改正公益通報者保護法の施行が間近に迫っているそうですが、事業者はどのような点に留意し、社内体制を整備すればよいでしょうか。(菓子製造業)
2020年6月に改正された公益通報者保護法が22年6月1日に施行されます。同法は、公益通報者が事業者や外部(処分監督権限のある行政機関・報道機関等)に公益通報をした場合に、事業者がそのことを理由として、不利益を課すことを禁止する法律です。
旧法では、雇用契約の労働者、派遣労働者が保護対象者とされていました。改正法では、①退職後1年以内に公益通報を行った「元労働者・元派遣労働者」②取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事などの「役員」も含まれるなど、対象が拡大されました(改2条)。ただし、役員が外部に通報する場合は、通報前に調査是正措置に努めたことが要件となります(改6条2号イ、同3号イ)。
従来は、この法律が別表に掲げる刑法等の定める犯罪行為(刑事罰)の事実のみが対象とされていましたが、改正法では、公益通報者保護法および別表が定める過料(行政罰)の事実も「通報対象事実」となります(改2条3項1号)。例えば、事業者が設置しているヘルプデスク(ホットライン)に、「上司からセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントを受けている。被害を解決してほしい」といったハラスメント通報がなされるケースがあります。この通報が改正法の別表の法律にある刑事罰、行政罰の事実に該当すれば、公益通報者保護法の対象となりますが、該当しなければ同法の適用はありません。
調査担当者の設置を
保護に関するおもな内容は、以下のとおりです(改3条、5条)。労働者については、公益通報を理由とする解雇、降格、減給、退職金不支給その他不利益な取り扱いが禁止されます。その他不利益な取り扱いとは、自宅待機命令、昇給の不利益、退職の強要、必要のない雑務の要求、退職金の減給などが当てはまります。派遣労働者については、公益通報を理由とする派遣契約の解除、派遣労働者の交代要求などが禁止されます。
改正法は役員が公益通報した場合に「報酬の減額その他不利益な取扱い(解任を除く)」を禁止します(改5条3項)。だた、事業者は役員を解任できます(同3項)。他方、解任された役員は、事業者に対して損害賠償請求を行えます(改6条)。また、公益通報により事業者に損害が生じても、事業者は通報者に対して損害賠償請求ができません(改7条)。
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、「公益通報対応業務従事者」を定める義務があります(改11条1項)。従事者とは、通報を受けて調査し、必要に応じて是正措置を行う業務(公益通報対応業務)の担当者です。さらに、内部公益通報対応体制の整備、その他の必要な措置をとる義務があります(改11条2項)。詳細は消費者庁の指針・指針解説を参照してください。
労働者の数が300人以下の事業者では、従事者の設置および体制整備は努力義務です(同条3項)。なお、労働者の人数の計算において、パートタイマーは繁忙期のみ一時的に雇い入れる場合を除いて含めますが、役員は除外されます。グループ会社では、法人ごとにカウントします。
従事者は正当な理由なく「公益通報者を特定させるもの」を漏えいしてはならない義務があり(改12条)、その違反には刑事罰(30万円以下の罰金)が科されます(改21条)。指針解説には「公益通報者の氏名、社員番号等のほかに、性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には該当する」と記載されており、注意する必要があります。