公益財団法人福武財団

左から宮本英二監査担当、石井一夫経理担当部長、
村上喜郎税理士

「現代アートの聖地」として注目が集まり、瀬戸内国際芸術祭も開催される直島。その直島をはじめとする五つの島にアート施設を有し、地域振興活動に取り組んでいるのが福武財団だ。「民間企業に匹敵する事業収入を管理するため、信頼性のある会計システムの導入が不可欠だった」と話す石井一夫経理担当部長に、『FX4クラウド』を活用した財務管理の詳細を語ってもらった。

3本柱の事業を展開し地域振興の一翼を担う

──大まかな事業内容を教えてください。

石井 当財団は直島福武美術館財団をはじめとする三つの財団の合併により、2012年に設立されました。経営母体のベネッセグループが掲げる「Benesse(=よく生きる)」という基本理念のもと美術館事業、助成事業、自主・共催事業を手がけています。
 美術館事業として直島、豊島(てしま)、犬島を中心に、地中美術館やANDO MUSEUMなど合計20のアート施設を運営しています。単なるアート活動ではなく、あくまで地域活性化に主眼を置いているところが活動の特色です。

──地中美術館では、来場者に対して15分おきの入場予約制を採用しているそうですね。

石井 地中美術館は、ベネッセホールディングスと当財団の展開するアート活動「ベネッセアートサイト直島」の中核施設です。特に瀬戸内国際芸術祭開催期間中は大勢の人々が訪れ、混雑の緩和が課題になっていました。そこで18年にインターネットによる入場予約制を導入し、快適な環境で作品を鑑賞していただけるよう努めています。
 現在は新型コロナ対策として、来場者にマスク着用と消毒液による手指洗浄をお願いするとともに、検温も実施しています。また地域住民の方々に安心してもらえるよう、丁寧な説明ステップを踏んだうえで再開館しました。

──助成事業、自主・共催事業ではどんな取り組みをしていますか。

石井 助成事業で展開しているのは、「アートによる地域振興助成」と「瀬戸内海地域振興助成」の二つのプログラムです。全国にはアートプロジェクトにより地域振興を担う組織が数多くあり、さまざまな活動を支援しています。他方、後者のプログラムでは、瀬戸内海エリアで地域振興活動に取り組む人々を支援対象としています。
 自主・共催事業は、地域の人々による創造的かつ文化的な表現活動や、地域間交流活動を支援する事業です。3年おきに開催している瀬戸内国際芸術祭の運営はその代表例で、知名度が年々高まり海外から訪れる人も大勢います。

──外国人観光客の占める比率はどのくらいですか。

石井 インバウンドは近年非常に増加していて、ざっと5割近くにのぼります。ただ、新型コロナの影響は甚大で、インバウンドの集客は当面見込めません。われわれは原点に立ち返り、創業より行ってきたベネッセアートサイト直島の活動の本質的価値をさらに掘り下げ、広く発信していくことに力を入れているところです。具体的には、オンラインフォーラムや連続トークの開催などを企画しています。

──巷間(こうかん)、アートに対する関心の高まりを感じます。

石井 昨今、アート感覚や社会貢献活動をビジネスに取り入れる動きも見られ、注目度が増しているのを実感しています。多様な物の見方を発見できるワークショップの開催など、ベネッセとの協働での研修事業を今後強化していきたいと考えています。

階層・グループ管理で45事業を詳細に分析

──税理士法人おかやま創研と顧問契約を結ばれた時期は?

