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マーケティングや人材採用など、SNSは今やビジネスを有利に進めるうえで欠かせないツールである。SNSを積極的に活用し、成果を挙げている中小企業の事例と、活用上の注意点について取材した。
- プロフィール
- とみた・りゅうすけ●2019年に株式会社TaTapを創業。SNSマーケティング支援事業を展開。今までに累計300アカウント、600万フォロワーの支援実績を誇る。ユーチューブチャンネル「SNSマーケティング_TaTap」で、SNSマーケティングに関する解説動画を配信中。
中小企業がSNSを活用するうえでのポイントとは何か。主要SNSの特徴と販売促進における活用法について、SNSマーケティングの支援事業を展開する富田竜介氏が解説する。
──SNSでの情報発信が、消費者の購買行動に与える影響について教えてください。
富田 商品・サービスの種類や店舗展開の有無などによって程度の違いはあるものの、SNSでの情報発信は消費者の購買行動に大きな影響を与えています。それは、消費者が主に次のプロセスを踏んで、商品やサービスの購入を検討しているからです。
- 商品・サービスの存在を知る
- 類似の商品・サービスと比較する
- 目星をつけた商品・サービスの評判や評価を調べる
SNSはこれらをすべてカバーしています。例えば、①では商品・サービスを知るきっかけとして、②では類似する商品・サービスを検索するための手段として、③では商品・サービスの評判を検索するための手段として、SNSが活用されているのです。
とりわけ鍵を握っているのが③で、今や消費者の多くが、企業が発信した内容よりも消費者の口コミを参考に、商品・サービスの購入を判断する傾向にあります。最近は口コミを調べるためのプラットフォームが、グーグルやヤフーなどの検索エンジンから各種SNSにシフトしつつあることから、SNSでの情報発信の必要性は日増しに大きくなってきています。
特性に応じて使い分ける
──日本における主要なSNSの特徴を教えてください。
富田 現在、日本で多く利用されているSNSとして、①LINE②X(旧ツイッター)③フェイスブック④インスタグラム⑤ティックトック⑥ユーチューブ──の6つがあげられます。それぞれ、特徴について説明します。
- LINE
日本で最も多くのユーザーが利用しているサービスで、アクティブユーザーの数は人口の70%以上にあたる9,500万人にのぼると言われています。個人だけでなく企業もアカウントを開設しており、中小企業でも美容室やエステサロン、EC事業者を中心に幅広い業種で活用されています。1対1でやり取りするツールであることから、拡散性は乏しいものの商品・サービスに関する情報を、顧客に対して確実に届けられるなどの特徴があります。 - X(旧ツイッター)
140字以内の短文を投稿できるサービスです(有料プランでは長文の投稿も可)。情報の拡散性や検索性に優れており、商品・サービスの評判や意見を収集・分析するために活用している企業も少なくありません。BtoBの会社であれば経営者や事業責任者クラスの人が個人アカウントとして情報発信することで、自社のサービスに対するリード(見込み客)の獲得が期待できます。また、BtoCの会社であれば、商品やサービスの情報を発信することで認知の大幅な拡大が期待できます。 - フェイスブック
実名登録が特徴のサービスで、日本での利用者数は2,600万人にのぼるといわれています。メインユーザーは30代以上のビジネスパーソンなので、この世代を対象にサービスの認知拡大を図りたいときに有効です。居住地や年齢といったユーザーのパーソナルな情報が蓄積されているので、特定の層に対象を絞って広告を発信することも可能です。 - インスタグラム
写真や動画を投稿できるサービスで、商品・サービスの魅力をビジュアルで訴求できる点が特徴です。日本では10~20代を中心に3,300万人がアカウント登録していると言われており、商品・サービスの使用方法や使用後の効果・感想を調べる手段として使われることが多いです。企業はもちろん、商品・サービスの愛用者とつながりたいという意欲の高いユーザーも多いので、BtoCやBtoBtoCといった消費者向けに事業展開している企業との相性が特に良いです。 - ティックトック
