「収集した多様な情報を分析・統合し、意思決定に役立つ知見へと変換する知的能力や活動全体」をいい、単なるデータや情報ではなく、目的に沿って取捨選択し、文脈を踏まえて意味づけされた判断材料としての知識をいいます。
インテリジェンス調査は、主に「オープンソース調査」(OSINT)と「側面実地調査」(HUMINT)とがあり、目的等に応じた調査を実施することが肝要です。例えば、海外の新たな取引先との取引開始前の審査や、取引先による人権侵害や環境汚染の有無の調査、海外のM&Aや合弁の交渉相手の調査など、相手に知られることなく調査を行う事例は多いです。
(2) オープンソース調査の有用性
オープンソース調査は、会社登記簿・登録などの公的情報や訴訟記録・制裁情報あるいはメディア情報やソーシャルメディア情報といった幅広い公開情報の収集・分析を行います。世界各国の言語でのこれら情報の網羅的な収集・分析を行うことで、調査対象に知られることなく、または相手先のアンケートの回答に依存しない形でリスク情報を収集できる可能性が高まります。実務上は様々なデータベースツールによるサービスがあり、企業は自らの状況を踏まえて、使いこなすことができる最適なツールを選択する必要があります。
〈 第5回へつづく 〉
この連載の記事
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2026.08.31
第4回 不正リスク対策の実務事例(データ活用型のモニタリングを中心に)
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2026.08.03
第3回 国内外に共通する不正の原因と今後に重要かつ必要な対策
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2026.07.10
第2回 最近の注意すべき法規制の動向と必要な対策
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2026.06.25
第1回 最近の国内外の不正リスク事例の傾向と注意点
テーマ
プロフィール
渡辺 慎一郎(わたなべ しんいちろう)
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