石井 当財団の前身である直島福武美術館財団が設立された04年です。私は11年から経理部門を担当していますが、前任の担当者の紹介を受けお付き合いが始まりました。当初は別の会計ソフトを利用していたと聞いています。

──TKCシステムに移行された背景を教えてください。

石井 04年の地中美術館の開館を皮切りに、犬島精練所美術館、豊島美術館など運営するアート施設が年々増え、施設や事業ごとの収支採算管理の必要性を感じていました。しかし当時利用していた会計ソフトには、詳細な業績管理機能が備わっていませんでした。
 財源面についてふれておくと、当財団はベネッセホールディングス発行株式の8.1%を保有しており、その配当収入は収入総額の約3分の1にあたります。これは、公益法人が民間営利企業の株主となり、配当により社会貢献活動を行うという、当財団理事長・福武總一郎の提唱する「公益資本主義」の考え方に基づいています。残りの3分の2は美術館事業による事業収入です。他の公益法人に比べると、民間企業に近い収益構造を有しているのが特徴です。
 通常年で8億円ほどの事業収入があり、業績をしっかり管理する必要性を感じTKCシステムを導入しました。

──その後『FX4クラウド』に切り替えられたわけですね。

石井 TKCシステムを導入したのは、クラウド版が発売される以前のバージョンでした。当時はシステムのレベルアップがあるたびにパソコンにDVD-ROMをセットし、更新作業に追われたのを覚えています。『クラウド』に移行後、インターネット経由で自動更新されるようになり助かっています。ネットの回線速度は犬島では若干見劣りするものの、直島、豊島は問題ありません。

──各拠点でシステムを利用されているとか。

石井 ええ。事業現場で運用しているパソコンは10台程度あり、現場の従業員が財務データを閲覧できる体制にしています。計数管理意識を浸透させるためです。たとえば「事業別勘定科目残高」メニューを開くと、アート施設別の収支計算書を把握できます。予算と実績を比較して大きな差額があれば原因を分析し、報告してもらうようにしています。

──そのほか、どのような機能を活用されていますか。

石井 頻繁に活用しているのは、やはり事業別の財務諸表を閲覧するメニューです。なにしろシステムに45事業ほど登録しており、各アート施設で行われる事業も部門に分けて管理しています。さらに芸術祭関連の予算を別コードで管理。複雑な部門管理を整理するために階層、グループ管理機能を活用しています。事業別に詳細な財務データを把握できるようになった点が『クラウド』に移行して感じている最大のメリットです。

──巡回監査時、特にチェックされている点は?

宮本 石井部長が話されたとおり多額の事業収入があるため、消費税区分が正しく入力されているかをチェックすることが多いですね。月次データの入力も民間企業なみに早期に行われており、毎月15日前後に直島にある事務所に訪問しています。訪問前にふだん利用しているパソコンでシステムを起動し、月次データをあらかじめチェックしたうえで監査に臨めるのは便利です。

石井 昨年の消費税率の変更の際も、何も準備する必要もなく自動的に変更され、安心感がありました。

──会計事務所の支援をどのように感じていますか。

石井 7年ほど前に税務調査が入った際は、長時間にわたり支援いただき心強かったです。当財団は12年に公益財団法人の認定を受けると同時に、公益目的事業1本になりました。以前、美術館内の物販事業やカフェ事業は、収益事業として法人税の課税対象となっていたので、定期的な税務調査を受けたものと認識しています。

──今後の方向性は?

石井 中期経営計画に基づいた活動を進めていきます。具体的には①より地域に②よりアジアに③より持続可能な活動・組織への三つの基本方針が示されており、その方向に沿った動きを進めていきます。しかし、足元の事業環境は非常に厳しい状況です。われわれは改めて創業の原点に立ち返り、ベネッセアートサイト直島の有するアートの先進性や地域の多様性といった、本質的価値をさらに掘り下げ、広く発信することに努めていきます。こうした取り組みが結果として業績改善をもたらすものと確信しています。

(中四国統括センター・藤澤修一/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 公益財団法人福武財団
設立 2012年10月
所在地 香川県香川郡直島町2249番地7
職員数 84名
URL https://fukutake-foundation.jp/
顧問税理士 税理士法人おかやま創研
代表社員・所長 村上喜郎
岡山県岡山市北区西古松2丁目24-5
URL:https://www.okayama-zeimu.com/

掲載:『戦略経営者』2020年8月号