通信機器や精密機械など、ありとあらゆる装置に搭載されている「プリント基板」。電子技販の北山寛樹CEOは、プリント基板をモチーフにしたアート雑貨で新たな市場を切り開いている。
- プロフィール
- きたやま・ひろき●1971年生まれ。2008年10月に電子技販の代表取締役に就任。幼いころからプリント基板の芸術性に魅力を感じ、14年には「基板とは完璧に計算された芸術である」を旗印に基板アート雑貨ブランド「moeco」を立ち上げる。基板アート雑貨で会社の知名度が向上し、現在20代の正社員が半数を占める。
北山寛樹氏
「基板とは完璧に計算された芸術である」をモットーに、電子機器に用いられるプリント基板をモチーフにしたアート雑貨を製造販売しています。実家の2階に工場があり、幼いころから家業の手伝いなどを通じて基板に触れてきた私は、次第に基板が持つ美しさに魅了されるようになりました。当社のブランド「moeco」は、基板の芸術性を前面に押し出した商品を多数そろえています。
ラインアップはアイフォーンケース、ICカードケース、名刺入れといった小物が中心で、デザインも東京23区や関西広域の路線図、ニューヨークやパリなどの地図をあしらったものから、「スター・ウォーズ」「機動戦士ガンダム」といったエンタメ作品とコラボしたものまで幅広くそろえています。なかでも人気なのがアイフォーンケースで、国内のみならず米国や中国など諸外国での売れ行きも好調です。特に好評なのが電池なしで光るLEDライト。ケースの裏面にアンテナ回路を搭載しており、端末から発する電波を回路を通して電力に変換し、昇圧することで光るという仕組みで、この技術は特許を取得しています(『戦略経営者』2023年11月号P5 写真参照)。
デザインは基板設計用のCADで行っています。マウスで線を引くという細かい作業ですが、この緻密な作画が基板の芸術性を高めているのです。
試作事業で技術力が向上
当社は父が1976年に立ち上げた会社で電子機器や部品の商社としてスタートし、その後、基板の製造も請け負うようになりました。当社の基板は公共交通機関の液晶式案内表示や高速道路のETCゲートなど、さまざまな製品に搭載されています。
創業者である父の営業力、そして顧客と長年築き上げてきた信頼関係を強みに取引先を増やしてきましたが、2000年以降、産業機器の製造拠点が海外にシフトし、父と懇意にしていた取引先の担当者が相次いで定年退職したことで次第に受注が低迷。「外部環境の変化にもろい」という課題が顕在化するようになりました。
当時は取締役として現状を打開するためのアイデアをいろいろと考えましたが、結局は実行できずじまい。悩みに悩んだ結果、06年に大阪府立大学(現大阪公立大学)経済学研究科経営学専攻に入学し、経営学の理論を学ぶことを決めました。社会人学生として過ごした2年間は経営者としての糧となっており、特に新規事業を計画する際の「判断基準」を磨くことができたと感じています。
大学院の学びを武器に、在学中の07年8月には念願の新事業を立ち上げました。「試作STATION」という研究開発者向けの事業で①CAD設計②基板製作③部品調達④実装──の4つの工程を最速2日で仕上げるサービスです。
新事業をPRするべく展示会に積極的に出展し、高品質かつ短納期で試作できることを発信したところ引き合いが相次ぎ、それまでつながりがなかった首都圏の上場企業との新規取引が増加。売り上げの拡大につながりました。さらに顧客ごとに異なる要望を形にしてきたことで、基板設計に関する知識量や技術力も飛躍的に向上しました。試作事業で培ったものづくりの知識や技術は、基板アート雑貨事業を立ち上げるにあたっての礎になっています。
デザイナーとしても活躍中
基板アート雑貨事業を立ち上げたのは展示会用の企画を社内で募ったところ、ある女性社員から「基板をモチーフにしたアクセサリーを作ってはどうか」という意見が出たことがきっかけでした。13年の春先のことです。
「社長がテレビの取材で話した『基板萌え』という言葉が印象に残っていた」という社員の一言を参考にブランド名を「moeco」と銘打ち、さまざまな展示会に出展しました。ある中小製造業向けの展示会では2日間で26点、8万5,000円の売り上げを記録。ここで代官山蔦屋書店の文具担当者の目に留まったことを機に、本格的に雑貨事業に進出しました。
当初はアクセサリーだけだったのが、名刺ケース、アイフォーンケース、ICカードケースと徐々にラインアップを拡充していきました。「ブランディング力を向上させるためには販路を増やしたほうが良い」と代官山蔦屋書店さんにアドバイスいただき、14年の夏頃から販路を拡大。現在は国内で15にのぼる雑貨店や書店で取り扱っているほか、自社ECサイトでの販売も行っています。16年には基板アート雑貨事業単体で黒字が出るまでに成長。過去には1年間で約4,000万円もの売り上げを上げたこともあります。
ありがたいことに最近はデザイナーとしてのオファーも相次いでおり、栄養食品のホームページのデザインを手がけたり、デザイナー向けの講演会の講師を務めたりもしています。基板アート雑貨の販売はもちろん、こういったデザイナーとしての活動を通じて、基板が持つ美しさを広く発信していくことが今後の目標です。
(取材協力・関西合同会計事務所/本誌・中井修平)
名称 | 株式会社電子技販 |
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業種 | プリント基板の設計製作、基板アート雑貨の製造販売 |
設立 | 1976年11月 |
所在地 | 大阪府吹田市豊津町62ー8 |
売上高 | 4億5,000万円 |
社員数 | 24名(パート含む) |
URL | https://www.denshi-gihan.co.jp |