やないは祖業である文具販売に加え、不用品の回収、特殊清掃、リフォーム事業と幅広い事業展開を強みに、毎期安定した収益をあげている。箭内達也社長、箭内志穂取締役に新日本総合税理士法人の福吉徹管理部長、益岡明子監査担当を交え、同社の多角化戦略とそれを支える業績管理手法を聞いた。
不用品販売代行サービスで経営危機からV字回復
箭内達也社長
──多彩な事業展開が特徴的です。
箭内達也社長(以下社長) 当社は1945年に祖父が創業した会社で、もともとは文具・書籍・玩具の専門店としてスタートしました。その後、不用品の回収、住宅や店舗のリフォーム・解体など、時代の変化に合わせて新しい事業に挑戦しています。
──それぞれ系統の異なるビジネスですが、新しい分野への進出を志した背景を教えてください。
社長 一番の要因は大型商業施設やインターネット通販の台頭により、文具だけでは採算が取れなくなったことです。特にネット通販が浸透したことで、2000年以降、売り上げが下降線をたどるようになりました。「このままでは会社を閉じるしかない」と廃業を考えたこともあります。ただ、何の手も打たずに廃業するのはとても悔しかったので、かねて取得していた古物取引の免許をもとに始めたのが、不用品の販売代行サービスでした。
箭内志穂取締役
箭内志穂取締役(以下取締役) 09年ごろだったでしょうか。地域住民から募った不用品をネットオークションで販売し、売り値から手数料を差し引いた分をお返しするというビジネスモデルでしたが、リサイクルショップよりも買い取り額が高いことが口コミで広まり、またたく間に買い取りの依頼が殺到したのです。結果、業績が回復し、廃業の危機を切り抜けることができました。
──そして、15年には不用品回収事業「エコヤナイ」を立ち上げます。
社長 不用品を集めるなかで「タダで構わないから引き取ってほしい」という要望が多く寄せられました。こういった声を耳にするなかで、不用品の回収にニーズがあることを察知し、廃棄物の収集運搬に関する免許を取得して立ち上げたのが「エコヤナイ」です。個人だけでなく、行政機関、不動産管理業者、賃貸保証業者などからの依頼も多く、「持ち主が亡くなったので引き取ってほしい」「住人が介護施設に入るので部屋を空にしたい」などの要望も多いことから、家財や日用品の回収のみならず、生前整理や遺品整理、孤独死物件の特殊清掃も請け負っています。
付加価値拡大を追求し次々と新事業を手掛ける
──その後、住宅や店舗のリフォーム事業「Y’s Homes」を立ち上げた理由は?
社長 特殊清掃業務の付加価値を高めるためです。昨今、新型コロナや酷暑などを原因とする孤独死が社会問題となっています。先ほど説明したように当社でも孤独死物件の清掃を多く請け負っていますが、清掃後のニーズとして「物件のリフォームや解体処理もお願いしたい」という要望が多く寄せられるようになりました。こうした声に応えるべく、建設業の免許を取って立ち上げたのが「Y’s Homes」事業です。当初は清掃後のリフォームや解体工事が多かったのですが、最近は一般の賃貸住宅や店舗の改修、リフォームの案件も増えつつあります。
──やみくもに新事業を展開しているわけではないのですね。
社長 何の脈絡もなく新事業に挑戦していると思われがちですが、そうではありません。既存事業の品質向上、付加価値拡大を追求した結果、今の事業形態に落ち着いたのです。
取締役 私自身、会社の成長に貢献したいという思いから、宅地建物取引主任者の資格を21年に取得しました。その結果、遺品整理や特殊清掃からリフォーム、物件の売却までワンストップで対応することができ、「やないさんのおかげで物件をスムーズに売却できた」など、励みになる声をもらう機会も多くなりました。
益岡明子監査担当
──ところで、新日本総合税理士法人と顧問契約を結んだ経緯は?