短尺の動画を投稿できるプラットフォームです。10代半ば~20代半ばの、いわゆるZ世代を中心に利用が広がっていることから、若者の認知拡大を図ることはもちろん、若者の間で流行しているコト・モノを調べるための手段としても活用できます。 - ユーチューブ
ユーチューブでは長尺の本編動画と、短尺のショート動画の2種類の動画を投稿できます。本編動画では自社やブランドが掲げる理念、商品・サービスのアピールポイントなど、自社が訴えたいことをじっくりと時間をかけて発信できます。一方、ショート動画はインスタグラムやティックトックと同様に、商品・サービスの特徴をビジュアル付きでコンパクトに発信することができます。
ちなみに、ユーチューブはグーグルアカウントでログインすることで、投稿主や他の視聴者とコメントやアンケート等を通して交流を図れることから、最近は主要なSNSの一つとして数えられています。
──これらはどのように使い分ければ良いのでしょうか。
富田 商品・サービスの特性や、ターゲットとなる世代に合わせて使い分けると良いでしょう。例えば、商品・サービスを広く認知させたいなら拡散性の高いXを、既存顧客と密なコミュニケーションを図るならLINEを、商品・サービスの好感度を高めたいならインスタグラムを使うといったように使い分けることをお勧めします。
時間をかけて関係を構築
──SNSで情報発信するにあたり、中小企業がまず取り組むべきことは何でしょう。
富田 継続的に運用できる体制を整えることです。SNSでは広告費を抑えながら商品・サービスのPRができる半面、販売促進の効果が表れるまでに時間がかかるという特徴があります。SNSによる情報発信をきっかけに、売り上げアップや集客数の拡大など一定の成果をあげるには、ユーザーと綿密にコミュニケーションを取りながら長期間かけて良好な関係性を構築し、ファンを増やしていくことが欠かせません。
──運用を任せる社員を選ぶ基準は?
富田 SNSの担当者には、商品やサービスを詳しく理解している人、愛着がある人を任命するとよいでしょう。商品・サービスへの愛着が高いほど、情報発信に前向きに取り組むことが期待できるからです。単にSNSに詳しいだけだと結果が出ないことに焦りを感じたり、やりがいをなくしたりして投稿が滞る可能性があります。SNSの運用を定着させるためにも、担当者は商品・サービスへの理解度や愛着を軸に選ぶとよいでしょう。
エンゲージメントに注目
──SNSを運用するにあたり、注視するべき指標はありますか。
富田 エンゲージメントにはぜひ注目するようにしてください。エンゲージメントとは「いいね」やコメントの数、投稿の保存回数、シェア回数、アカウントの滞在時間など、ユーザーが投稿やアカウントにどのような反応を示したかを測る指標です。エンゲージメントを伸ばすには、商品・サービスの魅力やメリットといったユーザーにとって有益な情報をこまめに発信する、コメント欄やダイレクトメッセージ(DM)に寄せられた質問に迅速に答えるなど、ユーザーと綿密にコミュニケーションを取ることが効果的です。こうした取り組みを積み重ねることで商品・サービスの認知度が高まり、売り上げや集客のアップにつながります。
──その一方で、SNSには不適切投稿による「炎上」のリスクがあります。万が一、投稿が炎上してしまった場合の対応策を教えてください。
富田 例えば、一次対応として投稿に関する見解や姿勢などを発信し、二次対応として当該投稿を取り下げるなど、批判や苦言が相次いだ場合に実施する業務の流れを、あらかじめ整理しておくことが重要です。今や多くのユーザーがSNSを利用している以上、何がきっかけで炎上するか分かりません。発信する側が問題ないと判断した内容でも、投稿後に批判が殺到することもあり得ます。万が一批判や苦言が殺到しても冷静に対応できるよう、業務の流れを整えておくことが大切です。
(インタビュー・構成/本誌・中井修平)