- プロフィール
- はまだ・よしろう●滋賀県近江八幡市出身。廃品回収業を営んでいたときに農機具の売れ行きがよいことに気づき、中古農機具の買取販売に特化したビジネスモデルを構想。個人事業主として2009年から事業をスタートする。2011年12月にリンクを設立し代表取締役社長に就任。
濵田義郎 氏
当社は不要になった農機具を買い取り、ヤフーオークションなどで販売する事業を「農機具王」のブランド名で展開しています。全国21カ所に直営店があり、「電話一本で全国どこでも訪問」「故障車やパーツの買い取りもOK」「即日現金化」などのサービスが評価され、2020年7月にショッパーズアイ社が公表した農機具買取販売サービス10サービスを対象としたサイト比較イメージ調査で、ナンバーワンを獲得しました。農機具を売りたい人・買いたい人双方から高い支持を得ています。
中古の農機具を買い取って販売する現在のビジネスモデルで事業を始めたのは09年です。それまで私は滋賀県近江八幡市で廃品回収業を営んでいて、回収した品をヤフオクなどで販売していました。しかしある時、農機具の売れ行きが良くなってきたことに気付いたのです。壊れた農機具をそのままジャンク品として販売しても、すぐに買い手がつくほどよく売れるようになりました。このまま廃品回収業を続けていくかどうか迷っていた時期だったこともあり、思い切って農機具に特化したビジネスを始めることにしました。
最初は地元の近江八幡市を中心にチラシをポスティングし、問い合わせや反応があったらすぐに出張査定に駆けつけました。その場で現金購入し地道に商品を仕入れ、修理のノウハウも一から蓄積していきました。今でこそ上場企業が参入している市場ですが、当時は農機具の査定が難しいというイメージがあったのか、運搬の手間がかかるのが嫌だったのか、新規参入する企業はほとんどないがら空きの市場だったこともあり、先駆者として業界を引っ張ってくることができたと思います。
とはいえそのうち大手が参入してくることは十分予想できたので、私はできるだけ早くリアルの店舗網を全国に整備することでアドバンテージを拡大しようと努めました。農家数を基準に進出する地域を決め、関西地方、九州地方、関東地方などに少しずつ店舗を増やした結果、現在は21拠点にまで拡大しました。店舗は店長と販売担当、営業・買い取り担当、整備担当などだいたい5人程度で構成しています。
アジアや欧州市場も視野
今ではこのリアル店舗の存在が当社の大きな強みになっています。車の売り買いを想像すると納得してもらえると思いますが、ある程度高額なものについては、値段が大して変わらないとすれば、ネットで知り合った見ず知らずの人や、違う地域から出張してくる営業員よりは、近所の顔の見える人と売り買いしたいと思うのが人の心ではないでしょうか。
実際顧客の一番近い距離にいるメリットは日々実感しています。例えば最近は買い取りで3、4社相見積もりをとるケースが増えていますが、当社はタイミングをみて2回目の提案をすることが可能です。これが全国に拠点を持たない企業ではなかなかできません。2回目、3回目とコミュニケーションを重ねることで金額の再提案もできますし、リアル店舗の存在が他の会社に顧客が流れることを防止していると感じています。もちろんネットの活動を軽視しているわけではなく、グーグルの検索連動型広告、フェイスブックやLINE公式アカウントなどのSNS、ユーチューブなどで満遍なく広告展開を行っています。
顧客の7割はコメ農家なので、取り扱う農機具もコメの生産に関するものが多いですが、それ以外の作物は地域によって全く異なるので、農機具の種類も各店舗によってかなり違いが出てきます。そのため店舗作りに共通のマニュアルを作成するのではなく、基本的に各店長や各支社長の裁量に任せています。各店舗が自律的に運営されているので、トライアンドエラーの数は普通のフランチャイズよりはかなり多いのではないでしょうか。定例会議でそうした情報を共有し、成功した取り組みをスピーディーに横展開できるのが当社の強みだと思います。
リアル店舗を重視している当社の戦略においては、人材が非常に重要になってきます。そこで私はまず、各店舗が存在する地域の平均的な給与水準を上回る待遇を実現することを心がけています。またチームの中で従業員の適切な居場所が存在するかどうか、一人一人が夢をかなえるために職場で学びを得ているかどうかも重要です。これら3つの基準のうち少なくとも2つで満足してもらえる職場づくりを目指しています。
さらに従業員のやる気やアイデアを積極的に支援する研修補助制度や社内ベンチャー制度があるのも当社の特徴です。「店長をやってみたい」というアルバイトスタッフに店舗運営のノウハウについての研修を行ったり、日本人とフィリピン人を両親にもつ女性社員の「フィリピン支店を開きたい」という希望を後押ししたりもしました。
現在企業としての採用活動は社員からの紹介がほとんどです。自分が働いている店舗に知り合いや家族を「うちにおいで」と誘うことができる店舗作りができるかどうかが最も重要だと考えているからです。
今後はウェブ上の集客により注力し、オンライン上の中古農機具市場トップスリーを維持していきたい。またリアルの営業は今後も生き残りのキーになり続けるでしょうから、北海道などであと5店舗は直営店をオープンさせたいと考えています。またプレハブを使った期間限定の臨時店舗への取り組みも進めており、先日3日間だけオープンした新潟県佐渡島ではチラシによる集客で多くの人が集まりました。
そもそも中古の農機具市場が拡大しているのは、農家が新品を買う余裕がなくなってきたことの現れでもあります。農業従事者の減少が加速すれば、中古農機具が余剰になることも予想されます。そのためアジアや欧州など海外市場での販売も本格化していきたいと考えています。
(インタビュー・構成╱本誌・植松啓介)