社長 6~7年ほど前に参加した異業種交流会で知り合ったことがきっかけです。以来、税務や会計にとどまらず、経営に関するあらゆることを相談しています。
益岡 毎月の巡回監査では証憑書類の確認や仕訳のチェックといった作業よりも、事業やサービスにまつわる意見交換に多くの時間を割いています。顧客の声や要望を形にするべく、いろいろなアイデアを構想される社長の姿勢はとても素晴らしいと、毎月訪問するたびに感じています。
手書きの記帳から脱却し経理業務の効率化を実現
──『FX2クラウド』の導入目的を教えてください。
福吉徹管理部長
社長 一つは経理業務の効率化を実現するため。もう一つは最新の業績を詳細かつ迅速に管理し、対策を素早く立てるためです。当社では取締役が管理業務を担当しており、記帳は手書きで行っていましたが、事業が拡大し部門の数が増えたことで処理が追いつかなくなりました。同時に、部門ごとの最新業績を把握することに時間を要していたので、これらの課題を解決するために『FX2クラウド』の導入を決めました。
福吉 やないさんが『FX2クラウド』を導入したのは新システムとして提供された直後で、私が担当している企業では最も早く導入されました。このほかにも、「銀行信販データ受信機能」や「証憑保存機能」「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」も機能搭載後すぐに利用を開始するなど、新機能の活用にも積極的です。
──『FX2クラウド』で経理業務はどのように変わりましたか。
取締役 仕訳の入力を省力化する機能が豊富にそろっており、これらを活用することで経理業務の効率化が図れていると感じますね。特に、当社は預金取引が多いので「銀行信販データ受信機能」はとても重宝しています。現在は事業数が増え、取引の数も手書きの頃と比べて倍近くに増えましたが、経理にかかる労力はむしろ小さくなっていると感じます。
左から 店舗には文具が所狭しと陳列されている、不用品回収、特殊清掃も請け負う
部門を9つに分けて事業の好不調を把握
──経営管理面ではいかがでしょう。
社長 各部門の最新業績をこまめにチェックし、車両や機械設備の購入、従業員の採用・配置換えといった意思決定の参考にしています。このほか、部門別売上高の推移と前年同月比をまとめたグラフを社内に掲示するとともに、従業員用のスマホアプリでも共有しています。これは従業員の要請で始めたことで、「自分たちの頑張りと業績との因果関係が一目で分かるようになった」と仕事へのモチベーションを高めている様子がうかがえます。
──部門はどう分けていますか。
社長 「文具(小売り)」「文具(卸売り)」「リサイクル用品」「駄菓子」「ネット販売(アマゾン)」「ネット販売(メルカリ)」「ネット販売(ヤフーオークション)」に、「エコヤナイ」「Y’s Homes」を加えた9つに分けています。業績を細かく管理することで事業の好不調を迅速に把握でき、対策を素早く立てることができています。
──ところで、MISで決算書を開示していると聞きました。使い勝手はいかがでしょう。
社長 東和銀行、埼玉りそな銀行、埼玉縣信用金庫、武蔵野銀行、日本政策金融公庫の5金融機関に開示しています。このサービスを活用することで金融機関との関係が密接になったと感じますし、まとまった資金が必要になったときもスピーディーに融資を引き出すことができました。
──最後に今後の目標を。
社長 従業員が長く勤めることのできる仕組みを整備したいと考えています。例えば高齢で肉体労働が辛くなったら、体への負担が小さい部門に異動できるようにするなど、従業員が生涯を通して働きやすい環境をつくることが当面の目標です。
(取材協力・新日本総合税理士法人/本誌・中井修平)
名称 | 有限会社やない |
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業種 | 文具の小売・卸売、不用品の回収、 住宅・店舗のリフォーム等 |
創業 | 1945年 |
所在地 | 埼玉県蓮田市東5-9-13 |
従業員数 | 15名 |
URL | https://yanai-group.co.jp |
顧問税理士 |
新日本総合税理士法人
代表社員税理士 雨海賢一 埼玉県さいたま市浦和区北浦和1-8-12 松岡STビル5F URL: https://sns-tax.jp |