一般消費者との接点づくりを目的に、ものづくりの現場を公開する「オープンファクトリー」。全国各地で開催されているこの催しがコロナ禍でどのような変貌を遂げているか。新常態をレポートする。
漆器に和紙、焼物、メガネ……。地場産業が集積する福井県丹南エリアで、毎年開催されている名物イベントがある。ものづくりの祭典「RENEW(リニュー)」だ。鯖江市、越前市、越前町を会場に、多彩な工房見学やワークショップが行われる。コロナ禍からの再生の決意を示すべく、昨年は「Re:RENEW2020」に改称。半径10キロ圏内にひしめく7つの産地から、76社が参加した。
会場の最北端に位置するのが、鯖江市の「眼鏡エリア」だ。国内で生産されるメガネフレームの90%超が福井県内で生産され、鯖江は言わずと知れた一大産地である。メガネ素材・部品の卸売業を営むキッソオは、2017年以降リニューに参加している。
「当社に立ち寄られる方はのべ人数で、毎年200人ほどでしたが、昨年初めて300人を上回りました。例年に比べてファミリー層が減り、若者が非常に増えた印象があります。さまざまなイベントが中止となり、出かける機会を探していた人が多かったためかもしれません」(吉川精一社長)
来場者は会社見学や、リングやブレスレットなどのアクセサリーづくりを体験した。所要時間は15~60分ほど。ワークショップには、500円のバングル製造から1万円の手づくりリング製造まで、4種類のメニューを設けた。用いたのはメガネフレームに使用される、セルロースアセテートと呼ばれる素材。廃棄処分する予定だったフレームカラーサンプルも、バングルづくりに活用した。
「新色が発売されると、廃版となるカラーサンプル品が発生してしまいます。捨ててしまうのはもったいないので、バングルにしてみたら面白いかもと再利用しました」
同社のビジネス領域は、メガネ部品の販売にとどまらない。近年けん引役となっているのが、09年に立ち上げたアクセサリーブランド「KISSO」である。
県外のファンが訪問
KISSOの何よりの特徴は、セルロースアセテートで製造される点。綿花を原料とする自然由来の素材として、その機能が近年見直されつつある。「新たなプラスチック素材が開発されるなか、メガネフレームに用いられる材質は変化しておらず、進化しなかったことが逆に脚光を浴びる要因となった」と吉川社長は語る。40~60代の女性がメインの購買層で、百貨店内の期間限定ストアを中心に販売していた。しかし昨年以降、出展予定だった催事がおしなべて中止に。そうしたなか、リニューは顧客との接点をつくる上で貴重な場となった。
「以前、催事で出展した大阪や京都、名古屋などのエリアから、多くのファンの方々が訪れてくれました。なかには、当社のアクセサリーを200種類ほどそろえているコレクターの方もいました。ワークショップ以外にも、福袋を販売したり、アクセサリーを無料で磨いたりして、交流を深められたと感じています」
3日間の開催期間中、従業員が交代でワークショップの運営や工場の案内役を担った。出展を重ねるごとに、恒例の行事として社内に定着。工場内の整理整頓が習慣化するなどの効果も得られた。また眼鏡エリアの企業同士が、来場者をクルマで送迎しあう"連携プレー"も見られた。
昨年開催された「リニュー2020」には、オンライン配信されたコンテンツもある。出展社の製造した限定商品のならぶストアを開設したほか、「リニューTV」と銘打った工房見学やトークイベントも盛り込んだ。
同社も期間限定のオンラインストアに商品輸送用の廃パレットと、リングに使用される原石セットを出品して完売となるなど、経営面における効果も見逃せない。「なかでもメガネバングルワークショップはうちのヒット商品」と吉川社長が話すとおり、鯖江市がPR活動を県外で行う際、ワークショップセット一式を貸し出す機会もあるという。
リニュー出展の余勢を駆り、昨年末には本社工場の敷地内に直営店をオープンした。
「従来、事務所内にスペースを設けて、リングをはじめとするアクセサリーを販売していました。でも百貨店内に設けているおしゃれなポップアップストアと比べると、あまりにも事務所然とした雰囲気だった。そこで、駐車場の一角に店舗を設けたわけです」
KISSOは、それぞれ色合いや柄の異なる1点モノ。実物を確かめようと、近県から駆けつける愛好者も少なくない。
運営スタッフとして活躍
リニュー2020の会場では、そろいの法被(はっぴ)をまとった若者の姿も目立った。イベントの企画、運営支援を行う「あかまる隊」と呼ばれる、有志のサークル活動だ。事務局と連携してトークイベントやワークショップを企画し、ソーシャルメディアによる情報発信もになった。メンバーには、同社に今年入社した新卒者も加わっていた。
「あかまる隊では、イベントの設営、受付から広報活動まで、ボランティアスタッフとして幅広い経験を積めます。入社前の大学生には、今後も入隊してもらおうと考えています」
新卒学生との接点は、インターンシップを通して得られた。県内のものづくり企業が集まる「産地の合同採用説明会」に参画しており、昨年は地元大学のデザイン科に在籍していた4名の学生を、インターンシップ生として受け入れた。学生たちがインターンシップでおもに取り組んだのは、自社で抱える課題の解決策を出しあう「アイデアソン」。販売促進、広報活動に関する斬新なアイデアを仕入れられたという。
「ソーシャルメディアで商品PRを行う際、閲覧した人はどんなシーンで心を動かされるか、あるいはリニューなどのイベントをいかに活用するか、といったテーマで話し合ってもらいました。社員にとって気づきが得られ、アイデアを当社の財産としてビジネスに役立てていきたいと考えています」
この合同説明会は、今年2月には「産地の合説2021インターン版」として開催された。キッソオも名を連ね、就業体験や会社見学を受け入れた。「今年のリニューでは、歴史部やEC部などのさまざまな部活動を設けていて、観光部の一員として、観光のまちづくりの方策を話し合っています」と吉川社長。7回目となる「リニュー2021」は、10月8日から10日まで開催される予定となっている。
(本誌・小林淳一)
名称 | 株式会社キッソオ |
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設立 | 1995年3月 |
所在地 | 福井県鯖江市丸山町4-305-2 |
売上高 | 3億円 |
社員数 | 10名 |
URL | https://japan.kisso.co.jp/ |