コスト高など厳しい経営環境が続いていますが、従業員の頑張りに応えるべく冬季賞与を支給する予定です。中小企業の相場はどの程度でしょうか。(製茶業)
今冬の民間企業の賞与相場を展望すると、1人当たり支給額は前年比+2.5%となる見通しです。今夏の支給額は同+2.3%だったため、今年は夏、冬ともに増額が見込まれます。増額の背景として、賞与算定のベースとなる所定内給与(基本給)の引き上げが挙げられます。9月の所定内給与(一般労働者)は足元で前年比2%台半ばと、春闘での賃上げを反映して上昇しています。
中小企業でも、所定内給与の伸びに沿って賞与が増額されると見込まれます。平均支給額は30万円弱が目安になるでしょう。今夏の賞与でも中小企業(事業所規模5〜29人)の1人当たり支給額は、28万3,327円で昨年から増加し、今冬もこの傾向が続くと考えられます。
さらに、最近は賞与を従来支給していなかった中小企業も、賞与を支給しはじめています。今夏に賞与を支給した事業所の割合は中小企業で70.0%と、昨夏の62.3%から大幅に上昇しました。これは、割合が横ばいだった事業所規模30人以上の企業とは対照的です。
賞与を支給する中小企業が増加している背景には、人手不足の深刻化が挙げられます。中小企業における人手不足の影響は大企業以上に深刻で、とくに建設業やサービス業などでは、営業活動等を制約しています。中小企業では新たな人材の獲得や、既存人材の引き留めに向けて、労働者の待遇を改善する必要性が強まっており、この影響が賞与にも及んでいるとみられます。
円安の進行で収益減も
今後の賞与の動きについては、収益が下振れするリスクに注意が必要です。とくに「円安」は多くの中小企業にとって、減益要因となります。大企業と異なり、中小企業では海外向けの販売は少ない一方、原材料など海外からの仕入れが多いためです。ウクライナ戦争が始まって以降、円はドルに対して急激に減価し、収益を圧迫してきました。
日本銀行が金融政策の正常化に着手したことから、夏場にかけて為替レートは一時、円高方向に進みましたが、米大統領選挙でトランプ氏が再選されてからは、再び円安ムードが強まっています。日銀「短観」9月調査によると、中小企業は今年度下半期の為替相場を1ドル=144.05円(平均値)と想定しています。仮に、円安が再燃する場合、多くの中小企業は想定外の収益下押し圧力に直面し、賞与の引き下げを余儀なくされるとみられます。
中小企業が賞与を含む賃上げを持続するためには、人件費の増加を適切に販売価格へ転嫁することが必要です。政府は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定し、発注側から価格協議の場を定期的に設けることを推奨してきました。発注企業が指針にしたがって価格協議の場を設け、受注企業は積極的に価格転嫁を要求することが求められます。さらに、中小企業が自社の商品・サービスの魅力を高めることも、取引先や消費者が値上げを受け入れやすくするうえで重要となるでしょう。